著者
清野 紘典 中川 恒祐 宇野 壮春
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.226, 2013 (Released:2014-02-14)

全国的なサルの捕獲数は増加傾向で近年 2万頭 /年に達するが,被害問題は減少傾向になく,分布が拡大する地域もみられる.一方,過去の乱獲によって個体群が分断・消滅している地域があり,無計画な捕獲による個体群への不可逆的な影響が懸念されている.そのため,サルの個体数コントロールでは,群れ単位の総合的な被害管理を推進するとともに,適切なモニタリングに基づき保全を担保したうえで,効果的な被害軽減につながる方法論の検討が求められている. 保全に配慮した捕獲方法として,サル絶滅危惧個体群では問題個体の選択的捕獲の実践例がある (森光・鈴木,2013).また,効果的な捕獲方法はシカ等で専門家によるシャープシューティングの技術開発が進められている(鈴木 ,2013など).これらの考え方をふまえ,群れの安定的存続を確保しつつ,効率良く被害を減少させ,総合的被害対策を支援する個体数管理の手法を検討して実践した. 特定計画に則り立案された捕獲計画において,滋賀県の安定的個体群に位置する高レベル加害群 1群 (76頭 )を麻酔銃にて約 35%,25頭を短期間で捕獲した.捕獲対象は,人や集落環境に慣れ警戒心が低く・農作物への依存性が高い,高レベル加害個体とし,該当する個体を群れ内で特定して選択的に捕獲した.捕獲効率の低下を避けるため,捕獲者の存在を認知されないよう工夫し,かつ亜成獣以下の個体および周辺オス,劣位の成獣個体から順に捕獲するよう捕獲管理した.なお,群れ内の社会性を撹乱し分裂を誘発しないよう成獣メスの捕獲は最低限とした. 捕獲実施後,対象群は分裂せず,群れの加害レベルを低下させることに成功したことから,本法が保全への配慮と効果的な被害軽減の双方に機能する個体数管理の一手法となることが示唆された.本法の適用に必要な条件の検討,捕獲に必要な技術・技能的要件の吟味および実施体制の整備が今後の課題である.
著者
中下 留美子 鈴木 彌生子 林 秀剛 泉山 茂之 中川 恒祐 八代田 千鶴 淺野 玄 鈴木 正嗣
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.43-48, 2010-06-30
参考文献数
20

2009年9月19日,乗鞍岳の畳平(岐阜県高山市)で発生したツキノワグマ(<i>Ursus thibetanus</i>)による人身事故について,加害個体の炭素および窒素安定同位体比による食性解析を行った.体毛の炭素・窒素安定同位体比は,他の北アルプスの自然個体と同様の値を示した.さらに,体毛の成長過程に沿って切り分けて分析を行った結果についても,過去2年間の食性履歴において残飯に依存した形跡は見られなかった.当該個体は,観光客や食堂から出る残飯等に餌付いた可能性が疑われていたが,そのような経歴の無い,高山帯を生息圏の一部として利用する個体である可能性が高いことが明らかとなった.<br>
著者
山﨑 晃司 小坂井 千夏 釣賀 一二三 中川 恒祐 近藤 麻実
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.321-326, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
22
被引用文献数
3

近年,ニホンジカ(Cervus nippon,以下,シカ)やイノシシ(Sus scrofa)を対象としたわなにクマ類,ニホンカモシカ(Capricornis crispus),中型哺乳類等の動物が錯誤捕獲される事例が増加していることが想像される.国によるシカやイノシシの捕獲事業の推進,豚熱対策としてのイノシシの捕獲強化,知識や技術が不十分なわな捕獲従事者の増加,シカやイノシシの分布域の本州北部への拡大などにより錯誤捕獲が今後さらに増えることも懸念される.錯誤捕獲には,1)生態系(対象動物以外の種)へのインパクト,2)対象動物(シカ・イノシシ)の捕獲効率の低下,3)捕獲従事者や通行人等の安全上のリスク,4)行政コストの増加,5)捕獲従事者の捕獲意欲の低下,6)アニマルウェルフェア上の問題,といった6つの課題が挙げられる.シカ,イノシシの個体数抑制と,錯誤捕獲の低減の両立が喫緊の課題である.ボトムアップの対応として錯誤捕獲発生機序の解明と錯誤捕獲を減らすための取り組みが,またトップダウンの対応として速やかな実態把握のための統合的な情報収集システム構築と,そのための法的な整備が求められる.