著者
山崎 晃司 坪田 敏男 小池 伸介 清水 慶子 正木 隆 郡 麻里 小坂井 千夏 中島 亜美 根本 唯
出版者
ミュージアムパーク茨城県自然博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ツキノワグマの行動生態研究の多くは,秋の食欲亢進期に行われており,春から夏の行動はよく分かっていない。本研究では,各種新型機材を利用し,冬眠明け後の春から夏の野生グマの生理状態の把握と共に,その行動生態の解明を試みた。その結果,夏期には活動量,体温,心拍計共に低下することを確かめた。春は低繊維,高タンパクの新葉が利用できたが,その期間は極めて短かった。夏は食物の欠乏期として捉えられ,夏眠のような生理状態に入ることでエネルギー消費を防いでいたと考えられた。本研究は,秋の堅果結実の多寡だけでは説明できていない,本種の夏の人里への出没機構の解明にも役立つことが期待できる。
著者
山﨑 晃司 小坂井 千夏 釣賀 一二三 中川 恒祐 近藤 麻実
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.321-326, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
22
被引用文献数
3

近年,ニホンジカ(Cervus nippon,以下,シカ)やイノシシ(Sus scrofa)を対象としたわなにクマ類,ニホンカモシカ(Capricornis crispus),中型哺乳類等の動物が錯誤捕獲される事例が増加していることが想像される.国によるシカやイノシシの捕獲事業の推進,豚熱対策としてのイノシシの捕獲強化,知識や技術が不十分なわな捕獲従事者の増加,シカやイノシシの分布域の本州北部への拡大などにより錯誤捕獲が今後さらに増えることも懸念される.錯誤捕獲には,1)生態系(対象動物以外の種)へのインパクト,2)対象動物(シカ・イノシシ)の捕獲効率の低下,3)捕獲従事者や通行人等の安全上のリスク,4)行政コストの増加,5)捕獲従事者の捕獲意欲の低下,6)アニマルウェルフェア上の問題,といった6つの課題が挙げられる.シカ,イノシシの個体数抑制と,錯誤捕獲の低減の両立が喫緊の課題である.ボトムアップの対応として錯誤捕獲発生機序の解明と錯誤捕獲を減らすための取り組みが,またトップダウンの対応として速やかな実態把握のための統合的な情報収集システム構築と,そのための法的な整備が求められる.