著者
熊谷 修 渡辺 修一郎 柴田 博 天野 秀紀 藤原 佳典 新開 省二 吉田 英世 鈴木 隆雄 湯川 晴美 安村 誠司 芳賀 博
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1117-1124, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
23
被引用文献数
35

目的 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能の自立度低下の関連を分析する。対象と方法 対象は,秋田県南外村に在住する65歳以上の地域高齢者である。ベーライン調査は1992年,追跡調査は1997年に行われた。ベースライン調査には748人が参加し,追跡時に生存し調査に参加した男性235人,女性373人,計608人(平均年齢:71.5歳)を分析対象とした。調査方法は面接聞き取り調査法を採用した。高次生活機能の自立度は,老研式活動能力指標により測定した。食品摂取の多様性は,肉類,魚介類,卵類,牛乳,大豆製品,緑黄色野菜類,海草類,果物,芋類,および油脂類の10食品群を選び,1 週間の食品摂取頻度で把握した。各食品群について「ほぼ毎日食べる」に 1 点,「2日 1 回食べる」,「週に 1, 2 回食べる」,および「ほとんど食べない」の摂取頻度は 0 点とし,合計点数を求め食品摂取の多様性得点とした。解析は,1 点以上の老研式活動能力指標得点の低下の有無を従属変数(低下あり 1,なし 0),食品摂取の多様性得点を説明変数とする多重ロジスティック回帰分析によった。結果 分析対象のベースライン時の食品摂取の多様性得点の平均値は男性,6.5,女性6.7点であった。老研式活動能力指標総合点の平均点は11.4点であった。食品摂取の多様性得点の高い群で老研式活動能力指標の得点低下の危険度が低いことが認められた。老研式活動能力指標の得点低下の相対危険度[95%信頼区間]は,食品摂取の多様性得点が 3 点以下の群(10パーセンタイル(P)以下)を基準としたとき,4~8 点の群(10P 超90P 未満)および 9 点以上の群(90P 以上)では,手段的自立においては,それぞれ0.72[0.50-1.67], 0.61[0.34-1.48],知的能動性においては,それぞれ0.50[0.29-0.86], 0.40[0.20-0.77],社会的役割においては,それぞれ0.44[0.26-0.0.75], 0.43[0.20-0.82]であった。この関係は,性,年齢,学歴,およびベースラインの各下位尺度得点の影響を調整した後のものである。結論 多様な食品を摂取することが地域在宅高齢者の高次生活機能の自立性の低下を予防することが示唆された。
著者
谷口 優 清野 諭 藤原 佳典 野藤 悠 西 真理子 村山 洋史 天野 秀紀 松尾 恵理 新開 省二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.269-277, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
25
被引用文献数
1 3

目的:本研究では,1.身体機能,骨格筋量,及び身体機能と骨格筋量に基づくサルコペニアと認知機能との横断的な関連 2.身体機能,骨格筋量,及びサルコペニアと認知機能低下との縦断的な関連をそれぞれ明らかにすることを目的とした.方法:群馬県草津町在住の65歳以上を対象とした介護予防健診データをもとに,ベースライン調査(2008年から2011年)が完了した805名を横断的解析対象者とし,その後2012年までに再度認知機能検査が完了した649名を縦断的解析対象者とした.身体機能は,握力及び通常歩行速度から身体機能得点を算出した.認知機能はMini-Mental State Examination(MMSE)により評価し,追跡期間中の年平均変化量0.5点以上の低下を認知機能低下(CD)有りと定義した.結果:身体機能,骨格筋量及びサルコペニアと認知機能との間にそれぞれ有意な横断的な関連性がみられた.縦断的解析では,平均追跡期間3.0±1.1年に201名(31.0%)のCDがみられた.重要な交絡要因を調整したロジスティック回帰分析を行った結果,CD有りに対する身体機能[OR=0.75(95%信頼区間0.65~0.87)]に有意な関連性がみられたが,骨格筋量には有意な関連性はみられなかった.AWGS(Asia Working Group for Sarcopenia)基準による身体機能と骨格筋量の組み合わせにより分類した低身体機能かつ骨格筋量正常群は,身体機能と骨格筋量いずれも正常群に比べてCD発生リスクが有意に高かった[OR=2.10(1.18~3.38)].一方,低身体機能かつ低骨格筋量群(サルコペニア)ではCD発生に対する差の傾向がみられた[OR=1.57(0.93~2.63)].結論:地域在宅高齢者の身体機能,骨格筋量及びサルコペニアは,それぞれ認知機能の関連要因であった.高齢期の身体機能は,CDに対して社会医学的要因とは独立した予測因子であり,骨格筋量が正常であっても低身体機能の高齢者は将来認知機能が低下するリスクが高いことが示唆された.
著者
秦 俊貴 清野 諭 遠峰 結衣 横山 友里 西 真理子 成田 美紀 日田 安寿美 新開 省二 北村 明彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.477-492, 2021-07-15 (Released:2021-07-20)
参考文献数
58

