著者
紺野 大地 松本 信圭 鈴木 隆文 池谷 裕二
雑誌
第43回日本神経科学大会
巻号頁・発行日
2020-06-15

The brain is intrinsically active even in the absence of external stimuli. Although many researches have studied spontaneous brain activity, few studies have examined the differences in oscillatory frequency, it remained whether the patterns of spontaneous brain activity are similar between different oscillatory frequencies. To address this question, we recorded electrocorticograms (ECoGs) from the visual cortex of free moving rats. ECoG is a well-balanced neural signal, which is stably mapped brain surface local field potentials over a wide cortical region with high signal fidelity and minimal invasiveness to the brain tissue. The ECoG probe used in this study had 32 electrodes on a mesh structure to stably contact them onto the brain surface. We found that the across-electrode propagation pattens of spontaneous brain activity differed across oscillatory frequency bands. For examples, the spatial propagations of delta- and alpha-band activity tended to exhibit an inverse correlation. On the other hand, the propagations of beta- and gamma-band activity were similar. In addition, the spontaneous activity patterns were classified into several clusters using uniform manifold approximation and projection (UMAP) and affinity propagation algorithms. These results reveal a complex relationship between spontaneous brain activity and oscillatory frequencies.
著者
池谷 裕二
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010

脳回路の自己書き換え性を追求する上で、ニューロン同士のつくるシナプスに着目をしながら実験を進めて行ったところ、偶然にもアストロサイトが神経細胞の活動性に大きな影響をあたえることを見出した。アストロサイトはグリア細胞の一種であり、近年の研究では、脳の情報処理に多様な影響をもたらしうる動的な細胞であることはすでに報告されてはいる。しかし、多数のアストロサイトからなるアストロサイト・ネットワークがどのような挙動を示すかということについては未だ不明な点が多い。そこで、本研究では、急性海馬スライス標本における、アストロサイト・ネットワークの自発的な時空間活動パターンを、大規模カルシウムイメージング法によって記録した。その結果、隣接したアストロサイトどうしは、同期したカルシウム活動を示しやすく、ネットワーク全体として、局所的かつ動的な同期細胞集団を形成していることが見出された(本研究では、この活動を「アストロサイト・アイランド」と命名する)。薬理学的検討の結果、このネットワーク活動には、代謝型グルタミン酸受容体の活性化が関与し、神経活動とは独立に生じうることが明らかになった。また、ケージド・カルシウム化合物を用いて数個のアストロサイトを光刺激すると、周辺のニューロンにおいて、数mVの静止膜電位の脱分極と、自発的なシナプス入力頻度の増加が観察された。本結果は、アストロサイト・ネットワークの活動パターンを、従来にないほど大規模かつ詳細に記述するものであり、アストロサイト-ニューロンコミュニケーションを考察する上で重要な知見であると考えている。
著者
越久 仁敬 岡田 泰昌 平田 豊 池谷 裕二
出版者
兵庫医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

吸息活動は、延髄内のpre-Botzingercomplex(preBotC)という場所で起こる。従来の説では、呼吸リズムはpreBotCの神経細胞(ニューロン)が作り出しており、脳のもう一つの主要な構成細胞であるグリア細胞は、ニューロン周囲の細胞外環境を維持する程度の役割しか演じていないと考えられていた。本研究において、我々は、吸息時に活動するニューロンに先行して活動を開始するアストロサイト(グリア細胞の一種)を発見した。ニューロン活動のみを抑えるフグ毒のテトロドトキシンを投与すると、ニューロン活動および呼吸神経出力は消失したが、これらのアストロサイトの周期的な自発活動は残った。さらに、光を照射すると細胞を活性化させるイオンチャネルであるチャネルロドプシン2を、アストロサイトにのみ発現させた遺伝子改変マウスを用い、preBotC領域のアストロサイトを光照射で興奮させると、吸息性ニューロンの活動を惹起させることができた。これらの結果は、アストロサイトがpreBotC領域において呼吸リズム形成に積極的に関与していることを示唆している。
著者
池谷 裕二
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.473, 2015 (Released:2018-08-26)

