著者
頭金 正博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.1, pp.18-21, 2016 (Released:2016-07-13)
参考文献数
10

医薬品の有効性や安全性には,民族差がみられる場合があり,グローバルな多地域で新薬開発を進めるためには,医薬品の応答性における民族差に留意する必要がある.そこで,有効性と安全性の民族差の評価においてレギュラトリーサインス研究が必要になる.具体的には,薬物動態をはじめとして,効果や副作用における民族差がどの程度あるのか,また民族差が生じる要因は何か等の課題をレギュラトリーサインス研究によって明らかにすることがグローバル開発では必須になる.グローバル開発戦略に関しては,日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)E5ガイドラインが公表されて以来,ブリッジング戦略が2002年頃までは多く用いられた.一方,ブリッジング戦略は,諸外国で開発が先行することを前提とした開発戦略であり,ドラッグ・ラグの問題が提起されるようになり,最近では,同じプロトコールを用いて複数の地域(民族)を対象にした臨床研究を同時に実施する,いわゆる国際共同治験が行われるようになった.近年の薬物動態での民族差に関する研究の進展により,遺伝子多型等の民族差が生じる要因が解明される例も多くみられるようになった.一方,有効性や安全性に関する民族差については,民族差が生じる詳細な機構は不明であるが,抗凝固薬の例にみられるように,定量的に民族差を評価することが可能になった.また,最近は有効性や安全性を反映するバイオマーカーに関する研究も進展しているが,バイオマーカーにも民族差がみられる可能性もあり,留意する必要がある.今後は,これらの知見を基にして効率的なグローバルでの医薬品開発の促進が期待される.
著者
頭金 正博
出版者
一般社団法人 日本臨床化学会
雑誌
臨床化学 (ISSN:03705633)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.136-143, 2006-04-28 (Released:2012-11-27)
参考文献数
34

コレステロールから生合成される胆汁酸は, 胆汁の主な構成成分として小腸での脂質の吸収を促進するなどの界面活性剤として生理機能を発揮していると考えられてきたが, 1999年になって胆汁酸が核内受容体の一種であるファルネソイドX受容体 (FXR) のリガンドとして機能することが明らかになった。この研究を契機として, 胆汁酸の新規機能に関する研究が大きく展開し, 胆汁酸はFXRを介して胆汁酸生合成の律速酵素であるチトクロムP450 7Alの発現を制御しているのみならず, 胆汁酸の腸管循環を制御している胆汁酸トランスポーター等の発現を制御していることが明らかになった。また, 最近ではFXRを活性化することによって, 糖尿病マウスでの高血糖や高脂血症を改善することが報告され, 胆汁酸は胆汁酸生合成や腸管循環の制御のみならず脂質代謝や糖代謝も制御している可能性が指摘されている。
著者
斎藤 嘉朗 宇山 佳明 佐井 君江 頭金 正博
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.61-69, 2017 (Released:2017-01-31)
参考文献数
14

近年, 本邦における医薬品開発時の臨床試験は, 国内治験, ブリッジングから国際共同治験へと, その戦略は移りつつある. そのため, 複数の国内のガイドラインが整備されてきたが, 2014年よりICHトピック (E17 「国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則」) に採用され, 2016年にパブリックコメント募集のためガイドライン案として公表された. 一方, 国際共同治験の大半を占める日米欧を中心とした多地域国際共同治験に加え, 遺伝的・文化的に類似している東アジア諸国を対象にした国際共同治験も一定程度実施されている. しかし, 医薬品の薬物動態や応答性における民族差は, 東アジア諸国間においても, 存在する可能性が指摘されている. そこで, 日中韓薬事関係局長級会合の活動のひとつとして, 日本が主導する形で民族差に関する科学的検討が継続的になされている. 日中韓および白人を対象に3種の医薬品に関して行った臨床薬物動態試験では, 遺伝子多型による層別化と当該医薬品の薬物動態に重要な外的要因を均一化したプロトコトールにより, みかけの民族差は認められなくなることが明らかとなった. また50種以上の機能変化を有する遺伝子多型に関し, アレル頻度の民族差を調査したところ, 東アジア民族間で, 薬物代謝酵素およびトランスポーターについては概して大きな頻度差は認められないものの, 副作用に関連するHLA型では民族差が認められた. これまでの, そして今後の研究成果が, 東アジア国際共同治験の推進による, 東アジアの人々の医薬品アクセス向上に資することを期待する.
著者
頭金 正博 斎藤 嘉朗
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.135, no.5, pp.649-653, 2015-05-01 (Released:2015-05-01)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

New drug development (NDD) for intractable diseases such as cancer and Alzheimer's disease has been challenging in recent years because it is difficult to evaluate the therapeutic efficacy of new drugs and the response of individual patients. Thus biomarkers might be a useful tool to facilitate NDD because they can be used to evaluate accurately drug responses. Biomarkers include proteins, metabolites, and genetic targets; imaging data and can also be used in pre-clinical studies, clinical trials, and post-marketing surveillance. In pre-clinical studies, biomarkers are used as an index of the pharmacological and toxicological effects of a new drug, which may help to predict the clinical response. In clinical studies, biomarkers are widely used as an index of clinical efficacy and safety for dose-adjustment and for patient selection. In post-clinical studies, biomarkers may facilitate the evaluation of drug responses, as well as aid improvements in drug efficacy. Several points should be considered for biomarker-guided NDD. First, the clinical study design is very important and must be suitable to permit the use of the relevant biomarkers. The analytical methods should be carefully evaluated, and evidence should be provided regarding the physiological significance and relevance of the biomarker with regard to its intended use. Regulatory sciences are required to resolve these issues and bridge the gap between basic science and clinical studies that involve biomarkers.