著者
川添 航 平澤 賢剛 Zou Siqi
出版者
筑波大学人文地理学・地誌学研究会
雑誌
地域研究年報 (ISSN:18800254)
巻号頁・発行日
no.41, pp.161-175, 2019

本研究は,長野県伊那市における4宗教の活動について,地方都市における人口減少・高齢化の影響との関わりから検討した.伊那市が位置する上伊那地域における宗教の展開を概観すると,仏教寺院においては長野県全体の傾向と同じく曹洞宗寺院の割合が比較的高く,キリスト教教会においては戦後以降に伝道が行われ展開していった.現在の状況をみると,仏教寺院や神社の檀家・氏子は大多数の世帯が施設の周辺に分布しており,キリスト教教会や天理教分教会は,日常的な礼拝においても広域な範囲から信徒が訪れている.施設ごとに行われている活動においては,地域における檀家にとっての文化的活動の拠点となっており,転出した檀家や氏子,信徒を地域とつなぎとめるという役割を持っていることも明らかになった.地域との関係性を意識した非信者を対象とした活動も,講演会や社会福祉活動など様々な形で実施されている.僧侶や牧師などの宗教者は,地域における人口減少・高齢化や,ライフスタイルの変化による宗教施設への訪問の減少を10年~15年前から認識し始めており,それらの課題への対応については現在も宗教施設の在り方も含め模索を続けている.伊那市における宗教施設は,新しい役割を見出すことで地域における文化的な拠点として維持存続を図っているといえる.