- 著者
-
稲垣 宏樹
杉山 美香
井藤 佳恵
佐久間 尚子
宇良 千秋
宮前 史子
岡村 毅
粟田 主一
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.6, pp.459-472, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
- 参考文献数
- 37
目的 要介護状態や認知症への移行リスクは,心身の健康状態に加え,社会・対人関係といった社会的な健康状態もあわせて評価することでより適切に予測できると考えられる。本研究では,要介護未認定の地域在住高齢者を対象に身体・精神・社会的機能を包括的かつ簡便に評価できる項目を選定し,それらが将来的な要介護状態や認知症への移行を予測できるか検討した。方法 2011年時点で東京都A区に在住の要介護未認定高齢者4,439人を対象に自記式郵送調査を実施した。既存尺度を参考に選択された54個の候補項目から通過率や因子分析により評価項目を決定した。2014年時の要介護認定(要支援1以上),認知症高齢者の日常生活自立度(自立度Ⅰ以上)を外的基準としたROC分析により選定項目の合計得点のカットオフ値を推計した。次に,合計得点のカットオフ値,下位領域の得点を説明変数,2014年時の要介護認定,認知症自立度判定を目的変数とする二項ロジスティック回帰分析により予測妥当性を検討した。結果 2011年調査で54個の候補項目に欠損のなかった1,810人を対象とした因子分析により,5領域(精神的健康,歩行機能,生活機能,認知機能,ソーシャルサポート)24項目を選択した。ROC分析の結果,合計得点のカットオフ値は20/21点と推定された(要介護認定AUC 0.75,感度0.77,特異度0.56;認知症自立度判定では0.75,0.79,0.55)。二項ロジスティック分析の結果,2011年時点の合計得点がカットオフ値(20点)以下の場合3年後(2014年)の要介護認定または認知症自立度判定で支障ありの比率が有意に高く(それぞれ,オッズ比2.57,95%CI 1.69~3.92;オッズ比3.12,95%CI 1.83~5.32,ともにP<0.01),下位領域では要介護認定は精神的健康,歩行機能,生活機能と,認知症自立度判定は歩行機能,認知機能と有意な関連を示した。結論 本研究で選択された項目は3年後の要介護・認知症状態への移行の予測に有用であると考えられた。とくに認知症状態への移行の予測能が高かった。下位領域では,身体・精神機能との関連が示唆されたが,社会的機能との関連は示されなかった。