- 著者
-
安東 嗣修
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.131, no.5, pp.361-366, 2008 (Released:2008-05-14)
- 参考文献数
- 59
- 被引用文献数
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多くの皮膚疾患でその主要な症状の一つとして「痒み」がある.痒みは,抑制できない場合には苦痛となり,痒みによる掻破が皮膚症状を悪化させる.したがって,掻痒性皮膚疾患では,痒みと掻破の抑制が重要な治療目標となる.これまでマスト細胞から遊離されるヒスタミンが,内因性の痒み因子として重要な役割を担っていると考えられてきたが,このような皮膚疾患の痒みには,H1ヒスタミン受容体拮抗薬が無効である場合が多い.このことは,マスト細胞―ヒスタミン系以外に痒みのメディエーターおよび,発生機序が存在することを示唆する.そこで,マウスを用いた痒みの評価系を確立し,様々な痒みのモデルマウスを用いた研究から,表皮ケラチノサイトが痒みのメディエーター(ロイコトリエンB4,トロンボキサンA2,ノシセプチン,一酸化窒素と過酸化水素)を産生・遊離することが明らかとなった.一酸化窒素を除くこれらメディエーターは,マウスへの皮内注射により痒み関連動作である注射部位への後肢による掻き動作を誘発し,一酸化窒素は,起痒物質の皮内注射によって惹起される掻き動作を増強した.また,ケラチノサイトから産生・遊離されたトロンボキサンA2やノシセプチンは,一次感覚神経への直接作用に加え,ケラチノサイトにもオートクライン的に作用し,痒みを増強する可能性を示した.ところで,一般的に,アレルギー性の痒みには,IgEが重要な役割を果たしていることが知られている.最近,高親和性IgG受容体が一次感覚神経に発現しており,一次感覚神経上での抗原-IgG複合体形成による直接作用に加え,神経終末からのサブスタンスPの遊離を介したケラチノサイトの活性化による掻痒反応発生機序の存在を明らかにした.いくつかの抗アレルギー薬や漢方薬の中には,ケラチノサイトに作用して鎮痒効果を示すものもある.このようにケラチノサイトは,痒みの誘導や増強に重要な役割を担っており,新たな鎮痒薬開発のターゲット細胞になるかもしれない.