- 著者
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寺崎 文生
藤岡 重和
河村 慧四郎
- 出版者
- 大阪医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1998
1.研究成果:末期的拡大不全心に対する治療として左室部分切除術が開始された。心臓移植の機会の少ない我が国の現状に於いて本手術に対する期待は大きい。現在の課題は手術適応基準と予後の検討である。本研究では左室部分切除術を施行された拡張型心筋症患者の切除心筋標本を用いて、心筋 in situ での免疫組織細胞化学的、ウイルス学的解析を行った。その結果、一部の拡張型心筋症の心筋において活動性炎症とエンテロウイルス(EV)持続感染が認められ、慢性心筋炎が一部の拡張型心筋症の病因・病態に関与することが明らかにされた。また、サイクルシークエンス法によるEVゲノムの核酸塩基配列の決定により、殆どがコクサッキーB群ウイルスであることが明らかになった。さらに、拡張型心筋症における炎症やEVゲノムの存在は、左室部分切除術に際して術後早期予後不良の因子になる可能性が示唆された。2.今後の展望:我々は拡張型心筋症患者の切除心筋を多数保有している。これを用いてin situ hybridizationによりEVゲノムの心筋内での局在を検討することで、ウイルスによる心筋細胞障害機序を明らかにできる。また現在、左室部分切除術をうけた患者数が増加し、術後の長期成績を明らかにする時期にある。切除心筋の免疫組織化学的、分子生物学的検索を継続し、それらと術後長期予後や臨床諸検査指標とを比較検討することで、左室部分切除術の適応決定に価値ある情報を提供することが期待される。