著者
有田 豊 木村 正明 大和田 守
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.189-192, 2009-09-30

チュラスカシバ(新称)Paradoxecia chura Arita,Kimura&Owada,sp.nov.本部半島乙羽岳で9月に性フェロモン・ルアーに誘引された雄1頭が採集されている.腹部2-7節の各節に幅広い黄帯があることで,同属の種と区別できる.Paradoxeciaは亜熱帯アジアから12種が知られているが,日本からは今まで記録がなかった.クロスカシバ(新称)Nokona nigra Arita,Kimura&Owada,sp.nov.腹部が黒く,黄帯を欠いているので,同属の種とは容易に区別できる.沖縄島ヤンバル地域で6月と9月に採集されている.
著者
有田 豊 大和田 守
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-4, 2006-01-10

ホソハマキモドキガ科は旧北区から54種類が記録されている(Diakonoff, 1986).また本邦からは21種類産することが知られている(Arita, 1987).国立科学博物館が行っている皇居の蛾類調査でこの昼飛性のホソハマキモドキガ科の未記載積の一種が採集された(Owada et al., 2000).またこの未記載種は赤坂御用地からも見出された(Owada et al., 2005).精査の結果この種類は今までに知られていない新種と認められた.Glyphipterix mikadonis sp. nov. トウキョウホソハマキモドキ(新称)(Figs 1-4) ホソハマキモドキとしては中型の種類で,前翅後縁上の薄い黄色の2紋が特徴的で,容易にほかのホソハマキモドキと区別される.皇居吹上御苑と赤坂御用他のやや開けた草地で5月下旬から6月上旬の日中に飛翔しているものや草地のスイーピングによって得られた.
著者
大和田 守 岸田 泰則 Seegers Rainer
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.199-201, 2007
参考文献数
8

2006年8月26日,長野県奈川村入山で採集をしようとしていたところ,午後5時頃から日没前に小型で白色の蛾がたくさん飛んでいた.蛾は樹冠部すれすれを素早く不規則に飛び,ときに森の内部にも入ってきていた.このうち5頭を採集することができたが,すべてウススジギンガの雄であった.その場所で灯火採集も行い,ギンガ類をできるだけ採集し固定したところ,ハルタギンガ,クロハナギンガ,アイノクロハナギンガ,ヒメギンガ,ウススジギンガ,エゾクロギンガの6種が混ざっていた.昼間飛翔していた蛾は,明らかに何かを探しているように見えた.採集できた5頭ともウススジギンガの雄であったことから,飛んでいたギンガがすべてウススジギンガの雄であった可能性が高いし,この飛翔が交尾のためのウススジギンガ雄の通常の採雌行動と推定できた.
著者
大和田 守 有田 豊 神保 宇嗣 岸田 泰則 中島 秀雄 池田 真澄 平野 長男
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.37-136, 2006
被引用文献数
5