目的 本研究の目的は,食品摂取の多様性を向上させるための10食品群の摂取チェック表(以下,食べポチェック表)について,使用した効果を明らかにする。方法 東京都大田区において実施した2016年と2018年の郵送調査に応答した65-84歳の8,635人を対象とした。2017年7月より大田区において,協力の得られたスーパーマーケットなどの機関に設置する等の方法で普及させた食べポチェック表について,2018年にチェック経験を尋ね,「習慣的にチェックしている」,「チェックしたことがある」と回答した者をチェック経験あり群に分類した。2016年の人口統計学的変数,社会経済的変数,身体的変数,医学的変数,生活習慣関連変数および食品摂取多様性スコア(DVS)の計37の共変量から傾向スコアを算出し,チェック経験あり群となし群の比を1:1としてマッチングし,2年間のDVSの変化をチェック経験あり群となし群各876人について二元配置分散分析を用いて比較した。また,2018年のDVS 3点以下および7点以上を従属変数として,チェック経験なし群に対するあり群の多変量調整済みオッズ比(OR)を多変量調整ロジスティック回帰分析にて算出した。結果 2018年に食べポチェック表のチェック経験があると回答した者の割合は11.9%であった。マッチング後のチェック経験あり群となし群のDVSの平均値±標準偏差は,2016年ではそれぞれ3.9±2.2点,3.9±2.3点,2018年ではそれぞれ4.5±2.4点,4.1±2.4点であり,チェック経験と時間による有意な交互作用が認められた(P<0.001)。2018年でのチェック経験あり群となし群のDVS 3点以下割合は,それぞれ35.2%,43.8%であり,DVS 7点以上割合は,それぞれ21.7%,16.8%であった。チェック経験なし群に対するあり群の2018年のDVS 3点以下のOR(95%信頼区間)は0.68(0.56-0.83)であり,2018年のDVS 7点以上のOR(95%CI)は1.40(1.10-1.78)であった。結論 食べポチェック表の普及とその活用により,高齢者の食品摂取の多様性が向上した可能性が示された。ただし,チェック表を使用した場合でも,欠食や社会的孤立,社会参加がないこと,およびフレイル傾向がある場合は食品摂取の多様性は向上しにくいことが示唆された。
著者
桜井 良太 藤原 佳典 金 憲経 齋藤 京子 安永 正史 野中 久美子 小林 和成 小川 貴志子 吉田 裕人 田中 千晶 内田 勇人 鈴木 克彦 渡辺 修一郎 新開 省二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.352-360, 2011 (Released:2011-10-12)
参考文献数
30
被引用文献数
6 8

目的:温泉は古くから治療目的などにも用いられてきたが,温泉施設を高齢者に対する健康増進を目的とした介入事業の拠点として用いる有効性について検討した研究は極めて少ない.そこで我々は,運動・栄養指導,温泉入浴からなる複合介入プログラム"すぷりんぐ"を開発し,その効果を無作為化比較試験によって検討した.方法:65歳以上の特定健診該当者を対象に公募により本プログラムへの参加者を募集した.68名が事前調査に参加し,60名(72.7歳±6.0)がプログラムへの参加に同意した.参加者を無作為に介入群31名と対照群29名の2群に割付け,交差法により前期に介入群,後期に対照群に対して複合介入プログラムを3カ月間(週2回,90分)実施した.介入群プログラム終了時(3カ月後:第2回調査)と対照群プログラム終了時(6カ月後:第3回調査)に調査を実施し,プログラムの短期・長期的効果の検討を行った.結果:介入に起因した傷害,事故の発生はなく,介入群の平均プログラム出席率は76%であった.性・年齢・BMIを調整した一般線型モデルの結果,第2回調査時には対照群に比べ,介入群の握力と開眼片足立ちに有意な改善が認められた(各々p =0.028,p =0.003).また,第3回調査において,介入直後に確認された握力と開眼片足立ちの有意な改善の維持が認められ(各々p =0.001,p =0.024),改善傾向が見られたWHO-5の有意な維持・改善が示された(p =0.027).交差後の対照群の介入プログラム出席率も平均81%と比較的高く,対照群への介入時においても傷害,事故の発生は確認されなかった.結論:温泉施設を活用した複合的介入プログラムである"すぷりんぐ"は身体機能を中心とした高齢者の健康増進に寄与するプログラムであることが示された.また,その継続的効果とプログラムの出席率・安全性が確保されていることから,温泉施設を高齢者に対する健康増進を目的とした介入事業の拠点とする意義は高いものと考えられる.
著者
吉田 裕人 藤原 佳典 天野 秀紀 熊谷 修 渡辺 直紀 李 相侖 森 節子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.156-167, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
17
被引用文献数
5

目的 在宅高齢者を対象とした介護予防事業の効果を経済的側面から評価することを目的とした。方法 新潟県与板町において平成12年11月に実施された高齢者総合健康調査(対象は同町65歳以上の全住民1,673人)には1,544人が応答した(応答率92.3%)。この結果を受けて,同町では交流サロン,転倒予防教室,認知症予防教室などの介護予防事業を立ち上げながら,「住民参加」を理念とした介護予防活動を推進してきた。 平成16年 3 月の時点で同町在住が確認できた70歳以上で高齢者総合健康調査に応答し,平成13年から平成15年の 3 年間に介護予防事業に参加した146人を介護予防事業参加群,同じく70歳以上で高齢者総合健康調査のデータを有しているが,介護予防事業に参加したことがない846人を介護予防事業非参加群と定義した。その上で,2 群間における平成12年度から15年度までの老人医療費(国民健康保険または被用者保険からの給付+自己負担分)および介護費用(介護保険からの給付+自己負担分)の推移を観察し,介護予防事業による費用抑制効果を算出した。また,一般線形モデルにより,性,ベースライン時の年齢,総費用(医療費+介護費用)もしくは健康度(老研式活動能力指標得点,総合的移動能力尺度)を調整した総費用を算出し,事業参加による独立した影響を評価した。結果 月 1 人あたり平均医療費は参加群では減少した(平成12年度51,606円/月→平成15年度47,539円/月)が,非参加群では増加した(同41,888円/月→同51,558円/月)。月 1 人あたり平均介護費用は両群とも増加したが,増加の程度は参加群ではわずかであった(参加群,平成12年度507円/月→平成15年度5,186円/月,非参加群,同8,127円/月→同27,072円/月)。非参加群に比べた参加群の総費用の増加抑制の総額は 3 年間では約4,900万円と算出された。 また,交絡要因調整後の総費用の増加抑制の総額は最も大きな場合,年平均で約1,200万円/年,同じく介護予防事業の純便益は約1,000万円/年であった。これは介護予防事業の独立した効果と考えられた。結論 新潟県与板町において平成12年度から展開されてきた介護予防事業は,参加者のその後の医療費や介護費用の伸びを大きく抑制し,費用対効果の極めて優れた保健事業であることが示唆された。
著者
藤田 幸司 藤原 佳典 熊谷 修 渡辺 修一郎 吉田 祐子 本橋 豊 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.168-180, 2004 (Released:2014-08-29)
参考文献数
27
被引用文献数
39 48

