著者
千田 恵理奈 久徳 茂雄 黒川 憲史 大谷 一弘 朝井 まどか 粟津 瑛里菜
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.17-21, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)
参考文献数
9

【序文】小児熱傷において急性期に体温上昇を認める症例を多く認めるが, それに伴う感染症の有無や抗生剤の要否に関しては判断に苦慮する場合も多い.  【方法】過去6年間に対象施設を受診した, 熱傷面積5%以上で入院加療を要した急性期の小児熱傷患者54例を対象とし, 年齢, 熱傷面積, 体温, 感染症の有無を後ろ向きに検討し, 統計学的検討を行った.  【結果】23例 (42.6%) で感染症を生じ, うち2例 (3.7%) で創部感染を契機とした重症な細菌感染症を生じた. 38.5℃以上の発熱は21例 (38.9%) で認めた. 38.5℃以上の発熱と感染症の有無に関し, 統計学的有意差を認めた (p値 <0.01) .  【考察】発熱と感染症の関連が示唆され, 熱傷受傷後であっても38.5℃以上の発熱では積極的に熱源精査を行う必要性が示唆された.  【結論】37℃台程度は熱傷による炎症反応で十分に説明がつくことが示唆され, 体温によっては必ずしも全例に抗生剤を投与する必要がないと考えられた.
著者
山元 修
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-15, 2020-03-25 (Released:2020-03-25)
参考文献数
110

化学熱傷とは, 化学物質が皮膚・粘膜に一次性に接触した際, その物質固有の化学反応によって惹起される急性組織反応で, 原則として熱作用は伴わないものをいう. 原因化学物質としては, 酸・アルカリ・腐食性芳香族化合物・脂肪族化合物・芳香族炭化水素・石油関連製品・金属およびその化合物・非金属およびその化合物・化学兵器 (毒ガス) ・その他に分類される. 臨床像は通常の熱傷に類似するが, 化学物質によっては特徴的な症状や経過を示し, あるいは皮膚からの吸収による全身症状を呈することもあるため, 個々の物質の特性を知っておく必要がある. 治療の原則は可及的かつすみやかな流水洗浄であるが, 化学物質によっては特殊な治療が必要である. 化学熱傷を診る機会のある形成外科医, 皮膚科医, 救急医, 総合診療医, 外科医は, 化学熱傷に関する最低限の知識を知っておく必要がある.
著者
馬場 國昭 徳田 リツ子 馬場 淳徳
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.21-32, 2020-03-25 (Released:2020-03-25)
参考文献数
16

初診日が1993年4月1日から2019年3月31日にある26年間の熱傷患者50,376例を統計解析した. 2018年の第44回日本熱傷学会総会・学術集会では25年間の症例の集計をした. その後の1年間の症例を加え5万余例になったので, 本稿では26年間の熱傷症例の集計とした. 内訳は男性17,437例, 女性32,939例, 男女比0.53であった. 最も多い受傷年代は10歳未満の15,936例 (熱傷全体の31.6%) であり, 同年代の男女比は0.98で男女差がない. 熱傷の受傷原因は熱性液体が24,105例 (47.9%), 接触17,656例 (35.0%), 火炎3,784例 (7.5%), 蒸気2,679例 (5.3%) であった. これらの四大原因で熱傷全体の95.7%を占めた. 最多の原因である熱性液体による熱傷24,105例のうち熱湯によるものは10,581例, 熱油6,023例, 茶・コーヒー2,084例, みそ汁1,439例であった. 接触熱傷のうち最多の原因はストーブなどの暖房器具による5,211例, ついでアイロンの2,258例であり, 火炎熱傷では花火によるものが多く1,070例, 蒸気熱傷では炊飯器の蒸気によるものが多く608例あった. 26年間の症例を年度ごとにみると, 集計初年度の1993年度は2,690例あったのが最終年度の2018年度では1,245例 (集計初年度の46.3%) と半数以下になった. この推移から多数例の集計に加えて, この間の変動をみることが重要であると考え, 26年間を前期と後期の2期に分け熱傷患者数のさらなる統計分析をした. 前期の症例数は29,836例, 後期は20,540例 (前期の68.8%) であり, 男女別では男性の後期症例数は前期の60.2%, 女性は73.8%であり男性の減少率が大きかった. 原因別では火炎 (50.2%) と爆発 (37.5%) による熱傷の減少率が大きかった. ストーブによる熱傷では後期は前期の44.0%になっていた. 逆に増加した受傷原因はヘアーアイロンによる熱傷が1,100%で, 約10倍になっていた.
著者
仲沢 弘明 池田 弘人 一ノ橋 紘平 上田 敬博 大須賀 章倫 海田 賢彦 木村 中 櫻井 裕之 島田 賢一 成松 英智 西村 剛三 橋本 一郎 藤岡 正樹 松村 一 森岡 康祐 森田 尚樹 占部 義隆 所司 慶太 副島 一孝
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-11, 2022-03-15 (Released:2022-03-15)
参考文献数
12