Six hundred and thirty-three moths in 46 families were collected in the Imperial Palace, Tokyo, ca. 115 ha. The survey was carried out from June 2000 to December 2005 by using a light, sugar bait and by ordinary day-time survey of adults and larvae. All the collecting data are given in the list, in which some noteworthy moths are commented in comparison with the records of such green tracts in the urban Tokyo as the Imperial Palace, Tokyo, 1996-2000 (Owada et al., 2000), the garden of the Institute for Nature Study, ca. 20 ha, 1998-2000 (Owada et al., 2001), the Akasaka Imperial Gardens, ca. 51 ha, 2002-2004 (Owada et al., 2005a) and the Tokiwamatsu Imperial Villa, ca. 2 ha, 2002-2004 (Owada et al., 2005b). The comparison of each result is shown in Tables 1 and 2. During a decade of survey period from 1996 to 2005, we observed the establishment and outbreak of a tortricid moth Cerace xanthocosma in the Imperial Palace, Tokyo, and the Akasaka Imperial Gardens (Owada et al., 2000, 2001, 2005a), and the details were summarized in the report of moths of the Tokiwamatsu Imperial Villa, Tokyo (Owada et al., 2005b). We became aware of the remarkable outbreak in the early spring of 2003, i. e., many nests made by the larvae of this tortricid moth were found on leaves of evergreen trees everywhere in the Imperial Palace and the Akasaka Imperial Gardens, Tokyo. This moth is bivoltine in Tokyo urban forests, adults fly in June-July and September. The outbreak of adult moths was observed in 2003 and 2004, but ended rapidly in the winter of 2004, when hibernating larval nests were mostly disappeared in the Imperial Palace. In 2005, the density level of adult moths backed to that in 2001-2001, a few or no moths were observed in each investigation of its flight periods. We had found and bread larvae of this polyphagous moth on the following 17 evergreen broadleaved trees in 11 families. Araliaceae: Fatsia japonica; Aquifoliaceae: Ilex pedunculosa; Caprifoliaceae: Viburnum odoratissimum var. awabuki; Eericaceae: Pieris japonica; Euphorbiaceae: Daphniphyllum himalaense; Fagaceae: Castanopsis sieboldii, Lithocarpus edulis; Lardizabalaceae: Extauntonia hexaphylla; Lauraceae: Cinnamomum camphora, Cinnamomum japonicum, Machilus thunbergii; Myricaceae: Myrica rubra; Oleaceae: Lingustrum japonicum; Theaceae: Camellia japonica, Camellia sasanqua, Camellia sinensis, Cleyera japonica. Most of lithosiine moths, Arctiidae, are lichen and algae feeders, and usually very common in any forests and grasslands. In the 1970-1980's, air pollution was very serious in Japan, and lithosiine moths, except for marshy moths of Pelosia spp., might have become once extinct in the Tokyo urban areas. From the 1990's onwards, air pollution was eased to some extent, and the flora of lichens and bryophytes began to restore in forests of city areas of Tokyo (Kashiwadani & Thor, 2000; Kashiwadani et al., 2001; Higuchi, 2001). In fact, some lithosiine moths were collected in the Institute for Nature Study, the Akasaka Imperial Gardens and the Tokiwamatsu Imperial Villa in 1998-2004, and they may already settle down in these forests. At the Imperial Palace, Tokyo, we were able to collect a female of Miltochrista abberans on 3 June, 2004, but we have collected none in 2005. It is quite likely that lithosiine moths will not settle down in the Imperial Palace grounds, which are the largest and richest the fauna and flora among large green tracts in urban Tokyo. This phenomenon may be one of the evidences of extinction of lithosiine moths in the urban Tokyo. There is a possible barrier, which obstructs the invasion of lithosiine moths to the Imperial Palace, that is, large moats completely surround the Palace. In larger moats, the longest width of water is ca. 100m, and is ca. 50m in smaller ones.
著者
斉藤 洋一 大和田 守 加藤 俊一 井上 繁一
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.383-406, 2006

Monitoring investigations on the fauna of Odonata were made at the gardens of the Imperial Palace, Tokyo, ca. 115 ha, central Tokyo, from 2001 to 2005. A total of 33 species belonging to 8 families were recorded. Similar research were carried out at the same place from 1996 to 2000, and 27 species in 8 families were recorded (Tomokuni & Saito, 2000). The following six species are recorded from the Imperial Place for the first time. Aeschnidae: Aeschnophlebia anisoptera Selys, Polycanthagyna melanictera (Selys), Anaciaeschna martini (Selys) (Fig. 30) and Anax nigrofasdatus nigrofasciatus Oguma (Fig. 31). Libellulidae: Libellula quadrimaculata asahinai Schmidt (Fig. 35) and Sympetrum kunckeli (Selys). Three endangered species in Tokyo urban areas, Ceriagrion nipponicum Asahina (Figs. 9-10), Trigomphus melampus (Selys) (Figs. 19-21) and Aeschnophlebia longistigma Selys (Figs. 27-29) were discovered by the former study (Tomokuni & Saito, 2000), and they are still abundant in the Palace. Rhyothemis fuliginosa Selys (Fig. 41), which had also been very scarce in the urban Tokyo, was gradually increase its number from 2002-2004, and we were able to observe its outbreak in the summer of 2005.
著者
大和田 守
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.197-214, 1989

