著者
大辻 隆夫 塩川 真理 加藤 征宏 松葉 健太朗
出版者
京都女子大学・京都女子大学短期大学部
雑誌
京都女子大学発達教育学部紀要 (ISSN:13495992)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.39-50, 2005-01-31

本研究の目的は,高校心理学導入の是非に関する基礎資料の収集及び導入にあたっての課題を明確にすることにある。高校2年生252人(男子96人,女子156人)及び教員42人を対象に調査及び考察をおこない,次の知見を得た。(1) 高校生は全体として高校心理学への関心を高く示し,とくに女子が積極的な関心を示した。(2) 高校生及び教員が,高校心理学の内容として期待する領域は,高校生で1位心理検査,2位コミュニケーション,3位カウンセリングであり,教員では1位メンタルヘルス,2位コミュニケーション,3位青年心理学であった。(3) 高校心理学の授業担当者として,高校生及び教師のいずれもが臨床心理士による授業を望んだ。(4) 教師は,高校心理学を新教科として設置すること,あるいは総合学習の授業時間を利用して教えることに関心を示した。これらの知見を受けてあえて提案するならば,高校心理学は,総合学習ないしは選択制教科として導入し,現時点では現在配置されている臨床心理士であるスクールカウンセラーを授業担当者として活用することが一案として考えられる。
著者
井ノ崎 敦子 大辻 隆夫 大辻 隆夫 OTSUJI Takao
出版者
京都女子大学発達教育学部
雑誌
京都女子大学発達教育学部紀要 (ISSN:13495992)
巻号頁・発行日
no.6, pp.61-71, 2010-02

本研究は, DV被害女性のためのサポートグループの開発とその効果について検討することを目的とした。研究1では, DV被害女性のためのサポートグループの効果に関する仮説を提示することを目的として, サポートグループに参加した7名のDV被害女性のプロセス分析を行った。その結果, 1.DV被害への囚われ, 2. DV被害の客観的理解, 3.過去のトラウマ体験への直面, 4.自己肯定感の表明, 5.現在最も深刻な被害への直面, 6.現実的対処の提案という6つの段階を経て心理的自立を促進させるという仮説が見出された。続く研究2では, 研究1で提示されたサポートグループの効果に関する仮説を検証するために, 別のグループに参加した3人のDV被害女性のプロセス分析を行った。その結果, 5の段階を除く, 5つの段階(1~4, 及び6)が妥当なものとして確認された。これにより, サポートグループの効果に関する仮説はほぼ支持されたと言える。
著者
大辻 隆夫 塩川 真理
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION FOR MENTAL HEALTH
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.69-78, 2000

共感 (empathy) には, 治療的共感と発達的共感が考えられる。本研究は, 後者の発達的共感について就学前児とその母親を対象とし, 特に幼児の不安に対する母親の応答と子どもの共感能力の関係を実験的に検討した。被験者の子どもには, 主としてMillerらを参考に構成した, 次の手続を通して共感指標を得た。(1) 闘病生活を送る子どもを主人公とするVTRを見せた後, その主人公に対する感情を尋ねる (感情報告)。(2) VTRの主人公に対し, 寄付を行うか否かを選択させる (向社会的行動)。(3) 道徳的葛藤場面における行動のしかたとその理由を尋ねる (道徳的推論)。被験者の母親には, 罪悪感等を原因として子どもが不安を喚起される場面を2コマの絵と物語 (PPSTE) で示した質問紙に, 被験者自身であればどのように子どもに応答するかを回答させる。母親の回答については, 受容-拒否および表出-道具の2軸に基づき応答を4つの型に分類した。筆者らは, 共感が認知的に知ること (cognitive knowing) よりもむしろ情動的に知ること (emotional knowing) に基礎づけられていることから, 子どもと母親の各指標間の関係を検討し, 母親の応答が幼児の共感性の発達に与える影響について, 次の知見を得た。母親による子どもの感情の代理的な表出及び感情的要求の理解の伝達等の受容-表出的応答は, 男児の共感性を高める (適切な感情反応: r=.684, p<.01及び高次の道徳的推論: r=.558, p<.02) が, 女児においてはこの限りではなく, そこに性差が見られた。