著者
二瓶 映美 安齋 由貴子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.173-185, 2022-07-20 (Released:2022-07-25)
参考文献数
21
被引用文献数
2

目的:30歳代および40歳代(以下,成人中期とする)の喫煙率は約37%であり他の年代に比べて高く,そのうち,約4人に1人は「たばこをやめたい」という意志を持っている.産業保健職はこのような禁煙希望者をはじめとする喫煙者の禁煙支援にあたり,まずは禁煙外来への受診を勧めるが,受診につながらないケースも少なくない.一方で,自力で禁煙に成功した者が多いという報告もある.しかし,喫煙はニコチン依存であり,禁煙希望者が自力で継続していくのは容易ではない.また,直ちに禁煙の意志がない者など喫煙者の禁煙希望は多様であり,産業保健職は喫煙者の禁煙支援にあたり,禁煙への取組み状況を的確に捉え,それに応じた支援を行っていく必要がある.これには禁煙成功者が禁煙に取り組んできた体験が参考になると考えた.そこで,本研究では成人中期男性労働者が禁煙成功に至った体験の特徴を明らかにし,その特徴を捉えた禁煙支援の在り方について検討することを目的とした.対象と方法:成人中期男性労働者で,1日あたり平均5本以上の喫煙歴があり,禁煙外来の治療を受けずに現在6か月以上禁煙している者とした.14名の協力を得て,半構造化面接を30–60分程度行った.面接は,喫煙開始時から禁煙を試みたきっかけ,禁煙方法や取り組む中での心境や状況の変化,過去の失敗経験,現在の思いについて,インタビューガイドを用いて実施した.面接内容の逐語録を作成し,質的帰納的に分析を行い,ラベル,サブカテゴリ,カテゴリ,コアカテゴリを抽出した.結果:成人中期男性労働者が禁煙成功に至った体験の特徴を表す概念として,683のラベルおよび117のサブカテゴリ,32のカテゴリが抽出され,最終的に9つのコアカテゴリが抽出された.以下,コアカテゴリを【 】,カテゴリを≪ ≫で示す.まず,研究協力者は【禁煙の挑戦に対する躊躇】を抱いていたが,喫煙者を取り巻く社会の変化等により【喫煙者であり続けることへの懐疑】を抱き,【困難な挑戦を始める覚悟】をしていた.禁煙開始後は,【たばこからの離脱に伴う苦痛】の中でも【自分に合う禁煙方法の試行錯誤】や【気力を盾にした喫煙欲求との戦い】により,【禁煙成功が実現できそうな予感】を感じ始めていた.さらに禁煙の継続により,【禁煙成功者としての生き方の確立】を獲得する一方で,【禁煙後に遭遇した戸惑い】を感じていた.また,≪喫煙でマイナスイメージを持たれるのを回避する≫,≪他者に対する自分のプライドを守る≫,≪周りから認められたことに喜びを感じる≫と,他者との関係性を示すカテゴリが抽出され,周囲からの評価を意識していることが明らかになった.考察と結論:本研究の結果から,【喫煙者であり続けることへの懐疑】は,禁煙挑戦への転換点として捉えられた.禁煙支援にあたり,まずは喫煙者が【喫煙者であり続けることへの懐疑】の思いにつながるアプローチを行うことが重要であると示唆される.禁煙後は,【禁煙後に遭遇した戸惑い】を軽減し【禁煙成功者としての生き方の確立】をし続けられるように,継続的なフォローアップが必要であると考えられる.さらに,本研究では周囲の評価を気にする意識が禁煙に対する行動変容につながることが示され,「公的自意識」に対するアプローチは新たな知見となる可能性が示唆された.
著者
渥美 綾子 安齋 由貴子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.23-31, 2013-11-30 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
5

目的:行政保健師が個別支援の際に行った関係機関や関係職種との連携内容を具体的に明らかにする.方法:対象者は,複数の関係機関や関係職種と連携をした個別支援事例を有する行政保健師8人である.半構成的インタビューにて,事例の概要,連携についてどのようなことを何のために行ったのか質問し,得られたデータを質的記述的に分析した.結果:行政保健師が個別支援の際に行った関係機関や関係職種との連携内容として,《連携機関の見極め》《巻き込み》《橋渡し》《支援方針の合意》《専門的役割の発揮》《連携のルール化》の6つのカテゴリーが抽出された.考察:行政保健師は,対象者支援の質を向上させることを目指し,関係機関や関係職種とのコーディネートの役割を担っていた.また,行政保健師は対象者を中心とし,対象者を支援する関係機関や関係者を全体的にみて,支援が円滑に進むように調整していると推測された.
著者
小林 真朝 麻原 きよみ 大森 純子 宮﨑 美砂子 宮﨑 紀枝 安齋 由貴子 小野 若菜子 三森 寧子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.25-33, 2018 (Released:2018-02-10)
参考文献数
14

目的 公衆衛生看護の倫理に関するモデルカリキュラム・教育方法・教材開発のために,全国の保健師養成機関における倫理教育に関する実態を把握することを目的とした。方法 全国の保健師養成機関(専修学校(1年課程の保健師養成所,4年課程の保健看護統合カリキュラム校),短大専攻科,大学)229校に質問紙を送付し,公衆衛生看護教育を担当する教員に回答を求めた。 質問紙の内容は,回答者および所属機関の属性や保健師資格教育の形態のほか,公衆衛生看護の倫理の独立・関連科目の有無と導入予定,公衆衛生看護以外の倫理科目,公衆衛生看護の倫理を学ぶことの重要性や望ましい対象など,担当できる教員の有無やその研修の必要性,教育にあたって必要な資源,公衆衛生看護の倫理として扱う内容などを尋ねた。回答は変数ごとの記述統計量を算出するとともに,自由記載の内容分析を行った。結果 全国の保健師養成機関に質問紙を送付し,89校(回収率38.9%)から回答を得た。保健師養成機関の内訳は大学78.7%,短大専攻科4.5%,専修学校9%であった。公衆衛生看護の倫理の独立科目はなく,9割近くは導入予定もなかった。42.7%が科目の一部で公衆衛生看護倫理を扱っていた。公衆衛生看護倫理を学ぶ重要性については「非常に重要・ある程度重要」を合わせて9割であった。58.4%が保健師教育において公衆衛生看護の倫理に関する授業を必須化する必要があると回答したが,倫理教育を担当する教員については4割以上が「いない」と回答した。教員の研修は8割以上が必要と答え,必要な研修形態は「専門職団体や学会などによる学外研修」が8割と最も多かった。必ず行う必要があると思われる公衆衛生看護の倫理教育の内容の上位は「公衆衛生看護実践者としての職業倫理」,「健康と基本的人権」,「個人情報とその保護」,「公衆衛生看護における倫理」,「公衆衛生看護における倫理的自己決定」であった。結論 公衆衛生看護倫理教育はその必要性は高く認識されているものの,実施率は低かった。モデルカリキュラム,教材,教授できる教員が不足していること,教授が必要とされる公衆衛生看護の倫理の教育内容が体系化されていない現状が明らかになった。公衆衛生看護倫理の定義の合意形成と,モデルカリキュラムと教育方法,教材の開発,教員の養成が急務であると考えられた。