- 著者
-
井口 理
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.5, pp.227-240, 2016 (Released:2016-06-18)
- 参考文献数
- 19
目的 保健師の「仕事の要求」と「仕事の資源」の構成要素を明らかにした上で,Job Demands-Resources モデル(以下,JD-R モデル)に基づいて離職意図との関連を検討する。方法 新職業性ストレス簡易調査票に12項目を追加して10因子167項目からなる調査票を作成し,設置主体別に全国の保健所・保健センターを無作為抽出したリストに基づき,協力の承諾を得た行政組織に所属する常勤保健師2,668人を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を行った。因子分析により保健師の「仕事の要求」と「仕事の資源」の構成要素を明らかにし,構造方程式モデルにより「仕事の要求」と「仕事の資源」が離職意図に至る構造を検討した。結果 送付した調査票2,668通の回収率は72.5%,有効回答1,798通のうち男性が32人(1.8%),女性が1,766人(98.2%)でほとんどが女性であったため,職業性ストレスにおける男女の差を考慮して女性の回答1,766通(66.2%)を分析対象とした。対象は22~63歳で平均41.0±9.8歳,平均勤務年数17.0±10.0年であった。保健師の9.2%に離職意図があった。辞めたい理由は,興味・やりがいを持てない20.7%,体調12.9%,職場の人間関係12.1%であった。 「仕事の要求」は29項目10因子,「仕事の資源」は54項目22因子で構成されていた。 「仕事の要求」と「仕事の資源」が離職意図に至る構造を検討した結果,JD-R モデルが支持された。バーンアウトの状態であるほど離職意図が強く MCS;精神的サマリースコア;Mental component summary は低かった。「仕事の要求」が大きく,「仕事の資源」が小さいほどバーンアウトの状態であった。「仕事の資源」が大きいほどワーク・エンゲイジメントは高まり,離職意図は弱かった。資源の中でも「仕事の適性」,「仕事の意義」,「ポジティブなワーク・セルフ・バランス」,「成長の機会」の 4 因子により「バーンアウト」の分散の約 6 割,「ワーク・エンゲイジメント」の分散の約 4 割を説明できた。結論 「仕事の要求」が大きいほどバーンアウトとなり,離職意図が強い構造が明らかになった。「仕事の資源」が大きいほどワーク・エンゲイジメントが高まりバーンアウトしていなかったため,適性があると感じる配置,仕事の意義を見失わない組織的な取り組みが離職意図の低減に有効であることが示唆された。