著者
桜井 良太 藤原 佳典 金 憲経 齋藤 京子 安永 正史 野中 久美子 小林 和成 小川 貴志子 吉田 裕人 田中 千晶 内田 勇人 鈴木 克彦 渡辺 修一郎 新開 省二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.352-360, 2011 (Released:2011-10-12)
参考文献数
30
被引用文献数
6 8

目的:温泉は古くから治療目的などにも用いられてきたが,温泉施設を高齢者に対する健康増進を目的とした介入事業の拠点として用いる有効性について検討した研究は極めて少ない.そこで我々は,運動・栄養指導,温泉入浴からなる複合介入プログラム"すぷりんぐ"を開発し,その効果を無作為化比較試験によって検討した.方法:65歳以上の特定健診該当者を対象に公募により本プログラムへの参加者を募集した.68名が事前調査に参加し,60名(72.7歳±6.0)がプログラムへの参加に同意した.参加者を無作為に介入群31名と対照群29名の2群に割付け,交差法により前期に介入群,後期に対照群に対して複合介入プログラムを3カ月間(週2回,90分)実施した.介入群プログラム終了時(3カ月後:第2回調査)と対照群プログラム終了時(6カ月後:第3回調査)に調査を実施し,プログラムの短期・長期的効果の検討を行った.結果:介入に起因した傷害,事故の発生はなく,介入群の平均プログラム出席率は76%であった.性・年齢・BMIを調整した一般線型モデルの結果,第2回調査時には対照群に比べ,介入群の握力と開眼片足立ちに有意な改善が認められた(各々p =0.028,p =0.003).また,第3回調査において,介入直後に確認された握力と開眼片足立ちの有意な改善の維持が認められ(各々p =0.001,p =0.024),改善傾向が見られたWHO-5の有意な維持・改善が示された(p =0.027).交差後の対照群の介入プログラム出席率も平均81%と比較的高く,対照群への介入時においても傷害,事故の発生は確認されなかった.結論:温泉施設を活用した複合的介入プログラムである"すぷりんぐ"は身体機能を中心とした高齢者の健康増進に寄与するプログラムであることが示された.また,その継続的効果とプログラムの出席率・安全性が確保されていることから,温泉施設を高齢者に対する健康増進を目的とした介入事業の拠点とする意義は高いものと考えられる.
著者
近藤 隆正 小川 貴志子 寺田 修 金 奇人 奥津 光晴 鈴木 克彦
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.89-95, 2009
被引用文献数
1

スケート選手を対象とし,寒冷環境下での身体活動がサイトカイン応答に及ぼす影響を寒冷適応の有無から検討した.寒冷環境適応者のショートトラックスケーター,寒冷環境不適応者のインラインスケーター,それぞれ男子 10 名を被験者とし,60 分間の寒冷 (5~8℃) または常温 (20~25℃) にて安静状態を維持した後,最大酸素摂取量の 65%強度に相当する自転車エルゴメーター運動を 60 分間負荷し,常温で 120 分間安静状態維持を実施した.採血は,安静時,寒冷ないし常温下で 60 分安静後,運動負荷直後,30 分後,60 分後,120 分後の計 6 回肘静脈より行い,血漿を分離した.サイトカインの濃度は酵素免疫測定法により測定した.寒冷環境適応者が常温で運動すると IL-1ra,IL-10, IL-12p40 などのサイトカインが誘導されるが,これらの運動時のサイトカイン応答は寒冷(冷却)によって抑制できることが評価できた.<br>
著者
西 真理子 新開 省二 吉田 裕人 藤原 佳典 深谷 太郎 天野 秀紀 小川 貴志子 金 美芝 渡辺 直紀
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.344-354, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
27
被引用文献数
7 9

