著者
山元 修
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-15, 2020-03-25 (Released:2020-03-25)
参考文献数
110

化学熱傷とは, 化学物質が皮膚・粘膜に一次性に接触した際, その物質固有の化学反応によって惹起される急性組織反応で, 原則として熱作用は伴わないものをいう. 原因化学物質としては, 酸・アルカリ・腐食性芳香族化合物・脂肪族化合物・芳香族炭化水素・石油関連製品・金属およびその化合物・非金属およびその化合物・化学兵器 (毒ガス) ・その他に分類される. 臨床像は通常の熱傷に類似するが, 化学物質によっては特徴的な症状や経過を示し, あるいは皮膚からの吸収による全身症状を呈することもあるため, 個々の物質の特性を知っておく必要がある. 治療の原則は可及的かつすみやかな流水洗浄であるが, 化学物質によっては特殊な治療が必要である. 化学熱傷を診る機会のある形成外科医, 皮膚科医, 救急医, 総合診療医, 外科医は, 化学熱傷に関する最低限の知識を知っておく必要がある.
著者
山元 修 西尾 大介 徳井 教孝
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.169-180, 2001-06-01
被引用文献数
1

セメントは土木・建築工業分野で広く用いられているが,水に溶けると強いアルカリ性を示す,感作性の強いクロムが微量含まれているという性質のため,セメントによる職業性皮膚障害は比較的多く発生しやすい.本稿ではセメントによる接触皮膚炎4例とセメント熱傷2例を報告する.患者の職業は左官業,トラック運転手,土木建設作業員であった.セメント皮膚炎例は,臨床的に手指に乾燥化,亀裂,角化性丘疹・紅斑あるいは急性浸出性湿疹像を呈していた.うち1例は顔面や躯幹,四肢にも皮疹が認められた.いずれの例もパッチテストにて重クロム酸カリウムに陽性であった.セメント熱傷例はいずれも長靴の中に侵入したセメントに長時間接触後,下腿あるいは足に難治性潰瘍を生じた.パッチテストにてクロムは陰性であった.コンクリート作業現場の視察にて,現在の作業形態あるいは作業着では,皮膚の防護が十分にできないことがわかった.実状に合った易作業性と防護性を兼ね備えた作業着・手袋使用の推奨,あるいは防護形態の工夫が望まれる.セメントによる皮膚障害のほとんどは,実際にセメントを扱う小規模事業場の労働者に発生していると思われる.このような労働者の皮膚障害に対する健康管理体制の確立のため,小規模事業場における健康管理の取り組みを目指した地域産業保健センターの活用が強く望まれる.
著者
山元 修 西尾 大介 徳井 教孝
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.169-180, 2001-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 2

セメントは土木・建築工業分野で広く用いられているが, 水に溶けると強いアルカリ性を示す, 感作性の強いクロムが微量含まれているという性質のため, セメントによる職業性皮膚障害は比較的多く発生しやすい. 本稿ではセメントによる接触皮膚炎4例とセメント熱傷2例を報告する. 患者の職業は左官業, トラック運転手, 土木建設作業員であった. セメント皮膚炎例は, 臨床的に手指に乾燥化, 亀裂, 角化性丘疹・紅斑あるいは急性浸出性湿疹像を呈していた. うち1例は顔面や躯幹, 四肢にも皮疹が認められた. いずれの例もパッチテストにて重クロム酸カリウムに陽性であった. セメント熱傷例はいずれも長靴の中に侵入したセメントに長時間接触後, 下腿あるいは足に難治性潰瘍を生じた. パッチテストにてクロムは陰性であった. コンクリート作業現場の視察にて, 現在の作業形態あるいは作業着では, 皮膚の防護が十分にできないことがわかった. 実状に合った易作業性と防護性を兼ね備えた作業着・手袋使用の推奨, あるいは防護形態の工夫が望まれる. セメントによる皮膚障害のほとんどは, 実際にセメントを扱う小規模事業場の労働者に発生していると思われる. このような労働者の皮膚障害に対する健康管理体制の確立のため, 小規模事業場における健康管理の取り組みを目指した地域産業保健センターの活用が強く望まれる.
著者
小林 美和 山元 修
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.219-224, 2002-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 2