目的 地域高齢者における外出頻度の健康指標としての妥当性を検討するとともに,低い外出頻度に関わる要因を明らかにすることである。方法 新潟県与板町在住の65歳以上全高齢者1,673人を対象に面接調査を行い,身体・心理・社会的特徴を調べた。得られた結果を,ふだんの外出頻度 4 群間(毎日 1 回以上,2~3 日に 1 回程度,1 週間に 1 回程度,ほとんどない)で比較し,外出頻度の外的基準妥当性を検討した。また,低い外出頻度に関わる要因を明らかにするため,「毎日 1 回以上」vs.「2~3 日に 1 回程度」あるいは「1 週間に 1 回程度以下」を目的変数とし,性・年齢を調整しても有意な関連性を認めた変数をすべて説明変数に投入した多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。結果 入院・入所中,長期不在,すでに死亡であったものを除く1,588人のうち1,544人(男性39.7%,女性60.3%)から回答が得られた(応答率97.2%)。外出頻度の分布は,全体では「毎日 1 回以上」76.3%,「2~3 日に 1 回程度」13.1%,「1 週間に 1 回程度」3.7%,「ほとんどない」6.9%であった。65~69歳を除く各年齢階級においては,外出頻度の分布に性差はみられなかったが,男女とも80歳以降になると明らかに外出頻度は低かった。 外出頻度の低い高齢者は,ほとんどすべての身体・心理・社会的な側面で健康水準が低かった。外出頻度は,総合的移動能力レベル,老研式活動能力指標あるいは GDS 短縮版の得点と強い相関性を示した。外出頻度が「週 1 回程度以下」であることの独立した関連要因(カテゴリー)は,年齢(高い),歩行障害(あり),転倒不安による外出制限(あり),心疾患の既往(あり),手段的自立や社会的役割(障害あり),近所づきあいの頻度(週 1 回以下),集団活動への参加(なし),散歩・体操の習慣(なし),油脂類の摂取頻度(2 日に 1 回未満)であり,一方,「2~3 日に 1 回程度」であることのそれは,就労(なし),脳血管障害の既往(あり),抑うつ度(GDS 短縮版得点 6 点以上),近所づきあいの頻度(週 1 日以下),集団活動への参加(なし),油脂類の摂取頻度(1 日に 1 回末満)であった。結論 地域高齢者においては外出頻度が低いほど身体・心理・社会的側面での健康水準は低く,すでに信頼性・妥当性が検証されている健康指標との相関性も高かったことから,外出頻度は地域高齢者の包括的な健康指標の一つとみなすことができよう。
著者
新開 省二 藤田 幸司 藤原 佳典 熊谷 修 天野 秀紀 吉田 裕人 竇 貴旺
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.627-638, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
25
被引用文献数
10

目的 地域高齢者におけるタイプ別閉じこもりの予後と,それぞれの閉じこもりが予後に及ぼす独立した影響を明らかにする。方法 新潟県与板町の65歳以上の地域高齢者1,673人を対象とした初回調査(2000年11月実施)に応答した1,544人(応答率92.2%)を 2 年間追跡し(追跡調査は2002年10月実施),初回調査の総合的移動能力とふだんの外出頻度から定義したタイプ 1(総合的移動能力がレベル 3 以下かつ外出頻度が週 1 回程度以下)およびタイプ 2(同レベルが 1 または 2 かつ外出頻度が週 1 回程度以下)の閉じこもりの予後を,それぞれの対照群(総合的移動能力が同レベルであるが,外出頻度が 2,3 日に 1 回程度以上である非閉じこもり)との間で比較した。予後指標は,追跡期間中の死亡,追跡調査時の入院・入所および活動能力水準(歩行能力,手段的 ADL,基本的 ADL,認知機能),あるいは活動能力障害の新規発生とした。閉じこもりの独立した影響は,重回帰分析あるいは多重ロジスティックモデルを用いて,交絡要因(性,年齢,慢性疾患,初回調査時の活動能力水準や心理・社会的変数)を調整して検討した。成績 初回調査に応答し,閉じこもりの有無とタイプが判定できた1,520人の内訳は,レベル 1,2 非閉じこもり1,322人(87.0%),タイプ 2 閉じこもり81人(5.3%),レベル 3 以下非閉じこもり39人(2.6%),タイプ 1 閉じこもり78人(5.1%)であった。タイプ 2 は対照群に比べ,2 年後の活動能力が低下しやすく,交絡要因を調整しても活動能力低下の独立したリスク要因であった。2 年後活動能力障害が新規に発生するタイプ 2 の相対危険度(オッズ比とその95%信頼区間)は,一部の交絡要因を調整したモデルでは,歩行障害3.20(1.60-6.38),手段的 ADL 障害2.85(1.20-6.82),基本的 ADL 障害1.52(0.61-3.75),認知機能障害3.05(1.06-8.78)であり,すべての交絡要因を調整したモデルではそれぞれ2.49(1.20-5.17),2.25(0.90-5.63),1.46(0.54-3.94),2.41(0.71-8.17)であった。一方,タイプ 1 は対照群に比べ,追跡期間中の死亡率は高かった(33.3% vs. 5.1%)が,入院・入所の割合は低く(9.0% vs. 25.6%),それらの合計に対してはタイプ 1 の独立した影響は認められなかった(調整済オッズ比は2.05[0.54-7.75])。結論 タイプ 2 閉じこもりは移動能力が高い高齢者における活動能力低下の独立したリスク要因であるが,タイプ 1 閉じこもりは移動能力が低い高齢者の予後を左右する独立したリスク要因とはいいがたい。
著者
北村 明彦 阿部 巧 藤原 佳典 新開 省二 清野 諭 谷口 優 横山 友里 天野 秀紀 西 真理子 野藤 悠 成田 美紀 池内 朋子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.134-145, 2020