目的:地域在宅高齢者における「虚弱(Frailty)」の疫学的特徴を明らかにすることを目的とした.方法:2001年に群馬県草津町在住の70歳以上全高齢者を対象に訪問面接調査を行い,虚弱の出現率を求めた.次いで,2005年に同町と新潟県与板町で行われた高齢者健診(対象70歳以上)のデータを使用し,虚弱高齢者の身体医学的,心理社会的特徴を調べた.虚弱の判定には,虚弱性指標として用いることの妥当性が確認されている「介護予防チェックリスト」を用いた.分析は男女別に行い,各変数について虚弱群と非虚弱群で比較検定し,虚弱の有無と各変数との関連は,年齢,地域,共通罹患の有無,ADL障害の有無を共変量においた多重ロジスティック回帰モデルを用いて分析した.結果:訪問面接調査には916名が応答し(応答率88.2%),うち912名を分析対象とした.虚弱の出現率は,男性で24.3%,女性で32.4%であった.虚弱の出現率は,男性は80歳以降,女性は75歳以降で急増する傾向がみられた.高齢者健診は1,005名が受け,うち974名を分析対象とした.多重ロジスティック回帰分析の結果を総合すると,身体的機能や心理社会的機能,生活機能などの低水準が虚弱高齢者の特徴として示された.また,非虚弱群に比べ虚弱群の方が,認知機能検査の成績が低く,抑うつ傾向の割合が高く,男性で聴力障害,女性で尿失禁や歩行障害の保有率が高いなど,いわゆる老年症候群との関連が示された.一方,心拍数と血圧,男性で一般的な血液検査項目と虚弱との関連は示されなかった.結論:70歳以上の在宅高齢者の約3割が虚弱であった.虚弱があらゆる老年症候群と密接に関係するmultifactorial syndromeであるという病態像が浮かび上がった.虚弱の病態は,心身機能や生活機能などの機能的諸側面の低さに現れやすく,一般的な臨床医学検査には表出されにくい特徴を有することが明らかになった.
著者
小川 貴志子 藤原 佳典 吉田 裕人 西 真理子 深谷 太郎 金 美芝 天野 秀紀 李 相侖 渡辺 直紀 新開 省二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.545-552, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
17
被引用文献数
19 40

目的:介護保険制度で用いられている基本チェックリストによる虚弱判定のcut-off pointをFriedらの定義に照らして検討した.さらに,同チェックリストで虚弱と判定された高齢者の血液生化学及び炎症マーカーの特徴を明らかにすることを目的とした.方法:1)群馬県草津町に在住する65歳以上の住民を対象に実施されている高齢者健診を2007年と2008年の2年とも受診した420人を対象に,Friedらの基準による虚弱判定と基本チェックリスト(1~20項目)得点との関係を分析し,その併存的妥当性を検討した.2)その結果得られた基本チェックリストのcut-off pointを利用し,2008年同町の高齢者健診受診者(665人)の虚弱判定を行った.さらに,虚弱群と非虚弱群の血液生化学及び炎症マーカーを比較した.結果:1)Friedらの判定に対する基本チェックリスト(1~20項目)のYouden Indexはcut-off point 4/5点であったが,虚弱判定は特異度を重視し,cut-off point 5/6点に設定した.この時,感度,特異度はそれぞれ60.0%,86.4%であった.2)男性34名(12.3%)女性74名(19.0%)が虚弱と判定された.性,年齢を調整した虚弱に対するIL-6のリスク比(第1三分位に対する第3三分位)は2.05[95%信頼区間(CI):1.15-3.64],握力の同リスク比は0.19[95%CI:0.07-0.46],歩行速度の同リスク比は0.23[95%CI:0.12-0.45]であった.炎症マーカーのうちIL-6第3三分位かつβ2-ミクログロブリン(MG)第3三分位群の虚弱に対するリスク比は5.61[95%CI:2.40-13.11]であった.結論:基本チェックリストを用い「虚弱」を判定することは可能であり,IL-6とβ2-MGの両方を組み合わせた指標は,虚弱マーカーとして有用であることが示唆された.