著者
染谷 梓 大槻 公一 村瀬 敏之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.1009-1014, 2007-10-25
参考文献数
17
被引用文献数
6 13

西日本のある採卵農場において発生した大腸菌症について報告する.隣接する産卵鶏舎に2ヶ月間隔で導入された18〜21週齢の3鶏群(各27,000羽)において,導入の2〜4週後に1日あたり10数羽〜40羽の死亡が認められた.剖検の結果,気嚢及び心外膜における淡黄色の滲出物,肝包膜の線維素性滲出物による肥厚,股関節内側の暗赤色混濁,総排泄腔の損傷が認められた.病変部スワブより大腸菌が純培養状に分離されたため,大腸菌性敗血症であると考えられた.染色体DNAのXbaI切断後のパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)パターンにより遺伝的に近縁と考えられる株(パターンA)がすべての鶏群から分離され,84.6%(22株)を占めた.この株において,PCRにより,病原性に関与すると考えられているastA, iss, iucD, tshおよびcva/cvi遺伝子を検出した.本菌株とは近縁ではない,異なる2パターン(B及びC)を示す3株及び1株がそれぞれ異なる2鶏舎より分離された.これらの菌株が保有する病原性関連遺伝子の組み合わせはそれぞれパターンAの菌株とは異なっていた.以上の成績より,すべての鶏群より分離された遺伝的に近縁な株がおもに発症に関わったものと思われた.死亡数の増加がいずれの鶏群においても産卵開始期であったため,発症には産卵開始の関与が示唆された.
著者
村瀬 敏之 大槻 公一
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

サルモネラに感染した鶏は本菌に汚染された鶏卵を産出する可能性がある。産卵直後では卵黄よりも、菌の増殖には適当な環境ではない卵白内に菌が存在する場合が多いといわれているため、鶏卵内のサルモネラは、卵黄膜を介して卵黄内に侵入することによって増殖を開始すると考えられる。本研究では実験的汚染モデル卵を用いて、卵内におけるサルモネラの動態を各種血清型間で比較し、抗サルモネラ卵黄抗体の存在がサルモネラの動態に及ぼす影響を検討した。SPF鶏卵の卵黄膜上にサルモネラ(SE並びに血清型インファンティス(SI)及びモンテビデオ(SM))の生菌を100個接種し、25℃で6日間インキュべートしたところ、卵黄内への侵入率及び卵黄内菌数は血清型間で有意な差を認めなかった。また、本菌が卵白内を卵黄に向かって運動することはまれであるが、卵黄の近傍に存在することは増殖に好都合であることが示唆された。SM自然感染を認めるコマーシャル産卵鶏が産出した卵の抗サルモネラ卵黄抗体を検討したところ、断餌による換羽の誘導に伴い感染した鶏が増加した可能性が示唆された。供試卵からサルモネラは検出されなかった。不活化SEワクチンを接種したコマーシャル採卵鶏が産出した卵とSPF卵を用いて、汚染モデルによりSEの卵内動態を比較した。卵黄内への侵入性には両卵のあいだに差が認められなかった。しかし、卵黄にSEを直接接種し24時間後の生菌数は、SPF卵に比べワクチン接種鶏から得られた卵において有意に少なかった。したがって、卵黄内のSEの増殖が卵黄抗体により阻害される可能性が示唆された。