- 著者
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磯野 巧
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2015, 2015
本研究の目的は,オーストラリア・カナウィンカ地域において広域的に展開してきたジオパーク運動に地方自治体(LG)がどのように対応してきたのかを,観光地域としての特性を踏まえながら解明することである。カナウィンカ地域はオーストラリア大陸南東域のサウスオーストラリア州およびビクトリア州境に位置し,サウスオーストラリア州の3つのLG(マウントガンビア,グラント,ウォトルレンジ),ビクトリア州の4つのLG(グレネルグ,サザングランピアンズ,モイン,コランガマイト)が該当する。<br><br>オーストラリアでは,国内の地学協会や連邦政府によってジオサイトが大地の遺産として保全・評価の対象となっており,ジオツーリズムやジオパーク運動を実施するための基盤が早期より構築されてきた。2000年代になると,オーストラリア国内でジオパーク・プロジェクトが始動し,大陸南東域に位置するカナウィンカ地域に注目が集まった。カナウィンカ地域では火山景観を活かしたローカルスケールの観光振興が取り組まれており,1990年代以降,その取り組みは地域間連携によって広域的に展開するようになった。広域的観光振興の計画立案から着手までの経緯がスムーズであった背景には,全LGが観光地域としての条件不利性を共通の課題として認識していたことが指摘できる。2000年代には,カナウィンカ地域におけるジオパークの推進が正式に決定し,2008年に世界ジオパークネットワーク(GGN)に加盟するも,2013年の再審査時に連邦政府の判断によってGGNからの脱退が決定し,国内版ジオパークとして再編された。<br><br>カナウィンカ地域にはライムストーンコースト,グランピアンズ,グレートオーシャンロードの3つの観光地域に含まれる7つのLGから構成されており,これらのLGは各々の観光地域の特性を意識した観光戦略を策定してきた。こうした状況下においても,全LGはボランティア組織による広域的観光振興計画に理解を示し,ジオパーク運動に対する財政支援を行ってきた。しかし,ジオパーク運動の推進から十数年が経過し,カナウィンカ地域がGGN加盟から国内版ジオパークとして再編される過程の中で,ジオパーク運動に対するLGの対応に変化がみられるようになった。<br><br>カナウィンカ地域最大のLGであるマウントガンビアは,広域的観光振興の時代から積極的に活動に参与してきた。マウントガンビアには域内最大の観光資源のひとつであるBlue Lakeが存在し,ジオパーク運動の推進はマウントガンビアの観光振興に直結するため,国内版ジオパーク再編期以降もジオパーク運動に対する理解は深い。サザングランピアンズはグランピアンズに包含されるLGのひとつであるが,グランピアンズ国立公園への訪問に際しては,観光関連施設や都市機能が充実する北部域がそのゲートウェイとしての優位性を有しており,サザングランピアンズはグランピアンズ国立公園とは別の独自性のある観光戦略を策定する必要があった。そこで注目されたのがジオパーク運動であり,サザングランピアンズでは次席的な位置付けとしてジオパーク運動を観光戦略に組み込んでいる。サザングランピアンズはカナウィンカ地域において最大規模のインタープリテーション機能をもつ火山博物館を有しており,それを活用した周遊型観光地域の創出にも積極的な姿勢を見せている。一方で,グレートオーシャンロードの一部であるコランガマイトは,GGN時代まではジオパーク運動に対して積極的な姿勢であったものの,国内版ジオパークへの再編以降,LGによる支援は行っていない。その理由として,LGの逼迫した財政状況を受け,より経済効果の見込めるグレートオーシャンロードへと観光戦略を一本化したことが挙げられる。<br><br> 以上より,ジオパークに対するLGの対応は一定の地域差が認められ,それにはカナウィンカ地域がもつ「ジオパークとしてのステータス」が大きな影響を与えていると看取できる。