著者
村田 政穂 奈良 一秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.195-201, 2017-10-01 (Released:2017-12-01)
参考文献数
58
被引用文献数
1 3

トガサワラ林の外生菌根菌 (以下,菌根菌) の種構成や出現頻度が土壌の深さによってどのように変化するかを明らかにするため,成木の菌根と埋土胞子の種組成を調べた。奈良県三之公川のトガサワラ林内の25 地点において,四つの土壌深度区別に土壌ブロックを二つずつ採取した。二つの土壌サンプルのうち,一つからは成木菌根を取り出し,DNA 解析によって菌種同定を行った。もう一つの土壌サンプルは,埋土胞子の種組成を調べるためバイオアッセイに供試した。バイオアッセイではダグラスファーとアカマツ実生を宿主とし,育苗後にDNA 解析で菌種を同定した。その結果,成木の菌根菌の出現頻度と菌根菌種数は土壌深度が深くなるにつれて減少する傾向がみられたが,菌根菌の埋土胞子は最も深い土壌で出現頻度が高くなる傾向を示した。また,埋土胞子の菌根菌はショウロ属のみが検出され,それらの感染によって苗の成長は有意に促進された。埋土胞子は攪乱後の菌根菌の感染源として重要であるが,その垂直分布についてはこれまでに報告がなく新たな知見である。さらにトガサワラも攪乱依存種と考えられており,本種の保全において菌根菌の埋土胞子を活用できる可能性がある。
著者
安井 瞭 岡本 透 寺嶋 芳江 Helbert Helbert 奈良 一秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>外生菌根菌(以下菌根菌)は樹木の根に共生し、土壌中の無機栄養分を樹木に供給する菌である。琉球列島において広く分布する固有種の「リュウキュウマツ(以下松)」の根には、菌根菌が共生していることが明らかになっている。琉球列島には松が自生する島の他に人為的に松が導入された島が数多く存在する。このような人為的な松の導入と共に菌根菌も共に侵入する事例が小笠原諸島などでは明らかになっており、過去に松が植林されたとされる琉球列島の島々でも同様に菌根菌の共侵入が起こっていると考えられる。しかし、琉球列島においてはどの島にいつ頃松が導入されたのかという情報が明らかになっていない。そのため、本研究では江戸時代の国絵図や文献資料などから読み取った植生情報を活用し、琉球列島の島々の松林が自生か植林由来であるか起源を明らかにするとともに、植林の有無が菌根菌群集に与える影響について考察する。</p>
著者
安井 瞭 Helbert Helbert 寺嶋 芳江 奈良 一秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>外生菌根菌(以下菌根菌)は樹木の根に共生し、土壌中の無機栄養分を樹木に供給する菌である。琉球列島において広く分布する固有種の「リュウキュウマツ(<i>Pinus luchuensis</i>)」の根には、菌根菌が共生していることが明らかになっている。琉球列島の島々はその形成史の違いにより2つのタイプに分けられる。古期岩類や火山活動によって形成された山地を有する島で、海進時にも海没しなかった「高島」と、琉球石灰岩からなる低平な島で海進時に海没したとされる「低島」である。高島のリュウキュウマツは自生のものであるが、低島のリュウキュウマツは1680年代以降に沖縄本島から移入されたものである。このように高島と低島では地史やマツ林の形成過程に違いがあり、これらの違いが菌根菌群集に影響している可能性が考えられる。本研究では琉球列島の低島に成立しているリュウキュウマツ林において、土壌中に埋土胞子群集として存在している菌根菌を分析し、これまでに調べられている高島のデータと比較することで、菌根菌群集の違いやその要因について考察する。</p>
著者
奈良 一秀 木下 晃彦 田中 恵 村田 政穂
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

樹木の多くは養分吸収の大部分を外生菌根菌に依存しており、効果的な菌株な選抜・育種ができれば、樹木の成長や定着を促進できる。本研究では、厳しい土壌条件でも効果が期待される菌根菌の選抜や樹木に与える影響の評価を行い、有効な菌群を特定した。また、交配育種に役立つ情報を整備するため、主要な菌群の遺伝子流動や系統進化についても新規知見を得た。
著者
鈴木 和夫 奈良 一秀 山田 利博 宝月 岱造 坂上 大翼 松下 範久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

マツ材線虫病の病徴発現原因物質と宿主細胞との相互関係を明らかにする目的で、材線虫-宿主細胞間で引き起こされる反応について調べた結果、以下の諸点が明らかにされた。(1)感受性の異なる針葉樹5樹種を用いて、宿主の病徴進展とキャビテーション発生との関連についてみると、マツ材線虫病感受性が高い樹種ほど病徴進展にともなって、表面張力が大きく低下することが明らかにされた。このことは、表面張力に関与する物質が病徴進展と密接な関係にあることを示唆している。(2)感染後に産生される異常代謝産物の樹体に及ぼす影響についてみると、材線虫感染によって表面活性物質および蓚酸が産生され、これらの物質によってキャビネテーションの発生が促進されるものと考えられた。(3)表面張力の低下に関与する物質として蓚酸およびエタノール投与では、顕著な影響が認められずエスレル投与によって表面張力は低下した。このことから、病徴進展とエチレン生成が密生な関係にあることが示唆された。(4)キャビテーションの発生は、70%の壁孔閉塞が木部含水率の著しい低下を引き起こすことから、このことが樹体内のランナウェイエンボリズムの発生と密接な関係にあるものと考えられた。(5)光合成阻害処理によって、当年生葉の黄化・萎凋が他処理に比べて促進されたことから、光合成阻害による低糖類の減少が材線虫病の病徴進展と密接な関係にあるものと考えられた。以上の結果から、いままでブラックボックスとされてきた病徴発現原因物質と宿主細胞の相互関係が、病徴進展やキャビテーション発生の観点から明らかにされた。