著者
周 至文 羅 聡 小山 隆太
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.5, pp.263-267, 2015 (Released:2015-11-11)
参考文献数
49

胎生期および小児期は神経回路形成における重要な時期である.この時期における各種のストレスは,ストレスホルモンや炎症因子,そして神経細胞活動の異常などを介して,神経細胞の遺伝子発現や神経回路の形成に異常をもたらし,さまざまな脳疾患に罹患するリスクを上昇させると推察される.本総説では,胎生期および小児期におけるストレスと将来の精神神経疾患発症との関係性について,我々の研究成果を交えながら紹介する.特に,各疾患のモデル動物を用いた研究によって発見された神経生物学的メカニズムに着目しながら議論する.
著者
小山 隆太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

我々は、てんかん原性の獲得に寄与する現象として、乳幼児期に生じる複雑型熱性けいれんと、脳内免疫細胞であるマイクログリアに着目した。熱性けいれんは通常38℃以上の発熱によって引き起こされるが、けいれん状態が重篤な複雑型熱性けいれんは、将来のてんかん発症に関与することが示唆されている。しかし、複雑型熱性けいれん後のてんかん原性の獲得過程におけるマイクログリアの役割は殆ど明らかにされていない。そこで、本研究では高温刺激によって誘導する実験的熱性けいれんモデルマウスを利用して、熱性けいれんによるマイクログリアのプロパティ変化を詳細に検証した。その結果、熱性けいれん後の歯状回では、マイクログリアが抑制性シナプスを貪食することで、シナプスE/Iバランスが興奮性優位に傾斜することが明らかになった。なお、シナプスE/Iバランス破綻の結果として、熱性けいれん後のけいれん閾値が低下した。また、これらの現象は、マイクログリアの不活性化薬であるミノサイクリンによって抑制された。マイクログリアは補体を認識してシナプスを貪食するが、我々は、熱性けいれん後の抑制性シナプスに補体が局在することを発見した。さらに、補体の局在化の一因として、熱性けいれん時の脳内温度に活性化領域を有する温度感受性受容体「TRPV4」が関与することを明らかにした。以上の発見は、マイクログリアやTRPV4をターゲットとした「抗てんかん原性」薬の創薬に貢献しうる。
著者
中島 卓司 伊藤 裕一 貴家 伸尋 池田 真巳 加藤 由博 北山 真司 鬼頭 幸三 郡 逸平 小山 隆太郎 嶋田 喜芳 花岡 雄二 桧垣 竜彦 福田 紘大 山村 淳 李 曄
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.1439-1445, 2016 (Released:2018-01-29)
参考文献数
8

車両空力CFDの性能評価,特に境界層発達と流れの剥離の予測精度評価に有用な計測データを得るため,剥離点を固定しない緩やかな曲面の上面形状を持つ簡易車両モデルを対象に風洞試験を実施した.流れの剥離を誘起する付加物有無の2条件で,空力6分力と表面圧力,周囲速度場を計測し,各定量値と関連する空力現象を示した.
著者
小山 隆太
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

神経発達障害を含む脳疾患の非侵襲的な治療法として、運動の有効性が注目されている。しかしながら、運動を行動に反映する分子細胞生物学的メカニズムの解明は後手を踏んでいる。そこで、我々は、母体免疫活性化(MIA)によって子に生じるMIA関連性行動異常に運動が有効な可能性と、その分子細胞生物学的メカニズムを明らかにすることを目的とした研究を行った。ウィルス感染を模倣したMIAを誘導するため、妊娠マウスにpoly(I:C)を投与した。その結果、このマウスより産まれた仔では、社会性の低下や常同行動の顕在化、そして不安行動の増加などのMIA関連性行動異常が成体期に顕れた。そして、これらのMIA関連性行動異常は、飼育箱に車輪を入れ、自発的に30日間運動をさせることによって抑制された。本研究では、歯状回顆粒細胞層の軸索である苔状線維の興奮性シナプスに着目した。その結果、MIA群では、発達期におけるシナプス除去が阻害される結果、成体期においてコントロール群よりもシナプス数が上昇していた。さらに、このシナプス数の上昇は運動によってコントロールレベルにまで低下することも明らかになり、運動による積極的なシナプス除去機構が働く可能性が示唆された。そこで、貪食によってシナプス除去を行うマイクログリアの動態に着目した。まず、発達期において、MIA群の海馬CA3野では、マイクログリアによるシナプス貪食がコントロール群より低下していた。さらに、成体期においてもMIA群のシナプス貪食は低下していたが、運動を行うことにより、シナプス貪食はコントロールレベルにまで回復した。なお、運動による効果はマイクログリア活性化を抑制するミノサイクリンの投与で阻害された。以上の結果は、成体期の運動による神経回路再編成に、マイクログリアが関与する新規メカニズムを提唱するものである。