オキナワルリチラシは, スリランカ, インド, ネパール, ビルマ, タイ, 中国, 台湾をへて琉球列島から本州中部まで広く分布する種で, 多くの亜種に分けられている。井上 (1982) は, 日本の亜種を, それまでの知見と多くの標本をもとに, 本州, 四国, 九州, 沖ノ島, 隠岐, 対馬のものを亜種 sugitanii MATSUMURA, 1927,屋久島のものを亜種 micromaculata INOUE, 1982,トカラ列島から奄美大島と沖縄のものを亜種 okinawana MATSUMURA, 1931,八重山諸島のものを亜種 ishigakiana INOUE, 1982 とした。最近, 当館の友国雅章氏が奄美大島で採集した多数の標本が, 屋久島や沖縄のものと違うことに気づき, もう一度琉球列島を中心に本種の亜種を再検討し, 以下のような結論に達した。Eterusia aedea sugitanii MATSUMURA, 1927 分布 : 本州, 四国, 九州, 沖ノ島, 隠岐, 対馬。本亜種は常緑広葉樹林内に生息し, 茶の害虫とはならないようで, 年1化を基本的な生活環としている。成虫は 8∿9 月に出現するが, 九州南部では6月に1♂が採集されているので, 2化することもあるようである。雄はよく灯火に飛来するが, 雌ではそういうことはない。伊豆の湯ヶ島では多数の雄が採集されているが, そのほとんどが灯火に来たもので, 昼はあまり活動していないようである。また, この地では, 幼虫が野外でヒサカキから採集されている。一方, 隠岐で採集された雌から採卵されたものはヤブツバキを好み, ヒサカキはあまり食べなかったという。たいへん局地的な発生をし, 分散力もあまりないようで, 地域による変異が認められる。伊豆湯ヶ島のものがもっとも大きく, 奈良と和歌山のものが最小, 四国や九州のものはその中間くらいで, 隠岐や対馬の雄の前翅の白帯は幅広く, 中国大陸のものにすこし似てくる。これらの関係はもうすこし標本を集めてから論じたい。 Eterusia aedea micromaculata INOUE, 1982 分布 : 屋久島, 中ノ島(トカラ列島)。斑紋や大きさは奈良・和歌山のものに似ているが, 雄交尾器はむしろ隠岐のものに似る。年2化すると考えられる。トカラ列島のものは斑紋がやや異なるが, この亜種のものとして扱かっておく。Eterusia aedea tomokunii OWADA, 1989 分布 : 奄美大島。屋久島亜種に似るがより小型で, 前翅は赤褐色のことが多く, 中央の白帯は中室の下で外方へずれ, 内縁が直角をなす。雄交尾器の差は大きい。友国氏によると, 湯湾岳の発達した暖温帯林を通る林道で, 曇天の午後, 高さ 3∿4m の梢をゆっくりと飛翔していたという。雄の方が活発で, 雌のほとんどは葉上に止まっていたらしい。少なくとも年2化はしている。 Eterusia aedea sakaguchii MATSUMURA, 1931 分布 : 沖縄北部, 渡嘉敷島。小型で奄美大島のものに似るが, 前翅が幅広く, 斑紋も顕著。沖縄北部の山原地方の暖温帯林に生息する。井上 (1982) が亜種 okinawana として図示したものは本亜種である。学名の適用については次亜種の項で述べる。渡嘉敷島の雄の斑紋は sakaguchii とほとんど変わらないが, 交尾器はかなり違う。Eterusia aedea okinawana MATSUMURA, 1931 分布 : 沖縄南部?, 八重山諸島。大型で, 前翔はあざやかな緑色, 赤みを帯びる変異があるのはほかの亜種と変わらないが, 黄金色を帯びるものもいる。後翅外縁の黒帯内の青の輝きも, もっともあざやか。井上 (1982) は沖縄で採集されるものすべてを同一の亜種と考え, 八重山諸島産のものだけを別亜種 ishigakiana INOUE, 1982 としたが, 八重山諸島タイプのものは沖縄南部でも採集され, okinawana のホロタイプは明らかにこちらに属している。亜種 sakaguchii との分布の境界は今のところはっきりしていないが, 本部半島の名護で sakaguchii の雌が採集されている一方で, 伊豆味では okinawana の雌が採れている。沖縄で採集された okinawana は, 八重山諸島から侵入したものかもしれない。雄の第8腹板後側にある1対の角状の突起には, 微小ではあるが明瞭な副突起が認められる。この微小突起は sakaguchii までの日本の亜種にはなく, 台湾とアジア大陸のものにはある。ただし, okinawana のホロタイプはこれを欠く。このような変異は, ほかには台湾のものから1個体見いだしているにすぎない。年に数世代の発生があると考えられる。幼虫は, 飼育下ではツバキ, サザンカ, チャをよく摂食した。成虫は, これも飼育下ではあるが, 室温15度以上で雌雄とも活発に飛翔し, 砂糖水を与えれば1カ月は生きるとのことである。Eterusia aedea formosana JORDAN, 1908 分布 : 台湾。前亜種にたいへんよく似ているが, 前翅の地色ははるかに暗く, 後翅外縁の輝きも少ない。