小山隆太博士は酒に酔うと人柄が一変します.シラフのときでも自身の考えをテキパキと話すタイプですが,アルコールが回ると更に遠慮なく本音を語ります.言うまでもないことですが,とめどもなくクドく,そして,アツいです.そんな彼が昨年の酒席でこぼしていた言葉が「日本薬学会には足を向けて寝られない.私は薬学に育ててもらったようなものだ」です.小山博士が学部学生だった頃から14年間にわたって交流してきた私には,この発言が口からの出まかせでなく,本心からのものであることがよく分かります.それほどまでに日本薬学会を愛する小山博士が,この度,同会の奨励賞を受賞されました.どれほど喜んでおられることか.心より「おめでとう」とお祝い申し上げます.
著者
高 夢璇 佐藤 元重 池谷 裕二
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.138, no.6, pp.809-813, 2018-06-01 (Released:2018-06-01)
参考文献数
7
被引用文献数
2

During the preclinical research period of drug development, animal testing is widely used to help screen out a drug's dangerous side effects. However, it remains difficult to predict side effects within the central nervous system. Here, we introduce a machine learning-based in vitro system designed to detect seizure-inducing side effects before clinical trial. We recorded local field potentials from the CA1 alveus in acute mouse neocortico-hippocampal slices that were bath-perfused with each of 14 different drugs, and at 5 different concentrations of each drug. For each of these experimental conditions, we collected seizure-like neuronal activity and merged their waveforms as one graphic image, which was further converted into a feature vector using Caffe, an open framework for deep learning. In the space of the first two principal components, the support vector machine completely separated the vectors (i.e., doses of individual drugs) that induced seizure-like events, and identified diphenhydramine, enoxacin, strychnine and theophylline as “seizure-inducing” drugs, which have indeed been reported to induce seizures in clinical situations. Thus, this artificial intelligence-based classification may provide a new platform to pre-clinically detect seizure-inducing side effects of drugs.
著者
池谷 裕二
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

もし今まで感知できなかった情報を、人工センサを通じて脳に直接送る方法が開発された時、被験体の脳はその情報を人工センサとともに、すみやかに同化し、活用することができるだろうか。本研究では、磁界の向きを感知し、脳へシグナルを送る「磁気知覚センサ」を開発した。この磁気知覚センサをラットの脳に刺激電極を介して接続することにより、ラットは一次視覚野に直接送られるシグナルを手掛かりとして空間記憶課題を解くことができることを示した。すなわち、補助センサを脳に装着することによって動物が生来感知できないものを新たに感知し、活用できるようになる可能性が示唆された。
著者
池谷 裕二
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.128, no.9, pp.1251-1257, 2008 (Released:2008-09-01)
参考文献数
18
被引用文献数
3 3

Functional multineuron calcium imaging (fMCI) is a large-scale optical technique that records the suprathreshold activity from large neuron populations. fMCI has several advantages, including: i) simultaneous recording from hundreds of neurons, ii) single-cell resolution, iii) identifiable location of neurons, and iv) detection of non-active neurons during the observation period. I review the principle and detailed method of fMCI and also describe the effect of oseltamivir on neuronal network as an example for practical application of fMCI.
著者
池谷 裕二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.5, pp.355-361, 2006 (Released:2006-07-01)
参考文献数
100

海馬苔状線維は歯状回顆粒細胞の軸索である.この軸索は歯状回門で束状化し,透明層と呼ばれる帯状の領域内を投射しながら,歯状回門や海馬CA3野の標的細胞とシナプスを形成する.しかし側頭葉てんかん患者の海馬では,この投射パターンがしばしば崩壊している.苔状線維は歯状回門で異常分岐し,歯状回の内側分子層でシナプスを形成する.これは「苔状線維発芽」とよばれ,ヒトだけでなく側頭葉てんかんのモデル動物でも確認されている.同現象が注目を集める理由は,発芽によって顆粒細胞が再帰型の興奮入力を受けるようになるためであり,この異常回路から過剰な神経活動が発せられるものと想定される.本総説では苔状線維が異常発芽するメカニズムとその結果に焦点を当て,てんかん原性にどのように関与するのかを考える.近年の発見を考慮すれば,発芽は軸索誘導の分子機構の破綻であると捉えることができる.これを踏まえ,異常発芽の予防が側頭葉てんかんの治療につながる可能性についても考察したい.