著者
森田 明雄 小西 茂毅 中村 順行 清水 絹恵 横田 博実
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-9, 2004 (Released:2004-03-18)
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

日本で育成された緑茶用品種の中から29品種を選び,それぞれ一番茶生育期前(3月1日)の成葉と摘採適期の一番茶新芽を採取し,全窒素,全遊離アミノ酸,テアニン,タンニン,カフェイン,ビタミンC含量を近赤外分光法により測定した.その結果,一番茶では,育成年と茶の滋味に関係する全窒素,遊離アミノ酸並びにテアニン含量との間に正の相関が認められた.つまり,育成年が新しい品種ほどそれらの窒素成分含量が高かった.しかし,同じ窒素化合物でも,苦味成分であるカフェイン含量には育成年の新旧に応じた差はなく,また渋味成分であるタンニン含量は反対に育成年との間に負の相関が認められた.一方,一番茶生育期前に採取した成葉でも,一番茶と同様に育成年と全窒素,遊離アミノ酸,テアニン含量との間に正の相関が認められ,育成年の新しい品種ほどこれらの窒素成分含量が高かった.しかし,成葉においては,育成年とタンニン含量との間に有意な相関はみられなかった.また,一番茶と一番茶生育前の成葉の全遊離アミノ酸含量同士の間に正の相関が示された. 次に,上述の煎茶用品種の中から1960年以降に育成された10品種を選び,一番茶摘採前期,後期,終期に相当する5月4日,14日,17日の3回,一心五葉芽の一心三葉部分のみを採取し,全窒素含量と可溶性窒素(全遊離アミノ酸に相当)含量を分析した.その結果,いずれの収穫日においても,摘採適期に収穫した場合と同様に,育成年と全窒素並びに可溶性窒素含量との間に高い正の相関を示した. これらの結果から,チャの育種では,近年の栽培等の技術の進展を背景に,滋味成分である窒素成分含量が高く,渋味成分であるタンニン含量の少ない茶葉をもつ個体が選抜されたことが示された.また,摘採適期に収穫した一番茶以外でも,一番茶生育期前の成葉または摘採期前期から終期までの新芽の一心三葉部分のみを試料に用いた成分分析値も,チャの成分育種の効率化に有効な資料として活用できることが示された.
著者
井上 弦 中尾 淳 矢内 純太 佐瀬 隆 小西 茂毅
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.424-432, 2019-12-05 (Released:2019-12-17)
参考文献数
22

茶の覆下栽培(被覆栽培)の発祥時期を明らかにする目的で,京都府宇治市の伝統的茶園,宇治七茗園のうち現存する唯一の茶園(奥の山茶園)において,在来種で古いとされる茶樹直下に試坑を作製し,土壌断面調査とともに,炭素含量,植物珪酸体組成,年代値を調べた.その結果,Bw層(試料no. 8)–AB層(試料no. 7)境界で炭素含量が増加をはじめ,AB層(試料no. 6)–A層境界(試料no. 5)から,土色の黒味が増し,炭素含量も急増した.植物珪酸体組成では,AB層でイネ属起源の植物珪酸体が明瞭に認められるようになり,AB層–A層境界からさらに同植物珪酸体の検出密度が増し,また,自然植生由来の植物珪酸体はAB層からA層への減少が示唆された.加えて,14C年代値は,AB層最上部(no. 6)で較正暦年代(2σ)1341~1396 cal AD(probability=56.9%,中央値AD1369),A層最下部(no. 5)で較正暦年代(2σ)1396~1440 cal AD(probability=90.8%,中央値AD1418)を示した.以上のことから,宇治最古の茶園(奥の山茶園)における覆下栽培は,文献資料が示す16世紀後半からさらに150年は遡り,少なくとも15世紀前半には発生していたと推定された.