著者
奥田 将生
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.193-201, 2014-08-20 (Released:2018-01-25)
参考文献数
22
被引用文献数
3 1

清酒製造で最も重要な蒸米の酵素消化性に関わる要因を研究した。まず,澱粉の組成や構造が大きく異なった胚乳貯蔵澱粉変異体米を用いて,澱粉の分子構造と蒸米の酵素消化性との関係について調べた。その結果,原料米の澱粉中のアミロース含量とアミロペクチンの側鎖構造が蒸米澱粉の老化と関連があり,その結果蒸米の酵素消化性に大きく影響することがわかった。すなわち,アミロース含量が少ない米ほど,また,アミロペクチンの側鎖が短いほど,澱粉の老化が遅く米が硬くなりにくいため,酵素消化されやすかった。次に,清酒製造に用いられる品種では,アミロース含量にあまり差がないためアミロース含量が酵素消化に及ぼす影響は少なく,蒸米の酵素消化性は主にアミロペクチンの側鎖構造に原因する老化性に従うことが明らかになった。さらに,イネ登熟期の気象データと澱粉特性および蒸米酵素消化性との関係を解析し,アミロペクチン側鎖構造および蒸米の酵素消化性は,イネ登熟期の平均気温と高い相関関係を示すことが明らかになった。この結果から,イネ登熟期の気温によりかなり高い精度で原料米の酵素消化性に関する酒造適性を予測できることが明らかとなった。
著者
奥田 将生
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5, pp.262-272, 2010 (Released:2012-02-24)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2

着色度の増加や老香の生成などの清酒の劣化は,含まれる窒素化合物や硫黄化合物が大きく影響すると考えられている。この劣化を防ぐために,清酒メーカーでは,米を磨き,アミノ酸度の低い清酒を醸造し,活性炭ろ過を行った後,製品化している。本稿では,清酒の劣化に対する原料米や清酒中の窒素や硫黄化合物の影響について解説いただいた。
著者
奥田 将生
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.102, no.7, pp.510-519, 2007-07-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
16
被引用文献数
4 4

酒造原料米の最大成分であるデンプンの性質が清酒醸造にどのような影響を与えるのか興味深い課題である。デンプンはアミロースとアミロペクチンにより構成される。近年, 本解説にも紹介されているデンプン変異体米を用いた研究により, 米デンプンの詳細な分子構造とその生成機構が解明されつつある。今回は, 著者の最近の研究成果からデンプン分子構造と蒸し米の酵素消化性, 蒸米のデンプンの老化特性, さらにイネ登熟期気温が米デンプンの分子構造に及ぼす影響と幅広く解説していただいた。品種や気象条件による酒造原料米の性質の違いを理解する上で参考になるものと思う。
著者
奥田 将生 橋爪 克己 上用 みどり 沼田 美子代 後藤 奈美 三上 重明
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.2, pp.97-105, 2010 (Released:2012-02-13)
参考文献数
19
被引用文献数
3 11

登熟期の気温と原料米の溶解性に密接に関係するデンプン特性の年次·産地間変動との関係について解析し,以下の結果が得られた。1 同一品種でも産地間でデンプン特性や蒸米消化性が異なるのは,産地の登熟期気温が影響したことが主な原因であると示唆された。2 25品種27産地の生産年度の異なる試料について,出穂後気温とデンプン糊化温度の関係について解析したところ,登熟期気温と糊化温度は高い相関性を示し,登熟期気温が低い年は糊化温度が低く,一方気温が高いと糊化温度も高くなることを確認した。以上,デンプン糊化温度は蒸米消化性と高い相関性を示すので,これまでと今回の研究結果から,原料米ごとの出穂後の気温に注目すれば,かなりの精度で原料米の溶解性に関する酒造適性を予測できると考えられた。
著者
奥田 将生 磯谷 敦子 上用 みどり 後藤 奈美 三上 重明
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.131-141, 2009 (Released:2016-01-18)
参考文献数
20
被引用文献数
7 6

鑑評会の出品酒を実験材料として,窒素(N)や硫黄(S)含量と50°C1ヶ月間貯蔵後のポリスルフィド生成量の関係を検討した。清酒中のNとS含量には強い正の相関関係がみられ,清酒中の硫黄化合物の多くは原料米のタンパク質に由来することが推察された。また,全硫黄化合物の2~5割がアミノ酸であることがわかった。50℃1ヶ月貯蔵により生成するポリスルフィドについて,DMDSは全試料で検知閾値以下であったが,DMTSは約半数の試料において検知閾値を上回った。貯蔵前清酒中の成分との関係において,DMTS,DMDS含量は,全N及びS含量,アミノ酸態のNやS含量に有意な正の相関関係がみられた。各成分間の偏相関分析の結果,着色度の増加には全Nとグルコース含量が深く関係するのに対し,ポリスルフィドの生成にはアミノ酸態のS含量が深く関係することが示唆された。以上から,硫黄化合物の多い清酒は老香が生じやすいというこれまでの推定を成分的に裏付ける結果が得られた。
著者
奥田 将生 橋爪 克己 沼田 美子代 上用 みどり 後藤 奈美 三上 重明
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.699-711, 2009 (Released:2016-02-10)
参考文献数
24
被引用文献数
5 9

酒米研究会が収集した気象データの明らかな試料を用いて,気象データから米の溶解性に関する酒造適性を予測できるかどうかを検討する目的で,気象データとデンプン特性及び蒸米消化性の関係について解析した.出穂後1ヶ月の平均気温はアミロペクチン短鎖/長鎖比及びアミロース含量とは高い相関関係を示した。また,出穂後1ヶ月の平均気温は,DSCやRVAの測定値とも高い相関性を示した。酒米統一分析条件での蒸米消化性(デンプンの消化性)は出穂後1ヶ月の平均気温が23℃付近で消化性が高くなるような関係を示した。もろみに近いデンプンの老化を反映させた条件では,出穂後1ヶ月の平均気温と蒸米の酵素消化性(デンプンの消化性)は直線的な負の高い相関性を示した。それぞれの条件で出穂後1ヶ月の平均気温でデンプンの消化性を予測する式を構築し,この式より2008年度の試料について予測できるか検定したところ,予測値と実測値は出穂後1ヶ月の平均気温でどちらの条件でもデンプンの消化性を比較的精度良く予測できた。また,タンパク質含量は気温と強い相関がみられなかったものの,タンパク質の消化性はデンプンの消化性と同様な傾向を示し気温と有意な相関性を示すことがわかった。以上の結果から,出穂後の1ヶ月間平均気温によってかなり高い精度で米の溶解性に関する酒造適性を予測できる可能性が示された。