著者
奥 俊夫 宮原 義雄 小林 尚
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.122-126, 1982-04-28

最近11年間に,東北地方の人工草地における害虫の集中発生状況について実態調査を行い,次の結果を得た。スジコガネは,東北6県の延べ16地点,586haの耕起造成草地に大発生し,イネ科牧草に大きな被害を生じた。被害は主として火山灰土台地の山林跡の草地に発生し,造成後5〜6年目に多い傾向があった。他のコガネムシ類による被害も,二,三の地点で認められた。ウリハムシモドキは各県でシロクローバを食害し,広面積の大発生は8地点で記録された。イナゴモドキは,主に青森県において,造成後10年以上のイネ科牧草が優占する草地に大発生した。一方,エンマコオロギは主に福島県山間部の比較的新しい草地において,しばしば牧草に壊滅的な被害を与えた。このほか,ムギノミハムシ,コバネイナゴ及びホシアワフキによるイネ科牧草の被害各1例が記録された。
著者
Giorgio BALDIZZONE 奥 俊夫
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.97-112, 1990-07-20 (Released:2017-08-10)

原記載の後に詳細な検討がなされていなかった下記のツツミノガ科4種を再記載した.Coleophora cercidiphyllella OKUカツラツツミノガ雌のみによって記載され,欧州でカバノキ科などに寄生するC.violacea STROMに近縁と推測されていたが,雄の発見によりこの点を確証できた.雄交尾器のvalvaは後者に比較して短い.幼虫はカツラの新芽を食し,成葉の裏面に移って蛹化する.成虫は6月に出現.幼虫の筒巣は記載済み.北海道のほか,新たに岩手県からも記録された.C.flavovena MATSUMURAキミャクツツミノガ触角基部の毛束が発達せず,白色の前翅に細い黄褐条を有する種群のうち,極東産の唯一の既知種.幼虫はヨモギ,エゾヨモギの葉縁から数片を切取って交互につなぎ合わせ,暗褐色の扁平な筒巣を作る.晩夏から翌春まで葉裏に住み,透明な潜入食痕を残す.成虫は6月後半〜7月に出現.北海道,本州寒冷地(東北地方,長野県)産.朴奎澤博士採集の標本により韓国からも記録された.C.melanograpta MEYRICKカシワピストルミノガ(新称)成虫,触角基部の毛束はよく発達し,白色の前翅に黄褐条を有する.外観は同じくナラ類に寄生する他の2種に酷似するが,交尾器はこれらと明らかに異なる.幼虫はカシワ,クヌギ,コナラ,ミズナラの業面を食し,潜葉習性を示さない.山本光人氏はエノキからも筒巣を得たが,エノキの葉を食するかどうかは不明.筒巣は黒色のピストル状,長短の変異があるが,台尻に相当する尾端部上縁が屈曲点後方で凹むことが特徴.成虫は7月に出現.中国の南京近郊から記載されたが,今回,北海道,本州(関西地方まで)から記録された.C.citrarga MEYRICKヒメツツミノガ(新称)既知種の中では最も小型の部類で,成虫は開張9〜10mm.明るい黄土色の前翅に不鮮明な白条をそなえ,暗色点を欠くため,一見キクツツミノガの淡色個体に似るが,触角に暗色輪紋を全く欠いている.寄生植物は未知.大阪から記載された種で関西地方に普通.米国国立博物館所蔵の故一色周知教授採集の標本により,東京都及び台湾(台北,新記録)からも記録.暖地性の種であるらしく北日本には産しない.
著者
Giorgio BALDIZZONE 奥 俊夫
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.155-169, 1990-10-20 (Released:2017-08-10)

