著者
酒井 太一 大森 純子 高橋 和子 三森 寧子 小林 真朝 小野 若菜子 宮崎 紀枝 安齋 ひとみ 齋藤 美華
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.664-674, 2016 (Released:2016-12-08)
参考文献数
19
被引用文献数
3

目的 向老期世代における新たな社会関係の醸成と保健事業での活用を目指し,“地域への愛着”を測定するための尺度を開発することを目的とした。方法 “地域への愛着”の概念を明らかにした先行研究に基づき合計30項目を“地域への愛着”の尺度案とした。対象は東京近郊に位置する A 県 B 市の住民とし住民基本台帳データより,50~69歳の地域住民から居住エリア・年代・男女比に基づき1,000人を多段階無作為抽出し,無記名自記式質問用紙を郵送にて配布・回収した。収集されたデータを用いて尺度の計量心理学的検討を行った。結果 583人から有効回答が得られた(有効回答率58.3%)。項目分析では項目の削除はなかった。次いで因子分析を行い,因子負荷量が0.40未満の 2 項目,複数の因子にまたがって0.40以上であった 3 項目,因子間相関が0.04~0.16と低くかつ項目数が 2 項目と少なかった因子に含まれる 2 項目の計 7 項目を削除し 4 因子構造23項目を採用し尺度項目とした。各因子は“生きるための活力の源”,“人とのつながりを大切にする思い”,“自分らしくいられるところ”,“住民であることの誇り”と命名した。 “地域への愛着”尺度全体の Cronbach の α 係数は α=0.95であり内的整合性が確認された。既存のソーシャル・サポートを測定する尺度と相関をみたところ統計学的に有意な相関があり(P<0.001)基準関連妥当性も確認された。また,共分散構造分析による適合度指標も十分な値を示した。結論 開発した尺度は“地域への愛着”を測定する尺度として信頼性・妥当性を有すると考えられた。
著者
小林 真朝 麻原 きよみ
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.42-48, 2007
被引用文献数
1

本研究の目的は,乳幼児健康診査の委託に焦点を当て,市町村保健師の事業委託の経験を記述・分析することで,市町村保健師にとっての委託の意味づけを検討し,委託事業における市町村保健師の役割および保健事業の効果的な委託のあり方への示唆を得ることである.乳幼児健康診査の委託の前後に携わった経験をもつ市町村保健師11名に半構成的インタビューを行い,データを質的に分析した.市町村保健師にとっての保健事業の委託の経験は【委託を契機に生じる変化に気づき,自分にとっての委託を意味づけていくプロセス】であり,時間の変化の特徴に沿って5つの期で構成された.さらに保健師の住民との関係性のとらえ方により,住民庇護型,住民顧客型,住民パートナー型の3つの型に分類され,<委託とは住民との距離を隔てるもの><委託とは住民の求めるものに応えるための保健師にとっての救いの手><委託とはコミュニティの資源の専門性を高め豊かにするもの>という意味づけがされていた.これらのことから,保健師がそれまでの自身と住民との関係性や事業のとらえ方の傾向に気づき,視点や視野を変えたらどう見えるか,状況に即したやり方で活動しているかを見直すことが重要であると考えられた.
著者
麻原 きよみ 小野 若菜子 大森 純子 橋爪 さつき 井口 理 池谷 澄香 小林 真朝 三森 寧子 宮崎 紀枝 長澤 直紀 佐伯 和子 留目 宏美
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.80-88, 2019 (Released:2019-08-30)
参考文献数
25

目的:自治体で働く事務職と保健師が,両者が関わる中で保健師の仕事をいかに認識しているのかについて記述した.方法:2つの自治体の事務職10名,保健師15名に対するインタビューを中心として参加観察,資料の検討を行い,質的に分析した.結果:事務職については〈事務職がもつ基準で保健師の仕事をとらえる〉〈事務職と同じ行政職としての仕事を求める〉のカテゴリと4つのサブカテゴリ,保健師については〈保健師の仕事と専門性が理解されない〉〈行政組織の一員として保健師の仕事をするために努力する〉のカテゴリと4つのサブカテゴリが抽出された.考察:事務職は官僚制組織の特性を示す基準,保健師は専門職の基準で保健師の仕事をとらえていること,そこには組織内の集団間パワーバランスが関連していると考えられた.保健師は事務職とは判断基準が異なることを前提として,協働のあり方や基礎・現任教育を考える必要がある.
著者
小林 真朝 麻原 きよみ 大森 純子 宮﨑 美砂子 宮﨑 紀枝 安齋 由貴子 小野 若菜子 三森 寧子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.25-33, 2018 (Released:2018-02-10)
参考文献数
14

目的 公衆衛生看護の倫理に関するモデルカリキュラム・教育方法・教材開発のために,全国の保健師養成機関における倫理教育に関する実態を把握することを目的とした。方法 全国の保健師養成機関(専修学校(1年課程の保健師養成所,4年課程の保健看護統合カリキュラム校),短大専攻科,大学)229校に質問紙を送付し,公衆衛生看護教育を担当する教員に回答を求めた。 質問紙の内容は,回答者および所属機関の属性や保健師資格教育の形態のほか,公衆衛生看護の倫理の独立・関連科目の有無と導入予定,公衆衛生看護以外の倫理科目,公衆衛生看護の倫理を学ぶことの重要性や望ましい対象など,担当できる教員の有無やその研修の必要性,教育にあたって必要な資源,公衆衛生看護の倫理として扱う内容などを尋ねた。回答は変数ごとの記述統計量を算出するとともに,自由記載の内容分析を行った。結果 全国の保健師養成機関に質問紙を送付し,89校(回収率38.9%)から回答を得た。保健師養成機関の内訳は大学78.7%,短大専攻科4.5%,専修学校9%であった。公衆衛生看護の倫理の独立科目はなく,9割近くは導入予定もなかった。42.7%が科目の一部で公衆衛生看護倫理を扱っていた。公衆衛生看護倫理を学ぶ重要性については「非常に重要・ある程度重要」を合わせて9割であった。58.4%が保健師教育において公衆衛生看護の倫理に関する授業を必須化する必要があると回答したが,倫理教育を担当する教員については4割以上が「いない」と回答した。教員の研修は8割以上が必要と答え,必要な研修形態は「専門職団体や学会などによる学外研修」が8割と最も多かった。必ず行う必要があると思われる公衆衛生看護の倫理教育の内容の上位は「公衆衛生看護実践者としての職業倫理」,「健康と基本的人権」,「個人情報とその保護」,「公衆衛生看護における倫理」,「公衆衛生看護における倫理的自己決定」であった。結論 公衆衛生看護倫理教育はその必要性は高く認識されているものの,実施率は低かった。モデルカリキュラム,教材,教授できる教員が不足していること,教授が必要とされる公衆衛生看護の倫理の教育内容が体系化されていない現状が明らかになった。公衆衛生看護倫理の定義の合意形成と,モデルカリキュラムと教育方法,教材の開発,教員の養成が急務であると考えられた。