著者
吉田 裕人 藤原 佳典 天野 秀紀 熊谷 修 渡辺 直紀 李 相侖 森 節子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.156-167, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
17
被引用文献数
5

目的 在宅高齢者を対象とした介護予防事業の効果を経済的側面から評価することを目的とした。方法 新潟県与板町において平成12年11月に実施された高齢者総合健康調査(対象は同町65歳以上の全住民1,673人)には1,544人が応答した(応答率92.3%)。この結果を受けて,同町では交流サロン,転倒予防教室,認知症予防教室などの介護予防事業を立ち上げながら,「住民参加」を理念とした介護予防活動を推進してきた。 平成16年 3 月の時点で同町在住が確認できた70歳以上で高齢者総合健康調査に応答し,平成13年から平成15年の 3 年間に介護予防事業に参加した146人を介護予防事業参加群,同じく70歳以上で高齢者総合健康調査のデータを有しているが,介護予防事業に参加したことがない846人を介護予防事業非参加群と定義した。その上で,2 群間における平成12年度から15年度までの老人医療費(国民健康保険または被用者保険からの給付+自己負担分)および介護費用(介護保険からの給付+自己負担分)の推移を観察し,介護予防事業による費用抑制効果を算出した。また,一般線形モデルにより,性,ベースライン時の年齢,総費用(医療費+介護費用)もしくは健康度(老研式活動能力指標得点,総合的移動能力尺度)を調整した総費用を算出し,事業参加による独立した影響を評価した。結果 月 1 人あたり平均医療費は参加群では減少した(平成12年度51,606円/月→平成15年度47,539円/月)が,非参加群では増加した(同41,888円/月→同51,558円/月)。月 1 人あたり平均介護費用は両群とも増加したが,増加の程度は参加群ではわずかであった(参加群,平成12年度507円/月→平成15年度5,186円/月,非参加群,同8,127円/月→同27,072円/月)。非参加群に比べた参加群の総費用の増加抑制の総額は 3 年間では約4,900万円と算出された。 また,交絡要因調整後の総費用の増加抑制の総額は最も大きな場合,年平均で約1,200万円/年,同じく介護予防事業の純便益は約1,000万円/年であった。これは介護予防事業の独立した効果と考えられた。結論 新潟県与板町において平成12年度から展開されてきた介護予防事業は,参加者のその後の医療費や介護費用の伸びを大きく抑制し,費用対効果の極めて優れた保健事業であることが示唆された。
著者
藤原 佳典 西 真理子 渡辺 直紀 李 相侖 井上 かず子 吉田 裕人 佐久間 尚子 呉田 陽一 石井 賢二 内田 勇人 角野 文彦 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.702-714, 2006-09-15
参考文献数
29
被引用文献数
16

