著者
富所 敦男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.255-258, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
4

緑内障治療のなかで臨床的なエビデンスが確立しているのは眼圧下降治療のみである.そのエビデンスの多くの部分は1980年代から欧米で行われたいくつかのランダム化比較試験の結果に基づいている.しかし,日本人に多いことが明らかになっている正常眼圧緑内障に対する眼圧下降治療のエビデンスには不確実な部分が残っている.眼圧下降療法を行うにあたっては,まず個々の患者に応じた目標眼圧を設定した上で,薬物療法から治療を開始する.そして,十分な眼圧下降が得られない場合や眼圧が下降しても視野障害進行が停止しない場合などには手術療法の適応を検討することになる.眼圧下降薬などの効果の検証にあたっては眼圧の生理的変動の影響をできるだけ除去した上でその効果を検討していく必要があり,長期的には眼圧下降が視野障害進行の予防効果につながっているかどうか適切に評価しなくてはならない.神経保護治療や血流改善治療も眼圧下降療法に加え得る治療法として期待されているが,現在のところ臨床的なエビデンスはなく,今後の研究の進展が期待される.
著者
富所 敦男 間山 千尋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

(1)前眼部フーリエドメインOCT(以下、FD-OCT)による隅角微細組織構造の同定、論文掲載輸入摘出人眼の隅角部を前眼部FD-OCTの高解像度スキャンにて撮影することで、隅角部における房水流出経路として重要なシュレム管や線維柱帯の構造を非侵襲的に同定することが可能であった。シュレム管は空隙としてとらえられ、外科的拡張操作の前後にFD-OCTの撮影を行うことでシュレム管であることを確認した。さらに、正常人ボランティア30人60眼において、超音波生体顕微鏡(UBM)、前眼部FD-OCTによる隅角部画像データを取得し解析した。その結果、正常人眼60眼においてシュレム管は87.5%と高い頻度で同定できた。シュレム管の平均長径は347.2±42.3μm、線維柱帯の平均長径は466.9±60.7μm、線維柱帯の平均面積は0.0671±0.0058mm^2であるなど正常な隅角構造の定量的な解析を初めて行うことが可能であった。これらの成果については英文論文として発表した。(2)狭隅角眼を対象とした前眼部画像データの解析原発閉塞隅角症、原発閉塞隅角緑内障患者を含む狭隅角眼を対象として、長期間前向きに隅角構造の定量的パラメータの変化を追跡する他施設共同研究を主導して実施し、最終的に257例451眼が組み入れられた。現在はエントリー終了後、定期的な経過観察FD-OCTや他の臨床検査、取得したデータの解析を進めている。エントリー時における断面的データから、虹彩前癒着のある症例では隅角角度は上下方向で薄く、狭隅角眼が女性に多く女性には男性に比べ遠視、短眼軸、薄い角膜厚の傾向があることなどを国内の学会で発表した。(3)前眼部FD-OCTによる隅角全周解析を用いた狭隅角眼における隅角閉塞領域の検討狭隅角眼43眼において、緑内障につながる隅角閉塞の検出頻度を前眼部FD-OCTとUBMで比較した。UBMでは明所下、暗所下にて各18.4%、44.1%で少なくとも部分的な隅角閉塞が認められたのに対し、前眼部FD-OCTでは各72.4%、75.7%とより高率であり、高速、高解像で隅角全周の解析が可能な前眼部FD-OCTが、閉塞隅角緑内障の診断や発症メカニズムの解明に役立つことが示唆された。これらの成果については英文論文として現在投稿中である。