<p><b>目的</b> 高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施が進められる中,生活習慣病やフレイル関連の各因子が地域在住高齢者の自立喪失に及ぼす影響の強さ(ハザード比)と大きさ(寄与危険度割合)を明らかにする。</p><p><b>方法</b> 群馬県草津町において,2002~11年の高齢者健診を受診した65歳以上の男女計1,214人(男性520人,女性694人)を対象とし,平均8.1年(最大13.4年)追跡した。自立喪失は,介護保険情報による要介護発生または要介護発生前の死亡と定義した。生活習慣病因子として,高血圧,糖尿病,肥満,腎機能低下,喫煙,脳卒中・心臓病・がんの既往等を,機能的健康の関連因子として,フレイル区分,低体重,貧血,低アルブミン血症,認知機能低下を採り上げた。フレイル区分は,phenotypeモデルの5つの構成要素(体重減少,疲弊,活動量低下,歩行速度低値,握力低値)のうち3項目以上該当をフレイル,1~2項目該当をプレフレイルと定義した。Cox比例ハザードモデルを用いた回帰分析により,各要因保有群における自立喪失発生の多変量調整ハザード比(HR),集団寄与危険度割合(PAF)を算出した。</p><p><b>結果</b> 自立喪失発生者数は475人(要介護発生372人,要介護発生前死亡103人)であった。対象者全体でみると,自立喪失の多変量調整HRはフレイル,プレフレイル,認知機能低下,脳卒中既往,喫煙において1.3~2.2倍と有意に高値を示した。自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%,フレイルが12%と他の要因に比し高率であった。男性では自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%と最も大きく,次いで喫煙が11%であり,女性では,フレイル,プレフレイルがともに18%,腎機能低下が11%であった。前期高齢者では,フレイル,プレフレイルの他に脳卒中既往,貧血,低アルブミン,認知機能低下,喫煙,糖尿病における自立喪失の多変量調整HRが有意に高く,自立喪失のPAFは,プレフレイルが18%,フレイルが13%,喫煙が11%であった。</p><p><b>結論</b> 高齢者健診の受診者を対象とした検討の結果,自立喪失に寄与する割合が最も大きい要因はフレイル,プレフレイルであった。前期高齢期からフレイル予防,ならびに生活習慣病の予防・改善を図ることが集団全体の自立喪失の低減に寄与すると考えられた。</p>
著者
藤原 佳典 西 真理子 渡辺 直紀 李 相侖 井上 かず子 吉田 裕人 佐久間 尚子 呉田 陽一 石井 賢二 内田 勇人 角野 文彦 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.702-714, 2006-09-15
参考文献数
29
被引用文献数
16

<b>目的</b>&emsp;高齢者の高次生活機能である社会的役割と知的能動性を継続的に必要とする知的ボランティア活動&mdash;子供への絵本の読み聞かせ&mdash;による介入研究&ldquo;REPRINTS&rdquo;を開始した。その 1 年間にわたる取り組みから得られた知見と課題を整理し,高齢者による社会活動の有効性と活動継続に向けた方策を明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;&ldquo;REPRINTS&rdquo;プログラムの基本コンセプトは高齢者による「社会貢献」,「生涯学習」,「グループ活動」である。対象地域は都心部(東京都中央区),住宅地(川崎市多摩区),地方小都市(滋賀県長浜市)を選び,2004年 6 月一般公募による60歳以上ボランティア群67人と対照群74人にベースライン健診を行った。3 か月間(週 1 回 2 時間)のボランティア養成セミナーを修了後,6~10人単位のグループに分かれ地域の公立小学校,幼稚園,児童館への定期的な訪問・交流活動(主な内容は絵本の読み聞かせ)を開始し,2005年 3 月に第二回健康診査を行った。<br/><b>結果</b>&emsp;ベースライン健診において,孫のいない者の割合(41.8% vs. 20.3%,<i>P</i>=0.006),就学年数(13.4&plusmn;2.5 vs. 12.3&plusmn;2.5年,<i>P</i>=0.008),過去のボランティア経験あり(79.1% vs. 52.7%, <i>P</i>=0.001),通常歩行速度(86.7&plusmn;12.3 vs. 81.3&plusmn;12.9 m/分,<i>P</i>=0.012)で,ボランティア群は対照群に比べそれぞれ有意に高かったが,他の諸変数では両群に有意差はなかった。第二回健診時点での活動継続者56人は社会的ネットワーク得点で,孫,近隣以外の子供との交流頻度および近隣以外の友人・知人の数が対照群に比べて有意に増加した。社会的サポート得点でボランティア群は対照群に比べて友人・近隣の人からの受領サポート得点は有意に減少したが,提供サポート得点は有意に増加した。ボランティア群は対照群に比べて「地域への愛着と誇り」,健康度自己評価,および握力において有意な改善または低下の抑制がみられた。<br/><b>結論</b>&emsp;9 か月間の世代間交流を通した知的ボランティア活動により健常高齢者の主観的健康感や社会的サポート・ネットワークが増進し,地域共生意識および体力の一部に効果がみられた。自治体との協働により,新たな地域高齢者のヘルスプロモーションプログラムを構築しうることが示唆された。
著者
藤原 佳典 杉原 陽子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.293-307, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
77
被引用文献数
10