<b>目的</b>&emsp;高齢者の高次生活機能である社会的役割と知的能動性を継続的に必要とする知的ボランティア活動&mdash;子供への絵本の読み聞かせ&mdash;による介入研究&ldquo;REPRINTS&rdquo;を開始した。その 1 年間にわたる取り組みから得られた知見と課題を整理し,高齢者による社会活動の有効性と活動継続に向けた方策を明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;&ldquo;REPRINTS&rdquo;プログラムの基本コンセプトは高齢者による「社会貢献」,「生涯学習」,「グループ活動」である。対象地域は都心部(東京都中央区),住宅地(川崎市多摩区),地方小都市(滋賀県長浜市)を選び,2004年 6 月一般公募による60歳以上ボランティア群67人と対照群74人にベースライン健診を行った。3 か月間(週 1 回 2 時間)のボランティア養成セミナーを修了後,6~10人単位のグループに分かれ地域の公立小学校,幼稚園,児童館への定期的な訪問・交流活動(主な内容は絵本の読み聞かせ)を開始し,2005年 3 月に第二回健康診査を行った。<br/><b>結果</b>&emsp;ベースライン健診において,孫のいない者の割合(41.8% vs. 20.3%,<i>P</i>=0.006),就学年数(13.4&plusmn;2.5 vs. 12.3&plusmn;2.5年,<i>P</i>=0.008),過去のボランティア経験あり(79.1% vs. 52.7%, <i>P</i>=0.001),通常歩行速度(86.7&plusmn;12.3 vs. 81.3&plusmn;12.9 m/分,<i>P</i>=0.012)で,ボランティア群は対照群に比べそれぞれ有意に高かったが,他の諸変数では両群に有意差はなかった。第二回健診時点での活動継続者56人は社会的ネットワーク得点で,孫,近隣以外の子供との交流頻度および近隣以外の友人・知人の数が対照群に比べて有意に増加した。社会的サポート得点でボランティア群は対照群に比べて友人・近隣の人からの受領サポート得点は有意に減少したが,提供サポート得点は有意に増加した。ボランティア群は対照群に比べて「地域への愛着と誇り」,健康度自己評価,および握力において有意な改善または低下の抑制がみられた。<br/><b>結論</b>&emsp;9 か月間の世代間交流を通した知的ボランティア活動により健常高齢者の主観的健康感や社会的サポート・ネットワークが増進し,地域共生意識および体力の一部に効果がみられた。自治体との協働により,新たな地域高齢者のヘルスプロモーションプログラムを構築しうることが示唆された。
著者
藤原 佳典 天野 秀紀 熊谷 修 吉田 裕人 藤田 幸司 内藤 隆宏 渡辺 直紀 西 真理子 森 節子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.77-91, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
32
被引用文献数
4

目的 在宅自立高齢者が初回介護保険認定を受ける関連要因を,要介護認定レベル別に明らかにする。方法 新潟県与板町在住の65歳以上全高齢者1,673人を対象にした面接聞き取り調査(2000年11月実施,初回調査と称す)に1,544人が応答した。ベースライン調査時の総合的移動能力尺度でレベル 1(交通機関を利用し一人で外出可能)に相当し,未だ要介護認定を受けていない1,225人をその後 3 年 4 か月間追跡した。この間,介護保険を申請し要支援・要介護 1 と認定された者を軽度要介護認定群,要介護 2~5 の者を重度要介護認定群,未申請で生存した群(以降,イベント未発生群と称す)に分類し,男女別にイベント未発生群と軽度あるいは重度要介護認定群との間で初回調査時の特性を比較した。つぎに Cox 比例ハザードモデル(年齢,老研式活動能力指標の手段的自立,慢性疾患の既往は強制投入し,単変量分析で有意差のみられた変数すべてをモデルに投入したステップワイズ法)を用いて,要介護認定に関連する予知因子を抽出した。成績 追跡対象者のうち初回調査時に BADL 障害がなく,かつ申請前の死亡者を除く1,151人を分析対象とした。うちイベント未発生群は1,055人,軽度要介護認定群は49人,重度要介護認定群は47人であった。男女とも共通して在宅自立高齢者の軽度要介護認定に関連する予知因子として高年齢と歩行能力低下(男は「1 km 連続歩行または階段昇降のいずれかができないまたは難儀する」のハザード比が7.22[95%CI 1.56-33.52] P=0.012;女は「1 km 連続歩行・階段昇降ともにできないまたは難儀する」のハザード比は3.28[95%CI 1.28-8.42] P=0.014)が,また重度要介護認定の予知因子として高年齢と手段的自立における非自立(4 点以下のハザード比は男で3.74[95%CI 1.59-8.76] P=0.002;女で3.90[95%CI 1.32-11.54] P=0.014)が抽出された。また,男性のみ重度要介護認定に重度認知機能低下が,女性のみ軽度要介護認定に入院歴と咀嚼力低下が抽出された。結論 在宅自立高齢者の要介護認定の予知因子は,高年齢を除き,大半は介護予防事業により制御可能であろう。今後,これら介護予防事業の効果が学術的に評価されることが期待される。
著者
成田 龍一 竹内 栄美子 鈴木 勝雄 高 榮蘭 丸川 哲史 黒川 みどり 坪井 秀人 島村 輝 戸邉 秀明 渡辺 直紀 東 由美子
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