下記のツツミノガ科5新種を記載した.Coleophora quercicola BALDIZZONE et OKUミヤマピストルミノガ(新称)幼虫はミズナラの葉面を食し潜葉習性を示さず,筒巣は黒色のピストル状.台尻に相当する尾端部上縁に凹みを欠く点でカシワピストルミノガと異なるが,ナラピストルミノガとの判別は困難.成虫は7月に出現,触角基部の毛束が発達し,白色の前翅に黄土褐色の条紋を有する点で外観は上記2種に酷似するが,交尾器は明らかに異なる.岩手県の山地及び岐阜県高山で発見.C.iuncivora BALDIZZONE et OKUコウガイゼキショウツツミノガ(新称)幼虫は秋に林間湿地でコウガイゼキショウ類の実を食し,筒巣は細長く,明るい灰黄土色,越冬前には寄主植物の花被が付着している.成虫は8月に出現,触角に暗色輪紋を欠き,黄土褐色の前翅にはかなり幅広い白条を有し,灰褐色の鱗片を多少とも散在する.後翅は淡灰褐色.岩手県の山地で発見.以下の3種は故一色周知教授が採集された米国国立博物館所蔵の標本によるもので,寄主不明の各1雄を検したのみであるため,和名を与えることは差し控える.C.burhinella BALDIZZONE et OKU成虫,触角の暗色輪紋は基部2〜3節では不鮮明.前翅は黄土褐色,白条は基部側前縁寄りと翅頂周辺では退化する傾向が強い.後翅は淡灰褐色.雄交尾器のaedoeagus上縁に数個の三角条突起が並び,cornutiが著しく大きいことが特徴.4月に和歌山県橋本で採集されている.C.laniella BALDIZZONE et OKU成虫,触角の暗色輪紋ぱ鮮明.下唇鬚は長く,中節下方の白い縁取りが目立つ.前翅は比較的細長く灰黄土色,白条を欠き,暗褐灰色の鱗片を散在する.後翅は淡灰褐色.雄交尾器のtranstillaが著しく幅広い板状をなすことが特徴.9月に和歌山県岩湧山で採集されている.C.cinclella BALDIZZONE et OKU成虫,触角の暗色輪紋は鮮明.下唇鬚中節先端下方の毛束はよく突出し,末端節の約半分に達する.前翅はやや幅広く,暗灰褐色の地に黄土褐色の鱗片を密に装うが,外側半分,特に翅頂部と翅縁寄りでは部分的にこの鱗片を欠くため.地色が不規則な斑状に現われる.後翅は灰褐色.7月に鳥取県大山で得られている.
著者
奥 俊夫 土岐 昭男 小山 重郎 藤村 建彦
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.331-336, 1979-01-31

北日本における1972年のアワヨトウ第1世代の多発は,被害分布,成虫誘殺調査,広域の気流条件,飛来源となり得る地方での成虫出現期等から判断して,温帯低気圧の移動に伴う連続風により中国江蘇省方面から6月12日夜間に成虫群が飛来したことに起因すると結論された。
著者
奥 俊夫 千葉 武勝 土岐 昭男 小林 尚
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.206-210, 1976-10-25
被引用文献数
1

東北地方における1971年初夏のアワヨトウの多発が,外部からの成虫群の侵入に起因することはすでに推測されているが,飛来期について再検討の余地があった。奥山・富岡の飼育実験値に基く蛹化期からの逆算,風向風速の観測値による南西風が優勢な日の検出,天気図による広域の気流条件の検討及び東北地方における成虫誘殺結果から判断して,中国大陸の河南省方面に起源する成虫群が低気圧の移動に伴う連続風によって6月4日夜に東北地方に飛来した可能性が大きいと考えられた。また,奥羽山脈の東側への侵入絡路についても若干の考察を行った。
著者
奥 俊夫 前田 泰生 小林 尚
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.177-182, 1972-10-25

盛岡市下厨川において,ラジノクローバ単播,およびラジノクローバ・オーチャードグラス混播草地におけるウリハムシモドキの,越冬後の密度減少過程を5年間にわたって調査し,次の結果を得た。1.卵期から幼虫中期までに約70%の密度低下があり,4月末から5月前半にかけての降雨が皆無に近い年にはさらに密度が低下した。2.幼虫中期から成虫の羽化までの間には,普通には密度の変化がとぼしいが,大発生の翌年から単播区に黄きよう菌による死亡率が非常に高まり,その後しだいに寄生率が低下した。3.成虫期間中の密度低下のうち,もっとも顕著であったのは,大発生時の過密による移動であった。4.成虫に対するヤドリバエ一種の寄生率は成虫末期に高まったが,10数%をこえず,また中期以前の寄生率は非常に低かった。