著者
宇良 千秋 宮前 史子 佐久間 尚子 新川 祐利 稲垣 宏樹 伊集院 睦雄 井藤 佳恵 岡村 毅 杉山 美香 粟田 主一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.243-253, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
26
被引用文献数
11

目的:本研究の目的は,地域に暮らす高齢者が自分自身で認知機能や生活機能の低下に気づき,必要なサービス利用につながるようにするための自記式認知症チェックリストの尺度項目案を作成し,因子的妥当性と内的信頼性を検証することにある.方法:認知症の臨床に精通した専門家パネルが37の候補項目で構成される質問票を作成し,65歳以上の地域在住高齢者2,483名を対象に自記式アンケート調査を実施した.探索的因子分析と項目反応理論(IRT)分析を用いて,チェックリストの尺度項目案を作成した(研究1).研究1で作成した尺度項目案を用いて,地域在住高齢者5,199名を対象に自記式アンケート調査を実施した.再び探索的因子分析を行い,10項目の尺度項目案を作成した上で確証的因子分析を行い,信頼性係数を算出した.結果:37の候補項目の探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,5因子が抽出された.因子負荷量0.4以上の項目の内容から,第1因子は「認知症初期に認められる自覚的生活機能低下」,第2因子は「認知症初期に認められる自覚的認知機能低下」と命名した.因子負荷量が大きく,かつIRT分析の傾きの指標が高い項目を10項目ずつ選び,合計20項目からなる尺度項目案を作成した(研究1).20項目の探索的因子分析の結果から,第1因子に強く関連する5項目,第2因子に強く関連する5項目を選出し,10項目の尺度項目案を作成した.この10項目で確証的因子分析を行ったところ,2因子構造であることが確認された(χ2=355.47,df=31,p<0.001,CFI=0.989,GFI=0.985,AGFI=0.973,RMSEA=0.048).第1因子および第2因子に関連する下位尺度のCronbach αはそれぞれ0.935,0.834であり,全項目のCronbach αは0.908であった.結論:2因子構造10項目の自記式認知症チェックリスト尺度項目案を作成し,因子的妥当性と内的信頼性を確認した.
著者
菊地 和則 伊集院 睦雄 粟田 主一 鈴木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.363-373, 2016-10-25 (Released:2016-11-24)
参考文献数
29
被引用文献数
2

目的:認知症の徘徊による行方不明死亡者の死因の違いによる,行方不明から死亡に至るまでの過程の違いを明らかにし,捜索の効率化と死亡の予防に資することを目的としている.方法:2013年中に警察に行方不明者届が出された人の中で,認知症(疑いを含む)により行方不明になった10,322名の中から,死亡者全数である388名の家族を対象として,厚生労働省が警察庁の協力を得て自記式調査票による郵送調査を行った.郵送調査は2015年1月5日から2月2日に実施された.個人情報を除いたデータが厚生労働省から研究班に提供され,死亡者の中で死因が記載されていた61名を分析対象とし,χ2検定(Fisherの直接法)と残差分析により,死因の違いに関連する要因を検討した.なお,死因は先行研究を参考に「溺死」,「低体温症」,「その他」の3つに分けた.結果:分析の結果,死因が「低体温症」では死亡推定時期が行方不明から「3~4日目」,死因が「その他」では「当日」が有意に多くなっていた.また有意差は無かったが溺死の場合,4割以上が「当日」に死亡していた.結論:徘徊による行方不明死亡者には,死亡に至るパターンが少なくとも3つある可能性が示された.即ち,①行方不明後すぐに自動車事故などによる外傷や溺死,病状悪化などによって死亡するパターン,②数日間徘徊して徐々に体力を奪われた末に低体温症などで死亡するパターン,およびこれら2つに当てはまらない,③その他のパターン,である.
著者
伊集院 睦雄 近藤 公久 島内 晶 佐藤 眞一
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.91, 2008 (Released:2008-11-10)