壊死組織を除去する手法はデブリードマンと呼ばれ, 深達性熱傷に対して必要な治療法の一つである.最も一般的に行われるデブリードマンは外科的デブリードマンであり, 近年では超早期手術の有用性が報告され広く実施されている.しかしながら, 手術時の術中管理や出血量管理が必要であり, 正常組織への侵襲が不可避であるため患者負担が大きい.一方, 諸外国で承認されている化学的壊死組織除去剤であるKMW-1は熱傷部位に塗布し, 4時間後に除去することで低侵襲かつ壊死組織のみを選択的に除去できることが海外臨床試験にて報告されている. われわれは, 深達性Ⅱ度またはⅢ度熱傷を有する日本人患者におけるKMW-1の有効性を確認し, 安全性を検討するために第3相臨床試験を行った. 主要評価項目である壊死組織が完全除去された患者の割合は88.6%(31/35例, 95%信頼区間[74.05, 95.46])であった.また, 壊死組織除去面積割合の平均値は患者あたりで96.2%, 対象創あたりで97.1%であった.さらに, 壊死組織が完全除去されるまでの期間の中央値は登録時点からが1日, 受傷時点からが3日であった.有害事象の発現割合は85.7%(30/35例), 副作用の発現割合は20.0%(7/35例)であったが, 副作用はいずれも軽度または中程度であった.KMW-1の減量や投与中断, 投与中止を必要とする有害事象は報告されなかった. これらの結果から, 日本人の深達性Ⅱ度またはⅢ度熱傷においても, KMW-1の塗布によって早期に選択的な壊死組織の除去が可能であり, 安全性に問題がないことが確認された.KMW-1は外科的デブリードマンによる超早期手術に代わる治療法となりうると考えられる.
著者
浅井 麻衣香 佐藤 宗範 草田 理恵子 松村 一
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.101-104, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
9

症例は24歳, 女性. 陰毛脱毛のために脱毛ワックスを電子レンジで加温直後,夫が塗布する際誤って下腹部にこぼし受傷した. 水で洗い流したが,自力では剝れず,当院時間外外来受診となった. 下腹部に2%の浅達性Ⅱ度熱傷を認め, 入院加療を行った. 保存的加療で第8病日に上皮化し, 退院となった. 本症例の熱傷誘因として, 1) 高温ワックスの塗布, 2) 脱毛ワックス加温後の攪拌不足,3)オイルなど皮膚を保護する保湿剤を塗布していない部位への脱毛ワックスの付着の3つがあげられる. 脱毛ワックスによる熱傷は適正な使用下ではまれである. 自宅使用が容易である脱毛ワックスの使用が増えている近年, 使用方法とともに熱傷リスクや適切な救急処置の記載 (冷却しワックス温度を下げる, 油性は水で落ちずオイルや油性成分を含むクリーム剤を用いて落とすなど), 使用者に対しての注意喚起が必要である. また, 医療者も脱毛ワックスの特徴を理解し治療にあたることが望まれる.
著者
菅原 隆 宮下 采子 松田 由佳里 吉田 光徳 樫村 勉 菊池 雄二 副島 一孝
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.72-77, 2021-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
9

尿道までいたる陰茎凍傷を合併した凍傷の症例を治療する機会を得たので報告する. 症例は26歳の男性. 冬山登山中に遭難し, 3日後に救助された. 前医救命センターで初療後, 受傷後29日目に凍傷の治療目的に当院に転医した. 当院で初診時に両手指と両足趾, 左鼠径部, 陰茎に黒色壊死を認めた.  受傷後33日目に壊死組織のデブリードマンを行った. その後, 陰茎腹側に尿道欠損を生じたためデブリードマン後14日目に口腔粘膜移植による尿道再建術を行い, 再建した尿道は陰嚢皮膚よりの皮弁で被覆を行った. 術後経過は良好で, 術後1年半以上が経過した現在も良好な排尿機能を維持しており, 退院後に挙児も得ており勃起機能と妊孕性も温存されている.  凍傷による尿道損傷は非常にまれな病態であると考えられる. 尿道損傷に対して本例では口腔粘膜移植による再建を行った. 術後良好な結果が得られており, 凍傷による尿道損傷に対して尿道再建術は有用であった.
著者
對馬 佑樹 三上 誠 飯田 圭一郎 和田 尚子 齋藤 百合子 漆舘 聡志
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.138-143, 2023-09-15 (Released:2023-09-15)
参考文献数
13

