著者
富井 幸雄
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.227-267, 2014-10

ハーパー首相は二〇一三年一〇月、連邦控訴裁判所判事M.ナドンをカナダ最高裁(SCC)判事に任命した。SCCは翌年三月、これを無効とするとともに、SCC判事の構成は憲法の改正の手続による以外変更できないとした。本研究は、この判決の意義を検証することで、SCCの立憲的位置づけを明確にし、カナダの連邦主義がそこに色濃く反映されているのを再認識する。SCCは憲法上の機関とはされず、一八六七年憲法一〇一条を受けた議会制定法(最高裁判所法(SCA))によって創設される。SCAが九人のSCC判事のうち三人はケベック州の法曹から任じるとしているところ(六条)、それは現職に限定されていると判示した。また、SCAは一九八二年憲法五二条の定義する憲法に含まれていないけれども、同憲法四一条はSCCの構成は憲法改正手続によれとしており、これが適用されるとした。判事の構成、とくにケベック三人枠は憲法にあたるとしたのであり、そこにSCCの構成の特徴を見出す。カナダ憲法の改正手続は実に複雑であり、このプロセスに州が参画していくことが強く主張された歴史的経緯がある。SCCの構成は、連邦議会のみでいじられるのではなく、州の同意がなければ変えられないとしたのである。
著者
富井 幸雄
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.125-182, 2017-01

アメリカの移民退去手続は刑事司法手続に類似しており、移民裁判所(法務省)での聴聞を設けている。九・一一直後に法務長官の発したクレッピィ通達は、移民判事が安全保障上の特別の利益があると判断したなら、この退去聴聞にメディアを含む一般人の傍聴を禁止できるとした。これは、表現の自由を保障したアメリカ憲法修正第一条に反さないか。最高裁は一九八〇年のリッチモンド新聞社事件で、経験と論理のテストを打ち立てて、それが満たされる刑事裁判の公開や傍聴は公的アクセスとして同条で保障されると判断した。このテストが行政手続に分類される退去聴聞にも適用されて、同条の保障が及ぶか。最高裁の判例はないけれども、連邦控訴裁判所は、二〇〇二年のほぼ同時期にクレッピィ通達を合憲とも違憲とも判断している。移民法は安全保障法としての側面があり、外国人テロリスト送還裁判所を創設したり、政府側に聴聞にかけられている外国人がアクセスできない秘密の証拠を使用したりする手続を法定している。国際テロ対策が課題となるなか、安全保障と人権のバランスが出入国管理に要求される視点はわが国にも示唆的である。
著者
富井 幸雄
出版者
首都大学東京都市教養学部法学系
雑誌
法学会雑誌 (ISSN:18807615)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.333-355, 2013-07-31
著者
富井 幸雄
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.75-181, 2015-08

E・スノーデンが暴露したアメリカ国家安全保障局(NSA)の電子的監視による大量情報収集は、合理的な捜査で、かつ、令状に基づいてのみ私的空間への立ち入りを認めたアメリカ憲法修正第四条に反すると批判されている。諜報は同憲法二条で正当化されるとして歴史的に大統領の専権とされ、そのための電子的監視も行ってきた。本稿は、刑事手続原理を定めた修正第四条が安全保障上の捜査の電視的監視にも適用されるのか、立法は諜報機関の電子的監視にどのような統制の枠組みを設けているのかを考察する。まず、同条がテクノロジーの発展にどう適応していったのかをみる。プライバシーの成熟で刑事司法では電子的監視には厳格な法的制約が課されるようになる。国内の安全保障目的の電子的監視には同条が適用されるとの最高裁判断(Keith 判決)を受けて、立法で外国の諜報は司法的枠組みで認められる(外国諜報監視法(FISA))ようになる。おりから、安全保障では大統領の安全保障権限が考慮され、刑事捜査より低いハードルで執行権に有利に運用される。対テロ対策の強化で国内の諜報が隠密になされるようになっており、その正当性や統制を憲法的にどう考えていくかが論点となっているのである。
著者
富井 幸雄
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3・4, pp.75-181, 2015-08-04

E・スノーデンが暴露したアメリカ国家安全保障局(NSA)の電子的監視による大量情報収集は、合理的な捜査で、かつ、令状に基づいてのみ私的空間への立ち入りを認めたアメリカ憲法修正第四条に反すると批判されている。諜報は同憲法二条で正当化されるとして歴史的に大統領の専権とされ、そのための電子的監視も行ってきた。本稿は、刑事手続原理を定めた修正第四条が安全保障上の捜査の電視的監視にも適用されるのか、立法は諜報機関の電子的監視にどのような統制の枠組みを設けているのかを考察する。まず、同条がテクノロジーの発展にどう適応していったのかをみる。プライバシーの成熟で刑事司法では電子的監視には厳格な法的制約が課されるようになる。国内の安全保障目的の電子的監視には同条が適用されるとの最高裁判断(Keith 判決)を受けて、立法で外国の諜報は司法的枠組みで認められる(外国諜報監視法(FISA))ようになる。おりから、安全保障では大統領の安全保障権限が考慮され、刑事捜査より低いハードルで執行権に有利に運用される。対テロ対策の強化で国内の諜報が隠密になされるようになっており、その正当性や統制を憲法的にどう考えていくかが論点となっているのである。