急速に少子高齢化が進むわが国においては高齢者の社会活動をいかにして,社会全体の活性化につなげるかが問われている。高齢者ボランティアの活用はその方策の一つとして注目されているが,わが国において高齢者ボランティアと心身の健康に関する研究は緒についたばかりである。 本研究では,すでに30年以上も前からボランティア活動への参加が健康に及ぼす効果について研究がなされてきた北米における研究を概観することにより,以下の点が明らかになった。①高齢者のボランティア活動は高齢者自身の心理的な健康度を高める。②ボランティア活動は死亡や障害の発生率の抑制といった身体的健康を高める効果が示されているが,心理的効果に比べて先行研究の数が乏しい。③性や人種,健康状態,社会経済状態,社会的交流の多寡等によってボランティア活動の効果が異なる可能性がある。身体的な健康に対しては高年齢の者ほど効果は強いが,社会的交流の活発な者,不活発な者のいずれが,より強い効果を得やすいかは議論が分かれる。④ボランティア活動の内容による心身の健康への効果の相違を分析した研究は数少ない。⑤心身の健康に最も好影響を及ぼす量的水準は,概ね活動時間が年間40~100時間程度とするものが多いが,必ずしも一致せず,現時点で時間やグループ数についての至適水準を示すことは難しい。⑥ボランティア活動に参加すると心理的,身体的および社会的要因が改善することにより心身の健康度を高めると考えられてきたが,これらの要因の媒介効果は比較的弱く,メカニズムに関しては未解明の点が残されている。 以上を踏まえ,わが国の地域保健事業のプログラムの一つとして高齢者ボランティアの活用を考慮した場合に,まず優先されるべき研究課題は高齢者の健康維持・向上に望ましいボランティア活動の内容,従事時間や所属グループ数の探索であろう。一方,ボランティア参加者はもともと健康度が高い可能性があるので,今後は長期間の追跡や介入研究によるエビデンスを蓄積する必要があろう。 地域保健事業への導入を検討する際には,地域活動に関心が薄いとされる層の健康づくりの方策にもつながる可能性があるが,これらの層がボランティア活動へ参加・継続しやすくするためにはできる限り低年齢で,生活機能が高いうちから,ボランティア活動を啓発する機会を提供していくことが,望ましいと言えよう。
著者
藤原 佳典 天野 秀紀 熊谷 修 吉田 裕人 藤田 幸司 内藤 隆宏 渡辺 直紀 西 真理子 森 節子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.77-91, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
32
被引用文献数
4

目的 在宅自立高齢者が初回介護保険認定を受ける関連要因を,要介護認定レベル別に明らかにする。方法 新潟県与板町在住の65歳以上全高齢者1,673人を対象にした面接聞き取り調査(2000年11月実施,初回調査と称す)に1,544人が応答した。ベースライン調査時の総合的移動能力尺度でレベル 1(交通機関を利用し一人で外出可能)に相当し,未だ要介護認定を受けていない1,225人をその後 3 年 4 か月間追跡した。この間,介護保険を申請し要支援・要介護 1 と認定された者を軽度要介護認定群,要介護 2~5 の者を重度要介護認定群,未申請で生存した群(以降,イベント未発生群と称す)に分類し,男女別にイベント未発生群と軽度あるいは重度要介護認定群との間で初回調査時の特性を比較した。つぎに Cox 比例ハザードモデル(年齢,老研式活動能力指標の手段的自立,慢性疾患の既往は強制投入し,単変量分析で有意差のみられた変数すべてをモデルに投入したステップワイズ法)を用いて,要介護認定に関連する予知因子を抽出した。成績 追跡対象者のうち初回調査時に BADL 障害がなく,かつ申請前の死亡者を除く1,151人を分析対象とした。うちイベント未発生群は1,055人,軽度要介護認定群は49人,重度要介護認定群は47人であった。男女とも共通して在宅自立高齢者の軽度要介護認定に関連する予知因子として高年齢と歩行能力低下(男は「1 km 連続歩行または階段昇降のいずれかができないまたは難儀する」のハザード比が7.22[95%CI 1.56-33.52] P=0.012;女は「1 km 連続歩行・階段昇降ともにできないまたは難儀する」のハザード比は3.28[95%CI 1.28-8.42] P=0.014)が,また重度要介護認定の予知因子として高年齢と手段的自立における非自立(4 点以下のハザード比は男で3.74[95%CI 1.59-8.76] P=0.002;女で3.90[95%CI 1.32-11.54] P=0.014)が抽出された。また,男性のみ重度要介護認定に重度認知機能低下が,女性のみ軽度要介護認定に入院歴と咀嚼力低下が抽出された。結論 在宅自立高齢者の要介護認定の予知因子は,高年齢を除き,大半は介護予防事業により制御可能であろう。今後,これら介護予防事業の効果が学術的に評価されることが期待される。
著者
横山 友里 清野 諭 光武 誠吾 西 真理子 村山 洋史 成田 美紀 石崎 達郎 野藤 悠 北村 明彦 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.752-762, 2020-10-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
38
被引用文献数
1

目的 「運動」「栄養」「心理・社会参加」を柱としたフレイル改善のための複合プログラムへの参加がその後の要介護・死亡発生リスクや介護費に及ぼす影響を,傾向スコアマッチングを用いた疑似実験的デザインにより検証した。方法 鳩山コホート研究参加者742人のうち,2011年度(47人)と2013年度(30人)に開催した3か月間のフレイル改善教室のいずれかの年度に参加したフレイルまたはプレフレイルの計77人を介入群とした。不参加群は,鳩山コホート研究参加者の中から,介入不参加者(介入対象外であった者のほか,介入対象であったものの,教室参加を拒否した者を含む)を対象に,傾向スコアを算出し,介入群との比を1:2としてマッチングすることにより,設定した。傾向スコアで完全にマッチングできた対象者は介入群70人,不参加群140人,計210人であった。住民異動情報・介護保険情報を突合し,32か月間(教室終了後24か月)の追跡による要介護(要支援含む)・死亡発生リスクをCoxの比例ハザードモデルを用いて算出した。また,ガンマ回帰モデルを用いて介護費の比較を行った。結果 要介護の発生率(対千人年)は介入群が不参加群に比し,有意ではないものの低い傾向を示し(介入群:1.8 vs.不参加群:3.6),不参加群に対する介入群の要介護認定のハザード比と95%信頼区間(95%CI)は0.51(0.17-1.54)であった。また,介入群と不参加群の間で介護費発生の有無に有意な差はみられなかったものの,介護費については,受給者1人あたりの追跡期間中の累積の費用,1か月あたりの費用の平均値はそれぞれ,介入群で375,308円,11,906円/月,不参加群で1,040,727円,33,460円/月と介入群では約1/3の低額を示し,累積の費用(コスト比=0.36, 95%CI=0.11-1.21, P=0.099),1か月あたりの費用(コスト比=0.36, 95%CI=0.11-1.12, P=0.076)ともに,不参加群に比べて介入群で低い傾向がみられた。結論 本研究では統計的な有意差は認められなかったものの,フレイル改善のための複合プログラムの実施により,その後の要介護発生リスクおよび介護費を抑制できる可能性が示された。今後,より厳密な研究デザインによるさらなる検証が必要である。
著者
鈴木 隆雄 岩佐 一 吉田 英世 金 憲経 新名 正弥 胡 秀英 新開 省二 熊谷 修 藤原 佳典 吉田 祐子 古名 丈人 杉浦 美穂 西澤 哲 渡辺 修一郎 湯川 晴美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.39-48, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
4

