著者
坂巻 祥孝 小木 広行
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.209-215, 1999-06-30

Sakamaki(1996b)において日本産Monochroa属11種がまとめられたが,その後の筆者らの調査でさらに2種類が採集された.また,その他にも新たな標本を加えて検討をしたところ,これまで未知であったウスイロフサベリキバガの雄と判断される標本を2頭得た.これらの形態・生態的特徴は以下のとおりである.Monochroa lucidella(Stephens)(Figs 1,3,4)キモンキバガ(新称)本種は外見上,Eulamprotes属のキモンアカガネキバガに似るが,前翅中央部から基部を占める不明瞭な黄色い斑紋があることや開張が一回り大きい(開帳13.5-14.3mm)ことからも一見して,判別可能.同属内に外見が類似した種はなく,特徴的な前翅斑紋および無地褐色の触角等からも容易に識別される.雌雄交尾器の形状からはイグサキバガに近縁と考えられる.日本で幼虫は見つかっていないが,ヨーロッパではカヤツリグサ科のハリイ属(Eleocharis),ホタルイ属(Scirpus)の茎に潜っていることが知られている.旧北区全体に広く分布し,日本では北海道に分布.Monochroa leptocrossa(Meyrick)(Fig.5)ウスイロフサベリキバガ原記載以来本種は雌しか知られていなかったが,今回,外見上の特徴が本種の雌個体と一致する雄個体を2頭得たのでここに雄交尾器の特徴を示した.雄交尾器においては把握器の幅が広く,えぐれがどこにもないことから近縁のホーニッヒチャマダラキバガやミゾソバキバガなどと区別可能.Monochroa conspersella(Herrich-Schaffer)(Figs 2,6,7)サクラソウキバガ(新称)本種は外見上クマタシラホシキバガに似るが,一回り小さく(開帳9.5-11.8mm),暗褐色の触角は末端節にのみ黄土色の輪環を持つことで区別できる.春(5月)にエゾオオサクラソウに潜葉している幼虫を採集した.ヨーロッパでの食草はサクラソウ科のサクラソウ属,およびクサレダマである.旧北区全体に広く分布し,日本では北海道に分布.
著者
小木 広行
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.192, pp.40-41, 2002-03-31
著者
神保 宇嗣 杉島 一広 小木 広行
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.315-323, 2004-09-30

日本でこれまであまり知られていなかったナニワズハリキバガ(新称)Anchinia cristalis(Scopoli,1763)を北海道本土から記録し,幼虫期および蛹期の習性とともに再記載した.日本のキバガ上科には類似した種はおらず同定は容易である.今回,4月に本種の幼虫がジンチョウゲ科のナニワズDaphne jezoensisの先端の葉数枚を綴ったシェルター内に見出された.幼虫は夜行性で,シェルター外で葉を食害する.蛹化は枝や壁面に尾端で懸垂した状態で行われ,繭が構築されないために蛹が裸出する.蛹はタテハチョウ科で知られる垂蛹に近い.成虫は5-6月に羽化した.国外での食餌植物としては,同じくジンチョウゲ科のヨウシュジンチョウゲDaphne mezereumおよびカラフトナニワズDaphne kamtschaticaの記録がある.本種には極東亜種A.cristalis kuriliensis Lvovsky,1990が記載されているが,この扱いおよび北海道集団の所属は今後の課題である.Anchinia属は旧北区から5種,東洋区から1種が知られるが,極東からは本種のみが記録されていた.知られている限りでは,本属の種はすべてジンチョウゲ科のDaphne属を寄主とする.また,原索動物サルパ綱の属Anchinia Rathke,1835の存在に気づいたが,ナニワズハリキバガの属Anchinia Hubner,1825のほうが先行するので原索動物のほうが新参同名となる.Anchiniaの科階級群の所属に関して,1970年代中期以降様々な提案がなされてきた.それらは大きく分けて三通りに分類される.すなわち,Hypertrophaを模式属とする科階級群にハリキバガ属を含めるとする第一の処置,Amphisbatisを模式属とする科階級群に含めるとする第二の処置,そしてハリキバガ属を含むたかだか6属からなる単系統性の高い亜科ないし族(模式属はハリキバガ属あるいはそれに最も近縁と推定されるHypercallia)を設けるという第三の処置である.第一の処置の根拠は,蛹が裸出し起立するという習性がHypertrophaとハリキバガ属に共通するというものである.しかし,本研究での観察により,ハリキバガ属の蛹が起立するのではなく懸垂することが明らかにされたため,この処置の妥当性は疑問視せざるを得ない.第二の処置は,ハリキバガ属とAmphisbatisの間に顕著な差違があるにしても,より適した群が見あたらないから,という消極的な理由によるものである.この処置は,ハリキバガ属とAmphisbatisが近縁であるとの誤解につながる畏れがあるために採用しがたい.それに対して,三つ目の処置は,その亜科あるいは族の単系統性を支持する形質が複数示されており,さらに先の二つの提案をした著者であっても,その群の近縁性は支持している.従って,この処置を採用しHypercalliinaeを認めることは妥当であろう.しかしながら,この亜科に近縁な分類群は特定されていない.ハリキバガ亜科の強く支持された単系統性と,それに近縁な分類群が未知であることを同時に示すため,本報ではLeraut(1997)の案を採用し,ハリキバガ属を広義マルハキバガ科の亜科Hypercalliinae(ハリキバガ亜科:新称)の一員として扱うこととした.マルハキバガ科は多系統的な分類群であることを前提とした"waste basket"として機能してきたので,ハリキバガ亜科が他の特定の群に近縁であると誤解される可能性は低く,また将来キバガ上科の科階級群の再編が行われる際にハリキバガ亜科が見逃されることも避けられるであろう.