- 著者
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安川 智子
- 出版者
- 学校法人 北里研究所 北里大学一般教育部
- 雑誌
- 北里大学一般教育紀要 (ISSN:13450166)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, pp.1-20, 2018-03-31 (Released:2018-06-01)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
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本稿は、19世紀における歴史主義の高まりとともに始まった古楽復興の動き(過去の音楽を再現しようという運動)が、フランスにおいて聴衆の「耳」の問題へと転換していく過程を、クロ ード・ドビュッシー(1862~1918)の時代に焦点を当てて解き明かすものである。具体的には、 18世紀フランスの作曲家ジャン=フィリップ・ラモー(1683~1764)の音楽を、ドビュッシーの時代の人々の耳がどうとらえ、いかに20世紀のピリオド楽器運動(作曲された当時の楽器や演奏習慣で音楽作品を演奏しようというスタイル)へとつながっていったのかを、当時の音楽批評から明らかにする。
アレクサンドラ・キーファーは、19世紀におけるヘルマン・フォン・ヘルムホルツ(1821~1894)
の功績とフランスにおけるその流行が、ドビュッシーの音楽を聴く耳を形成したことを論じているが、耳の変化は、「過去の音楽を聴こう」という努力の中でも徐々に起こっていた。本稿ではキ ーファーの論を踏まえたうえで、ドビュッシーの時代がちょうど古楽復興の転換期にあたること、さらにこの時代に音響再生産技術が急速に開発されていったことから、ドビュッシーの音楽の新しさ、古楽復興、聴覚の変化という、3つの別々の潮流が互いに交錯する20世紀初頭の音楽状況を浮き彫りにする。