- 著者
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小柴 昌俊
- 出版者
- 一般社団法人 日本物理学会
- 雑誌
- 日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, no.5, pp.332-336, 1996-05-05 (Released:2008-04-14)
早いもので日本物理学会が独立してから50年になるそうで, 振り返ってみると私が第一高等学校の理科甲類一年だったのですから, スケールは勿論違いますが, 苦楽を共にしてきたような気がします. この50年をふりかえる特別企画のなかで, 唯一つの単独実験としてKAMIOKANDEが取り上げられたことは, この実験に関与した総ての人々にとって大きな名誉と喜びです. それではKAMIOKANDEは何を達成したのでしょうか? 以下に他の分野の方々にもご理解いただけるように述べてみたいと思います. まず挙げるべきは「ニュートリノ天体物理学観測の創始」であると, 国内外で認められています. 透過力がきわめて大きい素粒子ニュートリノが星の生涯で果たしているであろう役割については早くから知られており, 天体からのニュートリノを観測することの重要性も指摘されていました. 米国では20年以上も前から地下深い所に37CIを含む多量の液体検出器を設置し, 太陽から降り注いでいる筈のニュートリノが37CIを37Arに変換したのを月に一度位の割合で抽出し検出する方法で観測をつづけ, 太陽からの電子ニュートリノは理論値の三分の一くらいしかないという結果を報告しています. しかしこのような放射化学的方法では入射したニュートリノの到来時刻, 到来方向は不明ですし, またエネルギースペクトルもわかりません. Keplerの昔から天文観測には到来信号の時刻と方向を知ることが不可欠です. また天体物理的観測, たとえば表面の温度や元素比, には更に信号のエネルギースペクトルを知らなければなりません. KAMIOKANDEはこれら三つの条件をみたす方式で天体からのニュートリノを観測したので, ニュートリノ天体物理学観測を創始したとされているわけですが, この実験がどのようにしてはじまったか, また透過力が極めて大きく, レンズも反射鏡も遮蔽も使えない天体ニュートリノの観測をどのようにして達成したかに入りましょう.