- 著者
-
小野 麻衣子
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2013-04-01
研究目的マウス飼育法として、古くから尾を持ち上げて移動する方法が用いられてきた。近年、このハンドリング法が、マウスの不安や恐怖、ストレスを誘導し、行動学における表現型に影響を与えることが明らかとなった(Hurst et al, Nat Methods, 825-826, 2010)。実験動物はヒト疾患のモデルとして、その発症機序の解明、予防や治療法の開発に重要な役割を担っている。本研究ではハンドリングがマウスの表現型、とりわけ慢性疾患に与える影響を解析した。研究方法マウスは、慢性腎症モデルマウスICGNを用い、離乳後4週齢から、以下の4群のハンドリング方法で、週5回のハンドリングと週1回のケージ交換を行った。a)尾を掴み逆さに持ち上げて、そのまま30秒間保持した後、ケージに入れる。b)マウスを両手ですくい上げるように持ち、30秒間自由に行動させた後、ケージに入れる。c)マウスがプラスチック製トンネルの中に入るのを待ち、トンネルごとケージに入れる。d)コントロール群。ハンドリングを全く行わず、週1回のケージ交換をマウスの尾を保持する方法で行う。マウスは8週齢までハンドリングを行った後、血液学検査(ヘモグロビン濃度、BUN, クレアチニン)と腎臓の病理組織学的検査(PAS染色による糸球体硬化症の重篤度の差を判定)を行った。研究結果血液学検査の結果では、ハンドリングによる腎疾患重篤度の差は認められなかった。病理学的検査では、雌雄ともにコントロール群に比べハンドリング群において疾患の重篤度が大きくなる傾向がみられた。雌ではコントロール群に比べ尾を掴むハンドリングを行った群で重篤度が有意に高い結果となった。以上の結果から、ハンドリングによるストレスの違いが、腎症モデルマウスの疾患重篤度に影響を与える可能性があり、研究目的によって、マウスの日常の取り扱い方法に注意が必要であることが示唆された。