高齢者では若年者に比べてTOT現象の頻出することが知られており,その原因としてi) 加齢により語の検索機能がうまく働かなくなるというdecrement viewと,ii) 高齢者は単に語彙が豊富なためTOT状態に陥りやすいとするincremental-knowledge viewが提唱されている.本研究ではii) に注目し,同じ高齢者でも語彙数の違いにより,TOTの生起数に差が認められるか否かを検討した.健常高齢者をWAIS IIIの単語課題素点で二群(高語彙群15名,低語彙群15名)に分け,絵(高頻度語160枚,低頻度語160枚)の命名課題を実施し,TOTの生起数を比較した結果,対象者の語彙数の多さはTOTの生成数を増加させないが,語彙数の多い対象者のみ,単語の頻度が高い場合にTOTの生成数が減少した.本結果は,高齢者でTOTが増加する現象をincremental-knowledge viewでは単純に説明できないことを示唆する.
著者
伊集院 睦雄
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.218-226, 2018-09-25 (Released:2018-10-11)
参考文献数
23

こころのしくみや機能を明らかにするにあたり,認知心理学(あるいは認知神経心理学)では,コンピュータ・メタファーを用いた情報処理的アプローチが用いられてきた.これに対して,メタファーの源泉を脳に求め,脳の情報処理様式で動作するシステムをコンピュータ上に構築し,シミュレーションによってこころを理解しようとする研究手法が,ここで紹介するコネクショニスト・アプローチである.本稿では,語彙処理,特に読みに関する脳型情報処理モデルを具体的に紹介しながら,コネクショニスト・アプローチの特徴を述べ,従来の研究手法との違いを明らかにする.また,近年の注目すべき動向についても簡単に触れる.
著者
楠瀬 悠 吉原 将大 井田 佳祐 薛 俊毅 伊集院 睦雄 日野 泰志
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.105-115, 2014

語彙判断課題を使ってカタカナ三文字語と四文字語間および漢字二字熟語と三字熟語間の課題成績の比較を試みた.カタカナ表記語には語長効果は観察されなかったが,漢字表記語には有意な語長効果が観察された.漢字三字熟語に対する反応時間は漢字二字熟語に対する反応時間よりも有意に長かった.この効果は,漢字表記語群間で形態隣接語数を統制しても観察された.漢字表記語は複合語であったのに対して,カタカナ表記語は単語であったことから,漢字表記語のみに観察された語長効果は,形態素数の差異を反映する効果であるものと思われる.漢字表記語の読みに,形態素への分解と統合を仮定すると語全体レベルの表象へのアクセスには,分解された複数の形態素に対する再統合が必要である.漢字三字熟語のほうが,二字熟語よりも複雑な形態素構造を持つため,この統合処理において語長効果が生じたものと思われる.本研究の結果は,語の読みの処理の性質が,その語が持つ形態素構造に強く依存することを示唆する.
著者
伊集院 睦雄
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.70-75, 2014-09-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
24

Alzheimer's disease (AD) is a progressive, degenerative disorder that is characterized by a slow, progressive decline in mental and social function, impairing memory, thinking, reasoning, and the ability to learn. Although there is no cure for AD, the early detection can improve symptoms and slow progression of the disease and also can give patients and their families better care and treatment options. Recently, it has become increasingly important to detect AD at an early stage due to the advent of drugs with slowing progression. Psychologists are expected to develop effective methods for screening to be more sensitive for detecting individuals in the early stages of AD. This article reviewed existing dementia screening tools and examined the roles of psychology in assessment and measurement of cognitive function.
著者
伊集院 睦雄
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

読解とは,文字を入力とし意味を出力とする計算過程であり,その計算には,文字表象から直接その語の意味表象を計算する過程(orth→sem)と,文字表象からその語の音韻表象を計算した後,そこから語の意味表象を計算する過程(orth→phon→sem)がある.本研究では,意味の計算における両過程の役割分担に注目し,人工的ニューラル・ネットワークを用いたシミュレーション実験を行った.日本語の音読と読解を学習したモデルにおいて,orth→semとorth→phon→semの各処理過程を孤立させて意味を計算し,両処理過程の寄与を漢字と仮名の表記別に検討した.その結果,漢字語全般における両処理の寄与率に差は認められなかったが,orth→semの一貫性が高い漢字語の意味計算では,直接計算過程の寄与が高かった.一方,仮名語では,音韻媒介過程の寄与が高かった.本結果は,日本語の読解における意味の計算過程の役割分担が,表記によって異なる可能性を示唆する.