【背景】本邦におけるサウナ熱傷の症例集積研究の報告は, われわれが渉猟しえた限りはない. われわれが経験したサウナ熱傷の臨床的特徴について報告する. 【対象】2012年から2021年までの10年間で, 当科を受診した熱傷患者346例のうち, サウナ熱傷患者5例を対象とした. 年齢, 性別, 受傷から初診までの日数, 受傷機転, 受傷部位, 受傷原因, 熱傷面積, 初診時の熱傷深度, 手術の有無, 入院期間, 転帰について調査した. 【結果】対象者の年齢は64~76歳 (平均71±4歳) であり, 5例すべてが意識消失に伴う受傷であった. 死亡した1例以外は経時的に熱傷深度が深達化し, 手術を要した. 【考察】サウナ浴中は脱水と脳血流量の減少により意識消失をきたしやすい. サウナ熱傷にはcontact burnとhot air sauna burns (HASBs) があり, 手術を要する可能性が高い. そのため, サウナ利用者への注意喚起と適切な補水の励行を推奨すべきである.
著者
Amber Young Anna Davies Carmen Tsang Jamie Kirkham Tom Potokar Nicole Gibran Zephanie Tyack Jill Meirte Teruichi Harada Baljit Dheansa Jo Dumville Chris Metcalfe Rajeev Ahuja Fiona Wood Sarah Gaskell Sara Brookes Sarah Smailes Marc Jeschke Murat Ali Cinar Nukhba Zia Amr Moghazy Jonathan Mathers Sian Falder Dale Edgar Jane Mary Blazeby 訳者: 原田 輝一
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-20, 2023-03-15 (Released:2023-03-15)
参考文献数
52

【目的】国際的に使用可能な熱傷治療研究のためのコア・アウトカム・セット (Core Outcome Set: COS) の選定. 【デザイン】国際的コンセンサスの合意 (作成期間: 2017年4月~2019年11月). 【方法】システマティック・レビューおよび関連文献から, 検討候補となるアウトカム (臨床評価項目) を抽出した. デルファイ調査方法による共同意思決定作業を通じて, 各国の臨床家と研究者およびイギリス圏の患者と介護者が, アウトカムの優先順位決定作業に参加した. 匿名化されたフィードバック作業を通じて, コンセンサスの達成が目指された. まずアウトカム選定のための定義基準が事前に合意され, それに基づいた投票を行うためのコンセンサス会議が開催され, 最終的にCOSが決定された. 【結果】データソースの調査から1,021のアウトカムが抽出され, ついでその中から88のアウトカム候補が特定された. 1回目のデルファイ調査には, 77ヵ国の医療従事者668名 (18%が低・中低所得国) とイギリス圏の患者または介護者126名が参加した. 1回目終了後, 1つのアウトカムが破棄され, 13の新しいアウトカムが追加された. 2回目の調査では69項目が破棄され, 31項目のアウトカムが最終のコンセンサス会議へと残された. 最終会議では, 事前に設定した選択基準 (閾値) に基づいて2回の検討と投票が行われ, 最終的に7つのコア・アウトカムが合意された (死亡, 特定の合併症, 日常生活動作能力, 創傷治癒, 神経障害性疼痛および掻痒感, 心理的ウェルビーイング, 学校または職場への復帰). 【結論】このCOSには国際的に通用する普遍性があり, 熱傷領域で行われる介入試験において, プロトコル作成の前提になるものである. 今後の介入試験研究には, このCOSに準じた測定値または評価を含めることを推奨する.
著者
森田 尚樹 佐藤 幸男 櫻井 裕之 横堀 將司 石川 秀樹 梶原 一 海田 賢彦 松村 一 福田 令雄 濱邉 祐一 磯野 伸雄 田上 俊輔 藤原 修 副島 一孝 新井 悟 佐々木 淳一
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.76-89, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
17

東京都熱傷救急連絡会は熱傷救急ネットワークとして参画施設よりデータを収集, 分析し熱傷に関する啓発活動等を行っている. 今回1991年から2020年の30年間分9,698症例のデータを5年ごとに分け分析し, 熱傷症例の傾向を検討した.  総症例数に大きな変化は認めず, おもな受傷原因はflame burn, scald burn, inhalation injuryの順に多かった. 平均熱傷面積は有意に減少を認め, 平均年齢は有意に上昇し, 死亡率は有意に低下を認めた. 死亡症例の平均年齢は有意に上昇し, 平均熱傷面積は減少した. 死亡症例のBIは有意に減少したが, PBIは変化を認めず, 100をこえると死亡率は60%以上となった. 原因別症例数推移は, scald burnは増加傾向を, inhalation injuryは有意に増加した. これに対し, flame burnは有意に減少を認めた. Flame burnでは火災, コンロ等, 自傷行為, scald burnではポット・鍋の湯・油, 熱い食べ物, 風呂・シャワーがおもな受傷原因であった.  年齢別症例数は, 年少年齢 (0~14歳) ではポットの湯や油によるscald burn症例が増加傾向にあり, 対して火災によるflame burn症例は減少傾向を示した. 生産年齢 (15~64歳) では火災や自傷行為によるflame burn症例は減少傾向を認めた. 老年年齢 (65歳以上) では火災, コンロによるflame burn, 熱い食べ物, ポットの湯によるscald burnで症例数の増加を認めた. 出火原因はタバコの火の不始末 (不適当な場所への放置), 焚火, コンロが多く, 今後高齢者人口の増加に伴い, タバコの火の不適切な場所への放置, 焚火への注意喚起や, コンロ等のIH化や難燃性の衣類の推奨, ポットや鍋等の熱い食べ物による熱傷に対する啓発活動が重要であると考える.