農業従事者に発症したスポロトリコーシス2例を供覧し, 当科で経験した11例についてまとめた. ガーデニングが流行していることから, 都市部においても, 趣味で土いじりを行う人での発症の増加が予想される. 本症を一種の職業性皮膚疾患として捉えたうえで, 農作業中の感染経路としての外傷予防を, 農家や趣味で農作業を行う人に呼びかけるとともに, 「カビ」による感染症についての啓蒙も必要である.
著者
織茂 弘志 山元 修 小林 美和 安田 浩
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.69-75, 2001-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 2

平成12年6月, 当教室では強酸による化学熱傷を2例経験した. 症例1は44歳の男性. 化学工場勤務中, 防護マスクをしていたにもかかわらず, その隙間より硝酸が侵入し, 顔面に化学熱傷を受傷した. また, 作業衣を通して右上腕から肩甲部および両下腿から大腿前面にも被酸した. 症例2は26歳の男性. 化学工場勤務中, 濃硫酸を両前腕部に浴び, Ⅱ度の化学熱傷を受傷した. いずれの例も酸をホースにより充填している作業中に, 不慮の事故で酸に曝露している. 両者ともマニュアルどおり15分以上の洗浄をし, 重大な機能障害を残すことなく軽快したが, 一部深達性の損傷部位も認めた. さらなる安全対策のために, 産業医学的側面より検討を行った. 今回の曝露事故を教訓として, 作業に関して次の3つの改善点をあげた. 1)作業中の油断, 特にベテランに多い慣れに伴う強酸の危険性の軽視に対しては, 再教育あるいは啓蒙活動が必要である. 2)主な受傷部位以外にも, 被酸部位の見逃しの可能性があることに対しては, 保護衣を脱ぎ, 全身シャワーを浴びることを勧めた. 3)保護マスクをしていたにもかかわらず曝露したことに対しては, 保護マスクの改良を提案した. また, 強酸曝露時の黄色痂皮を診たときは, 過小評価することなく, 深達性潰瘍の存在を念頭におくべきであることを反省した. 事故防止のため, より質の高い安全対策が望まれる.
著者
山崎 亜矢子 山田 七子 吉田 雄一 山元 修 大藤 聡
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.405-407, 2009

39歳,女性。初診の3ヵ月前から頭頂部に脱毛斑が出現し,徐々に拡大した。近医受診前夜,洗髪中に髪の毛が絡まりほぐれなくなったため当科に紹介された。絡まった毛髪を実体顕微鏡で観察すると毛髪表面に白い結晶状物質が不規則に分布付着し,走査型電子顕微鏡による観察ではキューティクルが毛の表面から浮き上がり逆立ったような像を呈していた。エネルギー分散型X線分析では,毛髪表面に異常成分は検出されなかった。不適切なヘアケア(毛髪の手入れ)によって生じたものと思われた。
著者
山元 修 安田 浩 伊豆 邦夫 西尾 大介 旭 正一
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.167-175, 2000-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 2

1979年7月から2000年2月末まで当教室で経験したフッ化水素酸化学熱傷は9例で, すべて職業性曝露によるものであった. すべて男性で, 年令は20-53歳(中央値35歳, 平均36.8歳), 曝露時従事していた作業の内訳は, 洗浄作業6例, フッ化水素パイプラインの機器交換2例, 不明1例であった. 受傷部位は手・指がほとんどであった. 手・指受傷者の作業中の手の保護が十分でなかったものは5名であった. 受診時の症状としては表皮剥離程度から白色壊死・潰瘍形成までさまざまであった. 過去の報告例も含め総合的に考慮して見ると, 曝露事故の発生要因としてはおおむね, 1)作業中の油断, 特にベテランに多い慣れに伴うフッ化水素酸の危険性の軽視, 2)フッ化水素についての無知・認識不足, 3)手袋の穴に気づかないままの作業, 4)不慮の事故, の4つに分けられた. フッ化水素酸による皮膚障害は重篤になることが多いため, 作業従事者(特に中堅), 特定化学物質等作業主任者, 治療に当たる可能性のある医師への, 皮膚科医・産業医によるフッ化水素酸化学熱傷についての, 再教育あるいは啓蒙活動が必要と思われる. また市販のフッ化水素酸剤を使う小規模事業所の事業主や作業者については地域産業保健センターなどの活用が望まれる.