目的 70歳以上の地域在宅高齢者を対象として,容易に要介護状態をもたらすとされる老年症候群,特に転倒(骨折),失禁,低栄養,生活機能低下,ウツ状態,認知機能低下(痴呆)を予防し,要介護予防のための包括的健診(「お達者健診」)を実施した。本研究では,その受診者と非受診者の特性(特に健康度自己評価,生活機能,ウツ傾向,主観的幸福感,転倒経験,慢性疾患有病率および身体機能としての握力における差異)を明らかにすることを目的とした。方法 調査対象者は東京都板橋区内在宅の70歳以上の高齢者863人である。「お達者健診」には,このうち438人(50.8%)が受診した。健診内容は老年症候群のさまざまな項目についてハイリスク者のスクリーニングが主体となっている。本研究では前年に実施された事前調査データを基に,「お達者健診」の受診者と非受診者の性および年齢分布の他,健康度自己評価,老研式活動能力指標による生活機能,GHQ ウツ尺度,PGC モーラルスケールによる主観的幸福感,転倒の既往,慢性疾患有病率,および身体能力としての握力などについて比較した。成績 1) 健診受診者における性別の受診者割合は男性49.0%,女性51.0%で有意差はなかった。受診者と非受診者の平均年齢は各々75.3歳と76.4歳であり有意差が認められ,年齢分布からみても非受診者に高齢化が認められた。 2) 健康度自己評価について受診群と非受診群に有意な差が認められ,非受診群で自己健康度の悪化している者の割合が高かった。 3) 身体機能(握力)についてみると非受診者と受診者で有意差はなかった。 4) 生活機能,ウツ傾向,主観的幸福感についての各々の得点で両群の比較を行ったが,いずれの項目についても非受診者では有意に生活機能の低下,ウツ傾向の増加そして主観的幸福感の低下が認められた。 5) 過去 1 年間での転倒経験者の割合には有意差は認められなかった。 6) 有病率の比較的高い 2 種類の慢性疾患(高血圧症および糖尿病)についてはいずれも受診者と非受診者の間に有病率の差は認められなかった。結論 今後進行する高齢社会において,地域で自立した生活を営む高齢者に対する要介護予防のための包括的健診はきわめて重要と考えられるが,その受診者の健康度は比較的高い。一方非受診者はより高齢であり,すでに要介護状態へのハイリスクグループである可能性が高く,いわば self-selection bias が存在すると推定された。しかし,非受診の大きな要因は実際の身体機能の老化や,老年症候群(転倒)の経験,あるいは慢性疾患の存在などではなく,むしろ健康度自己評価や主観的幸福感などの主観的なそして精神的な虚弱化の影響が大きいと推測された。受診者については今後も包括的な健診を中心とした要介護予防の対策が当然必要であるが,非受診者に対しては訪問看護などによる精神的な支援も含め要介護予防に対するよりきめ細かい対応が必要と考えられた。
著者
横山 友里 吉﨑 貴大 小手森 綾香 野藤 悠 清野 諭 西 真理子 天野 秀紀 成田 美紀 阿部 巧 新開 省二 北村 明彦 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.665-675, 2022-09-15 (Released:2022-09-10)
参考文献数
36

目的 食品摂取の多様性得点(DVS)は,日本人高齢者の食品摂取の多様性を評価する指標として,疫学研究や公衆衛生の現場において幅広く活用されている。一方,本指標は1990年代の開発以降,見直しが行われておらず,現在の日本人高齢者の食生活の実態を必ずしも十分に反映できていない可能性がある。本研究では,構成食品群の改訂による改訂版DVS(MDVS)の試作および妥当性の評価を行うことを目的とした。方法 鳩山コホート研究の2016年調査に参加した357人(年齢:76.2±4.6歳,男性:61.1%)を対象とした。DVSおよびMDVSは,各食品群の1週間の食品摂取頻度をもとに,ほぼ毎日食べる食品群の数を評価した。DVSの構成食品群は肉類,魚介類,卵類,牛乳,大豆製品,緑黄色野菜類,果物,海藻類,いも類,油脂類とし,MDVSの構成食品群は平成29年国民健康・栄養調査における65歳以上の食品群別摂取量のデータをもとに,主菜・副菜・汁物を構成する食品群の摂取重量および各栄養素の摂取量に対する各食品群の寄与率をもとに,その他の野菜,乳製品を追加することとした。栄養素等摂取量は,簡易型自記式食事歴法質問票を用いて調べた。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で推定平均必要量が定められている14の栄養素について,必要量を満たす確率およびそれらの平均を算出した。DVS,MDVSと各指標との相関分析および相関係数の差の検定を行った。結果 MDVSとたんぱく質エネルギー比率,脂質エネルギー比率,食物繊維,カリウム摂取量,改良版食事バランスガイド遵守得点との有意な正の関連がみられ(偏相関係数の範囲(r)=0.21-0.45),炭水化物エネルギー比率との有意な負の関連がみられた(r=−0.32)。また,MDVSと14の栄養素の必要量を満たす確率の平均との有意な正の関連がみられた(r=0.41)。これらの関連の程度はDVSとMDVSで同程度であり,相関係数の差は有意ではなかった。結論 栄養素摂取量や食事の質との関連からみた妥当性はDVSとMDVSで同程度であった。DVSの改訂にあたっては全国の大規模集団を対象に精度の高い食事調査を用いたさらなる研究が必要である。
著者
新開 省二 藤田 幸司 藤原 佳典 熊谷 修 天野 秀紀 吉田 裕人 竇 貴旺 渡辺 修一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.443-455, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
30
被引用文献数
18

