著者
小室 譲 有村 友秀 白 奕佳 平内 雄真 武 越 堤 純 加藤 ゆかり
出版者
Association of Human and Regional Geography, University of Tsukuba
雑誌
地域研究年報 = Annals of Human and Regional Geography (ISSN:18800254)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.53-71, 2019-02

本稿の目的は,長野県伊那市を事例に2000年代以降の新規店による提供商品・サービス,および顧客変化に着目することで,中心市街地における商業機能の変容を検討することである.伊那市中心市街地では,低廉なテナント料,移住や創業を支援する行政施策が奏功して,①カフェやダイニングバーなどの新たな業態の飲食店,②オーガニック商品やデザイン性の高い服飾雑貨などの物販店,③ピアノ教室や陶芸教室などの教育関連施設やベビーマッサージ店,ライブハウス,ご当地アイドルのイベント事業会社など多岐に渡るサービス店が開業した.それらの店舗経営はIJUターン者が担い,経営者の開業以前の就学・就業経験に裏打ちされた周到な開業計画や高い経営意欲のもと,新たな商品・サービスを提供している.その結果,飲食店や小売店を中心に新たな顧客の掘り起こしと県外におよぶ商圏を獲得する店舗事例が存在するなど,中心市街地における商業機能の向上に寄与しつつある.
著者
加藤 ゆかり 小室 譲 有村 友秀 白 奕佳 平内 雄真 武 越 堤 純
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

1.研究背景と目的<br>地方中心市街地では,店主の高齢化や後継者不在による求心力低下に伴い,その打開策として自治体主導の中心市街地活性化に向けた方策が講じられている。他方,近年の地方移住の背景には,充実した「移住・定住促進策」を背景に,進学や就業を機に大都市圏に流出したUターン者や多様な理由で移住するIターン者が存在する(作野,2016)。本報告では,こうした開業者による店舗開業や社会ネットワーク形成が商店街の新たな持続性となり得るのかを長野県伊那市中心市街地における事例から検討する。<br><br>2. 結果と考察<br>1) 新規開業者による店舗展開<br>長野県伊那市は,行政主導による空き店舗活用促進や移住者に対する創業支援のための補助金交付事業が講じられている。その結果,中心市街地において新規店舗の開業が相次いだ(図1)。開業者は主に市内出身のUターンや大都市圏出身のIターンであり,移住前の就業経験などを通じて得られた経験や知見を基に,新たな業種・業態の店舗を展開している。<br><br>2) 開業者ネットワークの形成<br>前述の新規開業者の一部は,強力なリーダーシップの基,と中心市街地活性化に向けた自らの方策を基に,賛同する近隣店舗にに共有することで,中心市街地内において社会ネットワークを形成している。例えば,「ローカルベンチャーミーティング」では,創業塾の開催を通じて近隣地域内店舗の経営方策や新規店舗開業について支援している。また,「いなまち朝マルシェ」においては発案者の緻密な計画の下,近隣の開業者が自らの技術,経験を集約することで運営に携わり,近隣の地域内店舗が出店する新たな集客機会を創出している。これら2つの社会ネットワークが中心市街地の持続性に向けた,新たな基盤となっている。<br><br>3) 持続性の考察<br>前述の開業者ネットワーク成立の背景には,行政の創業支援体制や商工会主体の既存店舗間ネットワークが関連している。また,これらのネットワークへの関与は活動指針に賛同する近隣地域店舗住民により構成されるものの,中心市街地の持続性へ寄与していることが指摘できる。それらの個別の開業者ネットワークの事例については,当日報告する。<br><br>文献 作野広和 2016.地方移住の広まりと地域対応――地方圏からみた「田園回帰」の捉え方.経済地理学年報62: 324-345.
著者
小室 譲 加藤 ゆかり 有村 友秀 白 奕佳 平内 雄真 武 越 堤 純
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>中心市街地における飲食店の新規開業</b><br> 地方都市における中心市街地では,店主の高齢化や後継者不足および,それに伴う空き地や廃店跡の増加が喫緊の地域課題である。こうした衰退基調にある中心市街地では,これまでにまちづくり三法をはじめ,中心市街地の活性化に向けたさまざまな補助金政策や活性化の方策が官民学により検討されてきた。<br> 本発表では,シンポジウムの主旨であるUIJターンによる起業が中心市街地において進展している長野県伊那市を事例とする。発表手順は,UIJターン者により開業された主に飲食店の実態を報告したうえで,次に対象地域でいかにして,いかなる理由から新規開業が増加しているのか,地域的背景を踏まえて検討する。<br> 伊那市中心市街地では,2000年代以降に都市圏からのUIJターンによる移住者の新規開業が増加しており,2018年9月現在で,52店舗を数える。そのうち,飲食店が過半数の33店舗を占めており,そのほとんどが個人経営である。開業者は主に20〜50歳代であり,移住以前の飲食業や他業種における就業・就学期間を通じて得られた,経験や知見をもとに開業に至る。伊那市中心市街地では,ダイニングバーやスポーツバー,カフェなどである。そして,それぞれの店舗では開業者の経験や知見に裏付けられた地域のマーケットニーズのもと,地酒や地元の食材を積極的に活用し,周辺の官公庁向けにランチ営業をするなど中心市街地において新たな顧客層を獲得するに至っている。<br><br><br><b>新規開業者を支える地理的条件</b><br> まず伊那市内が地方創生関連の補助金や移住先輩者のインターネット上による情報発信のもと,Uターン者はもとより,IJターン予定者の居住地選択に入る地域であることが新規開業の前提として指摘できる。その上で移住者は官公庁や鉄道駅があり,既存の利用客による一定の集客が見込める中心市街地を開業先として選定する。その店舗開業の過程には,高齢化や後継者不足により中心市街地に残存していた低廉な飲食テナント,および開業助成金を開業資金の一部として充てることで大都市圏よりも開業時のイニシャルコストを抑えられることが新規開業を後押ししている。また既存商工会や既存商店主は,こうした中心市街地の空き店舗に対する新規開業者を市街地活性化の新たな救世主として好意的に捉える店舗が多い。事実,一部の既存店主は新規開業者に中心市街地内の空きテナント情報や開業時に申請できる補助金情報を積極的に提供している。<br> 新規開業者の移住・開業経緯の詳細は当日述べるものの,東京大都市圏出身者の中には会社員生活における昇進主義や満員電車の通勤生活に疲弊して,ワークライフバランスを考慮した生活環境を求めて移住を決意する事例がある。こうした開業者にとって個人飲食店の開業は,自己実現の機会であるとともに,移住先の就労機会として移住者やその家族が移住先で生活していけるだけの必要最低限の収入を得るためのなりわいとして成立している。一方で,中心市街地においては新規開業店の増加が単に空きテナントの量的補完にとどまらず,既存店舗の顧客増加,既存商店組織の活性化,開業者ネットワークの構築による中心市街地イベントの創出などの相乗効果として認められる。
著者
小室 譲
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100167, 2014 (Released:2014-03-31)