高度成長文化研究会を定期的に開催し各自の成果を共有した。7月9日には、研究代表者・成田龍一と研究分担者・坪井秀人が、1960年前後の世相と社会運動をめぐって問題提起をした。また、2018年3月23日に『思想』「<世界史>をいかに語るか」(同年3月号)をとりあげ合評会をおこなった(WINCとの共催)。こうした研究活動の成果は、アメリカの研究者との研究集会によって還元した。6月9日~12日まで、UCLAでの国際ワークショップ「トランスパシフィック ワークショップ」に、成田、研究分担者・渡辺直紀、同・高榮蘭、岩崎稔、鳥羽耕史、坪井が参加、報告した。また、成田と岩崎、坪井は8月30日~9月3日まで、EAJS(ヨーロッパ日本学会)リスボン大会に参加し、報告し議論した。また、9月21日~23日、韓国・ソウルに国際シンポジウムに参加、成田、渡辺、坪井、岩崎、高、および、研究分担者・島村輝、同・竹内栄美子が報告した。10月25日~28日まで、アメリカ合衆国でおこなわれた国際シンポジウムに、成田と岩崎が参加し報告・討議をおこなった。2018年3月2日~4日には、国際日本文化研究センターが主宰する国際シンポジウム「戦後文化再考」で成田が報告したほか、島村、高、研究分担者・戸邉秀明が参加した。そのほか、成田は、琉球大学で開かれた戦争社会学会 4月22-24日)で報告したほか、日本社会文学会(10月4日、5日)で、井上ひさしについて報告をおこない、成果を還元した。12月17日には、シンポジウム「ジェンダー史が拓く歴史教育」(奈良女子大学)で報告した。また、各自が出版活動をおこない、随時、成果を公表している。高度成長の思想史を考察し、歴史学、文学史の領域で成果を着実に公表している。文献史料とあわせ、本研究では重要な核となる大衆文化にかかわる資料も、DVDをはじめ順調に収集され前進している。
著者
西 真理子 新開 省二 吉田 裕人 藤原 佳典 深谷 太郎 天野 秀紀 小川 貴志子 金 美芝 渡辺 直紀
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.344-354, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
27
被引用文献数
7 9

目的:地域在宅高齢者における「虚弱(Frailty)」の疫学的特徴を明らかにすることを目的とした.方法:2001年に群馬県草津町在住の70歳以上全高齢者を対象に訪問面接調査を行い,虚弱の出現率を求めた.次いで,2005年に同町と新潟県与板町で行われた高齢者健診(対象70歳以上)のデータを使用し,虚弱高齢者の身体医学的,心理社会的特徴を調べた.虚弱の判定には,虚弱性指標として用いることの妥当性が確認されている「介護予防チェックリスト」を用いた.分析は男女別に行い,各変数について虚弱群と非虚弱群で比較検定し,虚弱の有無と各変数との関連は,年齢,地域,共通罹患の有無,ADL障害の有無を共変量においた多重ロジスティック回帰モデルを用いて分析した.結果:訪問面接調査には916名が応答し(応答率88.2%),うち912名を分析対象とした.虚弱の出現率は,男性で24.3%,女性で32.4%であった.虚弱の出現率は,男性は80歳以降,女性は75歳以降で急増する傾向がみられた.高齢者健診は1,005名が受け,うち974名を分析対象とした.多重ロジスティック回帰分析の結果を総合すると,身体的機能や心理社会的機能,生活機能などの低水準が虚弱高齢者の特徴として示された.また,非虚弱群に比べ虚弱群の方が,認知機能検査の成績が低く,抑うつ傾向の割合が高く,男性で聴力障害,女性で尿失禁や歩行障害の保有率が高いなど,いわゆる老年症候群との関連が示された.一方,心拍数と血圧,男性で一般的な血液検査項目と虚弱との関連は示されなかった.結論:70歳以上の在宅高齢者の約3割が虚弱であった.虚弱があらゆる老年症候群と密接に関係するmultifactorial syndromeであるという病態像が浮かび上がった.虚弱の病態は,心身機能や生活機能などの機能的諸側面の低さに現れやすく,一般的な臨床医学検査には表出されにくい特徴を有することが明らかになった.
著者
渡邊 祐紀 赤林 朗 池田 智子 富田 真紀子 渡辺 直紀 甲斐 一郎
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.111-119, 2000-09-13
被引用文献数
3

