- 著者
-
山下 倫明
今村 伸太朗
山下 由美子
- 出版者
- 公益社団法人 日本農芸化学会
- 雑誌
- 化学と生物 (ISSN:0453073X)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.11, pp.807-817, 2012-11-01 (Released:2013-11-01)
- 参考文献数
- 46
- 被引用文献数
-
2
マグロ類やカジキ類,ハクジラ類などの海洋の高次捕食者には,食物連鎖によって生物濃縮されたメチル水銀が,筋肉に含まれることから,魚食からのメチル水銀の摂取による毒性を明らかにする必要がある.水俣病のように,メチル水銀の中毒事例から予想すると,低濃度のメチル水銀の長期曝露によって,脳神経系や心臓・血管系の分化・発達異常が生じる可能性がありうるが,実際には魚食によって微量なメチル水銀を摂取し続けても,メチル水銀中毒は生じない.その理由は,魚から高度不飽和脂肪酸やセレンなどを多量に摂取するので,これらの成分がメチル水銀の蓄積や毒性発現の機序に作用して,毒性を軽減することがわかってきた.魚食由来のメチル水銀の健康リスクは過大に評価されているのではないか.なぜ,魚食ではメチル水銀の毒性が打ち消されるのか.水産物のメチル水銀とセレンによる解毒に関する最近の知見を紹介する.