1.序論 2003年の観光立国宣言以降,政府の積極的なインバウンドツーリズム施策に伴い,訪日外国人客数は約521万(2003)から1,036万人(2013)へ増加している(日本政府観光局「JNTO」).しかしながら観光産業が抱える慢性的な課題として,出国日本人数に対する訪日外国人客数の大幅な赤字が指摘でき,更なる訪日外国人客数獲得のためには各観光地における外国人客への受入れ態勢強化が急務である.2000年代に入り,北海道のニセコに端を発した豪州客を中心としたスキーブームは,近年では白馬や野沢,さらに妙高や蔵王といった幾つかの本州のスキー場においてもみられる.本研究では,長野県白馬村の八方尾根スキー場周辺地域におけるインバウンドツーリズムの動向を分析し,ツーリズムの発展に伴う変容と発展の要因を明らかにする事を目的とする.併せてインバウンドツーリズムの発展に伴う新たな地域課題について検討したい. 2.インバウンドツーリズムの動向 村内最大規模を誇る八方尾根スキー場は, JR大糸線白馬駅から西へ2km程度進んだ北アルプス唐松岳の東斜面にあたる.本研究では,この八方尾根スキー場およびスキー場の麓に位置し,60年代からのスキー観光拡大期にスキー場の宿泊地としての性格を強めた和田野,八方,エコーランドの3地区を研究対象地域とする.2002年に0.3万人であった村内外国人客数は,2011年には5.6万にまで急増しており,また世界最大の旅行口コミサイトTrip adviserの「ベストディスティネーション(観光地)トップ10」において国内第6位の人気観光地に選出されるなどインバウンドツーリズムの発展が顕著である. 3.インバウンドツーリズムの発展に伴う変容 泊食分離と長期滞在を嗜好する外国人スキー客の増加に伴い,スキー場や宿泊施設,さらに飲食施設や娯楽施設では受入れ態勢の強化が進められている。特にキッチン完備の長期滞在施設や異文化体験型施設など従来みられなかった新たな形態の施設が拡充する一方で,外国人スキー客の受入れの有無により施設間,地区間において格差が増大している点が課題として明らかとなった. 4.インバウンドツーリズムの発展要因 ツーリズムの発展要因として,(1)外国人客の直接的な来訪動機となるスキー場の規模や雪質に加えて,民宿発祥の地に根付く「もてなしの文化」による宿泊施設の固定客確保や残存する民宿や温泉といった地域観光資源の存在,(2)70年代以降のペンションブーム期に移住した和田野地区の宿泊施設を母体とする民間主導の外客誘致団体による発地国へのプロモーション活動や素泊まり客に対応した外国人のための飲食店ガイドブック作成と二次交通の拡充,(3)ゲストのホスト化により在住外国人が自ら旅行代理店や空港バス,宿泊施設など外国人スキー客に対応したサービス(事業)を創出している点に大きく分けられる. 5.結論 外国人スキー客の急増は受入れ側である観光地の施設や地域に変容をもたらした.同時にインバウンドツーリズムの発展は新たな地域的課題を与え,ゲストの増加に伴う治安悪化や騒音問題,また施設間・地区間格差の増大やゲストのホスト化に伴う不動産投資や景観問題など,外国人客(住民)と既存住民の共存・共生が求められている.