背景 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの実態についてはほとんどわかっていない。目的 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの出現頻度とその特徴を明らかにする。方法 地域特性の異なる二地域[新潟県与板町および埼玉県鳩山町鳩山ニュータウン(以下鳩山 NT と略す)]に住む65歳以上の地域高齢者全員(それぞれ1,673人,1,213人)を対象に横断調査を実施した。ふだんの外出頻度が「週 1 回程度以下」にあるものを「閉じこもり」と定義し,そのうち総合的移動能力尺度でレベル 3~5 にあるものを“タイプ 1”,同レベル 1 または 2 にあるものを“タイプ 2”,と二つに分類した。地域,性,年齢階級別にタイプ別閉じこもりの出現頻度を比較するとともに,総合的移動能力が同レベルにあり,ふだんの外出頻度が「2, 3 日に 1 回程度以上」に該当する「非閉じこもり」との間で,身体的,心理・精神的,社会的特徴を比較した。成績 調査時点で死亡,入院・入所中,長期不在のものを除くと,与板町では97.2%(1,544/1,588),鳩山 NT では88.3%(1,002/1,135)という高い応答率が得られた。両地域とも地域高齢者のうち「閉じこもり」は約10%にみられ,そのタイプ別内訳は,与板町ではタイプ 1 が4.1%(男4.0%,女4.2%),タイプ 2 が5.4%(男5.2%,女5.6%),鳩山 NT ではそれぞれ3.3%(男1.5%,女4.9%)と6.8%(男5.7%,女7.8%)であった。潜在的交絡要因である性,年齢,総合的移動能力(レベル 1, 2 あるいはレベル 3-5)を調整すると,タイプ 2 の出現率に地域差がみられた[鳩山 NT/与板町のオッズ比=1.44(1.02-2.03)]。一方,タイプ 1 の出現率における地域差や両タイプの出現率における性差は認められなかった。両地域,男女において,年齢階級が上がるにしたがって両タイプの出現率は上昇し,タイプ 2 は80歳以降で,タイプ 1 は85歳以降で10%を越えていた。タイプ 2 はレベル 1 または 2 にある「非閉じこもり」に比べると,潜在的交絡要因を調整しても,歩行障害や失禁の保有率が高く,健康度自己評価や抑うつ度などの心理的側面,さらには高次生活機能や人・社会との交流といった社会的側面での水準が低かった。一方,タイプ 1 は,レベル 3~5 にある「非閉じこもり」に比べると,基本的 ADL 障害や「知的能動性」の低下を示す割合が低いにもかかわらず,家の中での役割がなく,転倒不安による外出制限があり,散歩・体操の習慣をもたないと答えた割合が高かった。結論 タイプ別閉じこもりの出現率には,地域差,年齢差を認めた。タイプ 2 には“要介護状態”のハイリスク者が多く含まれており,タイプ 1 を含めタイプ 2 も介護予防のターゲットとして位置づけるべきである。
著者
北村 明彦 木山 昌彦 野藤 悠 山岸 良匡 横山 友里 谷口 優 清野 諭 新開 省二 西 真理子 村木 功 阿部 巧 山下 真里 陣内 裕成
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

地域住民の疫学研究により、生活因子(身体活動、食事、喫煙、飲酒、精神的ストレス等)、医学的因子(脳卒中、心疾患、動脈硬化、メタボリックシンドローム等の生活習慣病、及び低栄養、サルコペニア、認知機能低下、うつ等の老年症候群)、社会的因子(社会参加、近隣・地域との交流、ソーシャルサポート等)がフレイルの発症に及ぼす影響を中年後期、前期高齢期、後期高齢期の年齢層別に明らかにする。
著者
新開 省二 藤田 幸司 藤原 佳典 熊谷 修 天野 秀紀 吉田 裕人 竇 貴旺
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.874-885, 2005

<b>目的</b>&emsp;地域高齢者における閉じこもり発生の予測因子をタイプ別に明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;新潟県与板町の65歳以上の全住民1,673人を対象として 2 年間の前向き疫学研究を行った。ふだんの外出頻度が「週 1 回程度以下」にあるものを閉じこもりと定義し,そのうち総合的移動能力尺度でレベル 1(独力で遠出可能)あるいは 2(独力で近隣外出可能)にあるものをタイプ 2,同レベル 3 以下(独力では近隣外出不可能)にあるものをタイプ 1 と二つに分類した。初回調査時にレベル 1, 2 かつ非閉じこもりにあった1,322人(応答者1,544人の85.6%)について 2 年後の状況を調べ,レベル 1,2 非閉じこもりを維持,タイプ 1 に移行,タイプ 2 に移行,レベル 3 以下非閉じこもりに移行の 4 群に分類した。分析においては,まず,追跡調査時もレベル 1, 2 非閉じこもりを維持していた群を基準として,タイプ 1 あるいはタイプ 2 に移行した群との間で,初回調査時の身体,心理,社会的特性の分布を比較した。次に,多重ロジスティックモデル(ステップワイズ法)を用いて,性,年齢を調整しても有意な関連性を示した変数全てをモデルに投入し,レベル 1, 2 非閉じこもりからタイプ 1 あるいはタイプ 2 に移行することの予測因子を抽出した。<br/><b>成績</b>&emsp;初回調査時にレベル 1, 2 非閉じこもりであったものの 2 年後の状況は,レベル 1, 2 非閉じこもりが1,026人(77.6%),タイプ 1 が22人(1.7%),タイプ 2 が63人(4.8%),レベル 3 以下非閉じこもりが29人(2.2%)であった[追跡不可(死亡等含む)は182人(13.8%)]。タイプ 1 への移行を予測するモデルに採択された変数(予測因子)は,年齢(高い,5 歳上がるごとのオッズ比[95%信頼区間]は2.10[1.36-3.24]),就労状況(なし,4.42[1.21-16.2]),歩行障害(あり,4.24[1.37-13.1]),認知機能(低い,5.22[1.98-13.8])であり,タイプ 2 のそれは,年齢(高い,5 歳上がるごと1.65[1.32-2.06]),抑うつ傾向(あり,2.18[1.23-3.88]),認知機能(低い,2.72[1.47-5.05]),親しい友人(なし,2.30[1.08-4.87]),散歩・体操の習慣(なし,2.21[1.26-3.86])であった。<br/><b>結論</b>&emsp;地域高齢者におけるタイプ 1 閉じこもりの発生には身体・心理的要因が,タイプ 2 閉じこもりのそれには心理・社会的要因が,それぞれ主に関与していることが示唆された。閉じこもりの一次予防に向けた戦略はタイプ別に組み立てる必要がある。
著者
清野 諭 北村 明彦 遠峰 結衣 田中 泉澄 西 真理子 野藤 悠 横山 友里 野中 久美子 倉岡 正高 天野 秀紀 藤原 佳典 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.399-412, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
39