高齢化社会を迎えつつある現在、医療現場における高齢者の治療法決定への参加のあり方は、早急に検討するべき課題となっている。本研究では、心肺蘇生法(CPR)を取り上げ、寿命があと2、3ヵ月の末期癌の入院患者において、CPR施行の決定者、CPR施行の希望、患者本人の意向と家族や周囲の者の意見が異なった際の対応等について、中・高齢者(50歳以上)を対象に面接による意識調査を行い、CPR施行について意思決定の過程を考察した。調査は1999年5月〜6月に都内A寺において行われ、110名より有効回答が得られた。解析の結果、患者自身による治療法決定の考え方(自己決定)が中・高齢者の間に浸透していることが明らかになり、CPR施行を希望しないという回答者が多数を占めた。また、決定者間で意見に不一致が見られた場合には、必ずしも患者本人の意向を優先しなくてもよいとする傾向や、おかれた状況が患者本人か家族であるかによって、回答内容が変化する傾向も明らかになった。
著者
小川 貴志子 藤原 佳典 吉田 裕人 西 真理子 深谷 太郎 金 美芝 天野 秀紀 李 相侖 渡辺 直紀 新開 省二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.545-552, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
17
被引用文献数
19 40

目的:介護保険制度で用いられている基本チェックリストによる虚弱判定のcut-off pointをFriedらの定義に照らして検討した.さらに,同チェックリストで虚弱と判定された高齢者の血液生化学及び炎症マーカーの特徴を明らかにすることを目的とした.方法:1)群馬県草津町に在住する65歳以上の住民を対象に実施されている高齢者健診を2007年と2008年の2年とも受診した420人を対象に,Friedらの基準による虚弱判定と基本チェックリスト(1~20項目)得点との関係を分析し,その併存的妥当性を検討した.2)その結果得られた基本チェックリストのcut-off pointを利用し,2008年同町の高齢者健診受診者(665人)の虚弱判定を行った.さらに,虚弱群と非虚弱群の血液生化学及び炎症マーカーを比較した.結果:1)Friedらの判定に対する基本チェックリスト(1~20項目)のYouden Indexはcut-off point 4/5点であったが,虚弱判定は特異度を重視し,cut-off point 5/6点に設定した.この時,感度,特異度はそれぞれ60.0%,86.4%であった.2)男性34名(12.3%)女性74名(19.0%)が虚弱と判定された.性,年齢を調整した虚弱に対するIL-6のリスク比(第1三分位に対する第3三分位)は2.05[95%信頼区間(CI):1.15-3.64],握力の同リスク比は0.19[95%CI:0.07-0.46],歩行速度の同リスク比は0.23[95%CI:0.12-0.45]であった.炎症マーカーのうちIL-6第3三分位かつβ2-ミクログロブリン(MG)第3三分位群の虚弱に対するリスク比は5.61[95%CI:2.40-13.11]であった.結論:基本チェックリストを用い「虚弱」を判定することは可能であり,IL-6とβ2-MGの両方を組み合わせた指標は,虚弱マーカーとして有用であることが示唆された.