著者
山仲 勇二郎
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.69-81, 2016-07-01 (Released:2016-08-08)
参考文献数
44

私たちの行動(睡眠覚醒),血圧,ホルモン分泌などの生理機能を長時間にわたり観察すると明瞭な 24 時間リズム(概日リズム)がみられる.概日リズムの発振源は,内因性の自律振動機構である生物時計である.ヒトを含め哺乳類の生物時計は,視床下部の視交叉上核に存在する中枢時計と肝臓,肺,心臓など全身の末梢組織に存在する末梢時計からなる階層構造をもつ.生物時計の役割は,外部環境への同調と生理機能を時間的に統合することであり,ヒトが昼間に活動し夜間に睡眠をとるのに最適な体内環境を整えている.しかし,生活環境および生活リズムが多様化した現代においては,生物時計の支配に逆らった生活を余儀なくされるものも少なくない.睡眠や生体リズムの不安定化は,エネルギー代謝障害や気分障害等と関連することが報告されている.本論では,ヒトの生物時計の基本性質について解説すると共に,光環境,食習慣,運動習慣といった生活環境が生物時計に与える影響について紹介する.
著者
田村 聖 松浦 倫子 北村 航輝 山仲 勇二郎
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2110si, (Released:2022-01-15)
参考文献数
45
被引用文献数
1

眠気の日内変動には,起床6から8時間後に高まる眠気(午後の眠気)と夜間就寝前にむけて高まる眠気(夜間の眠気)が存在する。夜間の眠気は,脳内の生物時計中枢の制御を受ける深部体温の概日リズムに起因する。一方,午後の眠気の発生機序については不明である。本研究では,眠気に関わる生理的要因として末梢皮膚温,深部体温,自律神経活動に注目し,眠気と生理的要因との関係性を明らかにすることを目的とした。その結果,5名中4名の実験参加者において,起床3時間後以降に2から5時間毎の眠気の変動が観察された。起床後0–2時間および就寝時刻付近の眠気は深部体温,皮膚温,自律神経活動と有意な相関が認められた。一方,午後の眠気については個人差が大きく,体温,自律神経活動と一貫した相関関係は認められなかった。これらの結果から,眠気の日内変動に存在するウルトラディアンリズムは体温と自律神経活動の概日リズムに依存しないが,起床後および就寝前の眠気は,主に概日リズムを発振する生物時計中枢の制御を受けることが推測された。
著者
橋本 聡子 棚橋 祐輔 山仲 勇二郎
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

身体運動はヒト生物時計の同調因子かどうか、同調因子とすればその機序は何かを明らかにする目的で、時間隔離実験室において睡眠位相を強制的に8時間前進させる脱同調プロトコールを用いて検討した。健常男性成人を対象とし、自転車エルゴメーターによる身体運動を一日の一定時刻に休憩をはさんで2時間のトライアルを2回負荷して、概日時計(中枢時計)の支配を受ける血中メラトニンリズムや深部体温リズムと、末梢時計の支配を受けていると考えられる睡眠覚醒リズムを以下の条件下で同時測定した。その結果、約10ルックスの低照度下では、睡眠覚醒リズムの再同調は身体運動により促進されたが、血中メラトニンリズムは位相後退し、身体運動には影響されなかった。一方、約5,000ルックスの高照度下では、睡眠覚醒リズムは身体運動の有無にかかわらず再同調した。、また血中メラトニンリズムは位相前進したが完全には再同調せず、身体運動は位相前進に影響しなかった。以上の結果から、身体運動は睡眠覚醒リズムに同調促進効果をもつが、その効果は高照度下では隠蔽(マスキング)されることが示された。
著者
本間 研一 棚橋 祐典 西出 真也 仲村 朋子 山田 淑子 安田 円 首藤 美和子 山仲 勇二郎 橋本 聡子 徳丸 信子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

生物時計の中枢である視交叉上核には多数の振動ニューロンが存在し、それらが相互同調して性質の異なる複数の領域振動体を形成している。領域振動体は視交叉上核の部位により役割が異なり、それらの相互作用によって活動期の長さが決まり、行動リズムの季節変動を作っている。一方、周期的制限給餌や覚醒剤の慢性投与で生じる生物時計の障害は、中枢時計と末梢時計との解離により生じ、行動リズムを駆動する末梢時計は中脳にあることが示唆された。