目的 本研究の目的は,大都市在住高齢者を対象としてフレイルの認知度とその関連要因を明らかにすることである。方法 東京都大田区で実施したフレイル予防のための地域介入研究のベースラインと2年後調査データを用いた。2016年7月に,郵送法によって65-84歳の男女15,500人の健康度や生活実態を調査した。2018年 7 月に同一集団のフレイル認知度を調査し,この有効回答者10,228人をフレイル認知度の解析対象とした。さらに,これに2016年の調査データを結合できた9,069人を対象として,フレイル認知度の関連要因を検討した。フレイルについて「意味を知っている」または「聞いたことはあるが意味は知らない」と回答した者の割合を認知度とした。これを目的変数とし,年齢,婚姻状況,家族構成,教育歴,等価所得,BMI,既往歴の数,食品摂取多様性得点,腰痛,膝痛,飲酒,喫煙,抑うつ,運動習慣,社会活動,社会的孤立,フレイルの有無を説明変数とした決定木分析とマルチレベルポアソン回帰分析を適用した。結果 フレイルの認知度は20.1%(男性15.5%,女性24.3%)と推定された。決定木分析による認知度の最も高い集団は,社会活動と運動の習慣があり,かつ食品摂取多様性得点が 4 点以上の女性であった(認知度36.3%)。フレイル認知の独立した有意な関連要因は,年齢(1 歳ごと:多変量調整済み prevalence ratio[PR]=1.03,[95%信頼区間=1.02-1.04]),性(女性:1.35[1.21-1.51]),教育歴(高等学校:1.27[1.11-1.45],短大・専門学校以上:1.47[1.28-1.70]),等価所得(250万円以上/年:1.12[1.01-1.25]),運動習慣(あり:1.26[1.11-1.43]),食品摂取多様性得点(6 点以上:1.37[1.21-1.55]),社会活動(あり:1.33[1.20-1.49]),社会的孤立(あり:0.75[0.67-0.85]),フレイル(あり:0.72[0.62-0.84])であった。結論 フレイルの認知度は低水準であった。高年齢で社会経済状態や社会活動・運動・食習慣が良好な女性ではフレイルという用語が比較的よく認知されていた。一方,フレイル対策が必要な者ではフレイル認知度が低いという実態が明示された。ハイリスク者のフレイル予防・改善を促す具体策の検討が急務である。
著者
新開 省二
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.826-829, 2013 (Released:2013-07-23)
参考文献数
15
著者
成田 美紀 北村 明彦 武見 ゆかり 横山 友里 森田 明美 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.171-182, 2020-03-15 (Released:2020-04-01)
参考文献数
40

目的 日本人高齢者の食品摂取の多様性指標の一つに,食品摂取多様性スコアがある。高齢者を対象とした研究では,身体機能や生活機能,転倒リスク,サルコペニア等との健康アウトカムと食品摂取の多様性の関連が報告されているが,多様な食品摂取による各種栄養素の多寡や食事の特徴について十分検討されていなかった。本報は,高齢者における食品摂取多様性スコアと栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事日数との関連を明らかにすることを目的とした。方法 東京都板橋区在住で65~84歳の高齢者182人を対象とした。食品摂取の多様性指標は,熊谷らの食品摂取多様性スコア(DVS)を使用し,0~3点を低群,4~6点を中群,7~10点を高群に分類した。並行して,3日間の自記式食事記録を行い,1日当たりの栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日数(以下,バランスのとれた食事日数)を求めた。性,年齢,エネルギーを調整した一般線形モデルによりDVS区分と各食事関連指標との関連について検討した。また,各栄養素の推定平均必要量(EAR)を下回る者の割合を算出し,多重ロジスティック回帰分析によりDVS区分の栄養素別不足リスクを推定した。結果 DVS高群に比し低群ではバランスのとれた食事日数が有意に低値を示した(DVS低群1.4(1.2-1.6)日,中群1.8(1.6-1.9)日,高群1.9(1.7-2.1)日,傾向性P=0.001)。DVS高群に比しDVS低群ではエネルギー,たんぱく質・脂質のエネルギー比率,総たんぱく質,食物繊維,カリウム,マグネシウム,リン,ビタミンK,ビタミンB12の摂取量が有意に低値を示し,炭水化物・穀類のエネルギー比率,炭水化物摂取量は有意に高値を示した。ビタミンCのEARを下回るオッズ比はDVS高群に比し低群で有意に高値を示し,マグネシウム,亜鉛,ビタミンB6のEARを下回るオッズ比DVS中群で有意に高値を示した。結論 DVSが高いことは,たんぱく質および微量栄養素のより多い摂取と有意な関連があり,主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を行う機会が多いことが明らかになった。DVSは高齢期に望ましい多様な食品や栄養素の摂取につながる食事の評価指標となり得ると考えられる。