著者
駒嶺 真希 長谷川 知章 安藤 孝 宇山 佳明
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
pp.28.e1, (Released:2022-11-10)
参考文献数
21

目的: MID-NET®はこれまでにさまざまな薬剤疫学的な解析を通じて市販後の医薬品安全性評価に貢献している.適切な活用を促進する一助とするため,MID-NET®の特徴把握のための二つの調査を実施した.本稿では,これらの調査結果を述べ,今後の調査における留意点等を考察する.調査デザイン: 医療情報データベースの二次利用によるコホート調査方法: 一つ目の調査では,検体検査の結果値の特徴を把握し,肝機能障害のリスク評価法を検討するため,肺高血圧症治療薬処方後の肝機能障害の発現状況を全例調査の結果と比較考察した.また,二つ目の調査では,関連薬剤の処方選択や切替え時の特徴を把握するため,先行バイオ医薬品とバイオ後続品(以下「BS」という)の処方実態について検討した.結果: 肝機能障害のリスク評価法の検討において,肺動脈性肺高血圧症治療薬処方後の肝機能障害発現状況は,アウトカム定義として設定した重症度のグレードにより異なるものの,重症度を一定程度考慮した基準を用いることで,全例調査における副作用と同程度の発現状況を確認できる可能性が示唆され,各検査項目を組み合わせた定義など,異なる基準での結果と合わせて検討しその頑健性などを確認することで,適切な評価が可能になるものと考えられた.BS の処方実態の検討において,BS の処方は全体的に経時的に増加する傾向が認められたが,その程度は有効成分ごとに異なっていた.また,先行バイオ医薬品からBS またはBS から先行バイオ医薬品へ切替え処方が行われた症例,切替えることなく先行バイオ医薬品またはBS を継続的に処方された症例が一定程度確認され,その処方動向には年齢等により異なる傾向が認められたことから,今後の調査にあたっては,先行バイオ医薬品とBS の処方状況を考慮することが重要であることが示された.結論: これら二つの調査結果は,MID-NET®データの特性を理解するために有用であり,MID-NET®の利用可能性の検討促進に寄与するものと考えられた.
著者
斎藤 嘉朗 宇山 佳明 佐井 君江 頭金 正博
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.61-69, 2017 (Released:2017-01-31)
参考文献数
14

近年, 本邦における医薬品開発時の臨床試験は, 国内治験, ブリッジングから国際共同治験へと, その戦略は移りつつある. そのため, 複数の国内のガイドラインが整備されてきたが, 2014年よりICHトピック (E17 「国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則」) に採用され, 2016年にパブリックコメント募集のためガイドライン案として公表された. 一方, 国際共同治験の大半を占める日米欧を中心とした多地域国際共同治験に加え, 遺伝的・文化的に類似している東アジア諸国を対象にした国際共同治験も一定程度実施されている. しかし, 医薬品の薬物動態や応答性における民族差は, 東アジア諸国間においても, 存在する可能性が指摘されている. そこで, 日中韓薬事関係局長級会合の活動のひとつとして, 日本が主導する形で民族差に関する科学的検討が継続的になされている. 日中韓および白人を対象に3種の医薬品に関して行った臨床薬物動態試験では, 遺伝子多型による層別化と当該医薬品の薬物動態に重要な外的要因を均一化したプロトコトールにより, みかけの民族差は認められなくなることが明らかとなった. また50種以上の機能変化を有する遺伝子多型に関し, アレル頻度の民族差を調査したところ, 東アジア民族間で, 薬物代謝酵素およびトランスポーターについては概して大きな頻度差は認められないものの, 副作用に関連するHLA型では民族差が認められた. これまでの, そして今後の研究成果が, 東アジア国際共同治験の推進による, 東アジアの人々の医薬品アクセス向上に資することを期待する.
著者
石黒 智恵子 竹内 由則 山田 香織 駒嶺 真希 宇山 佳明
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.3-13, 2015-07-31 (Released:2015-09-18)
参考文献数
29
被引用文献数
5 3

独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)では,第2期中期計画(平成21~25年度)の柱の一つとして「医薬品の市販後安全対策の強化・充実」を掲げ,従来の副作用報告を中心とした評価に加え,電子化された診療情報データの二次利用による医薬品の安全性評価体制を構築するため,MIHARI Project -Medical Information for Risk Assessment Initiative を立ち上げた.第2期中期計画の目標は,各種電子診療情報へのアクセス基盤を整備し,薬剤疫学的手法を用いて医薬品による副作用のリスクを定量的に評価する体制を構築することであった.まず,データソースとして,レセプトデータ,病院情報システムデータ,DPC(Diagnosis Procedure Combination)導入の影響評価に係る調査用データ等の利用可能(アクセス可能)なデータベースを対象とし,それぞれの特性について評価した.そして,その特性に基づいて調査テーマを選択し,各種薬剤疫学的手法を用いた試行調査を実施するとともに,各種データベースの安全対策への活用可能性について検討し,平成25年度までに医薬品による有害事象のリスクを定量的に評価する体制を構築した.平成26年度からの第3期中期計画(~平成30年度)においては,厚生労働省およびPMDA内の各部署と連携し,電子診療情報を用いた調査および評価手法を実際の医薬品の市販後安全性評価へ積極的に活用していく「電子診療情報を用いた市販後医薬品安全対策の実運用の開始」および,厚生労働省とPMDAの共同事業として構築している医療情報データベース,厚生労働省が管理するレセプト情報・特定健診等情報(ナショナルレセプトデータベース)等を含む新規の電子診療情報データベースや新規薬剤疫学的手法を検討していく「副作用リスク分析手法の高度化」を目標に検討を進めることとしており,平成27年4月には,医療情報の安全対策への活用を推進するため,新たに医療情報活用推進室を設置し業務を開始した.本稿では,第2期中期計画における MIHARI Project 開始の経緯と目的,各種電子診療情報の特性,また,これまでに実施した試行調査の成果について述べたい.さらに,第3期中期計画での電子診療情報の安全対策への適用に向けた今後の取り組みについても紹介する.