著者
陳 富嘉 陳 富杰 尾崎 佑磨 霜村 典宏 山口 武視 會見 忠則
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.62-67, 2020 (Released:2022-02-11)
参考文献数
21

ササクレヒトヨタケは中国南部や韓国で大量に栽培されているものの,基礎的な研究があまり進められていない.本研究では,本きのこ種の簡便な担子胞子分離法の開発を目的として,担子胞子の発芽を誘導するためのpH条件及び培地組成を検討した.ササクレヒトヨタケの栽培子実体より無色の発芽孔を欠く若い胞子と黒色の発芽孔を有する成熟した胞子を採取し,pH 3.0ないし9.0に調整した各培地に接種したところ,胞子発芽は若い胞子に限ってみられた.また,胞子発芽の至適pHは6.0であった.菌糸生長量においても同様に,至適pHは 6.0であったことから,担子胞子分離に有効な培地のpHは 6.0 であると結論づけられた.一方,ササクレヒトヨタケの若い胞子は牛糞培地において発芽し,菌糸体コロニーを形成したが,PDA培地とMA培地では発芽しなかった.また,牛糞培地に最終濃度50 ppmのn-酪酸を添加することで,ササクレヒトヨタケの若い胞子の発芽や菌糸体コロニーの形成が促進された.本きのこ種の担子胞子分離には若い胞子を用いること,pH 6.0 に調整し,n-酪酸を添加した牛糞培地を用いることが有効であると結論づけられた.
著者
陳 富嘉 陳 富杰 早乙女 梢 霜村 典宏 山口 武視 會見 忠則
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.93-99, 2020 (Released:2022-03-21)
参考文献数
33

複数の系統群を含むことが知られるサクレヒトヨタケには四極性と二極性の交配型が報告されていたため,日本産のササクレヒトヨタケ Coprinus comatus の交配型を再検討することが必要となった.ITS領域による分子系統解析の結果,本きのこ種には3つの系統群が検出され,日本産本きのこ種はこのうちの1系統群に含まれた.子実体から単胞子分離したー核菌糸体は二極性ヘテロタリズムを示した.また,A因子の組み換え株は出現せず,A因子は1極めて近接した2つの遺伝子座により構成されると推察された.一方,本きのこのクランプ形成頻度は,ヘテロカリオンで30%以上,ホモカリオンで8%以下であったが,ホモカリオンのクランプ形成能は交配型遺伝子とは,連鎖していないことが,示唆された.
著者
津野 幸人 山口 武視 面地 理 甲斐 宏一
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.p475-483, 1991-12
被引用文献数
1

浸潤試薬で示される水稲葉の気孔開度(A)に関与する要因として, 葉色板示度(富士葉色カラースケール)による葉色(c), 日射強度(W), 飽差(d)の3要因を取り上げ, これらで圃場条件での気孔開度の日変化を総合的に説明しようとした. 1988年では慣行栽培の水稲(品種:ヤマビコ)の上位第1, 2葉の日変化を, 1989年には肥料条件を変えた試験区のヤマビコにつき上位第1〜4葉の日中の気孔開度と葉色との関係を, 幼穂形成期から登熟期にわたって調査した. 朝夕の日射強度が520Wm^<-2>以下の場合(d<6mmHg)は, AはWとcとの2要因の関数として示され, A=0.0108W (0.19c-0.40)という経験式を得た. 日中, 日射が520Wm^<-2>以上の条件下で飽差を一定にとれば, 全期間にわたってAとcとの間には高い正の相関関係が成立し, また, 葉色を一定にとれば, Aはdと負の相関関係が認められ, その回帰式の勾配は各葉色とも0.18で A=b-0.18d で示された. この式の切片(b)と葉色との関係はb=0.93cで近似できたので, 520Wm^<-2>以上の高日射条件下では, A=0.93c-0.18dの経験式が導かれた. これら2つの経験式より求めた計算値と実測値とは, 良好な適合を示し, Aの日変化とも合致した. 葉色示度3以下の葉身は, 日中ではわずかしか気孔が開かず, 光合成が著しく低下することが推察され, 葉色を濃く保つことの必要性を強調した. なお, 葉身N濃度が葉色に反映する程度は時期により異なり, 出穂後に高まる傾向を認めた.
著者
山口 武視 津野 幸人 中野 淳一 真野 玲子
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.703-708, 1995-12-05
被引用文献数
16

水稲茎基部からの出液は, 根の呼吸に関連する生理活性と関係していると考えられるが, 同一の齢でも出液速度が大きくばらつくことが指摘されている. そこで, 出液の測定条件を検討し, 出液に関与する要因を明らかにして, 出液速度で生理活性を把握できるかどうかを検討した. 同一個体内で出液を採取する茎以外の茎に葉が着生していると, それの蒸散のために出液量が減少した. したがって, 出液を採取する際には, 測定個体のすべての茎を切除する必要を認めた. 切断部の茎断面積と1茎当たり出液速度とは高い正の相関関係があり, 断面積の大きい茎, すなわち太い茎は茎断面積当たりの出液速度も高い値であった. 地温が7℃から29℃までの範囲では, 出液速度は地温に伴って指数関数的に増加し, その温度係数(Q_<10>)は2.2で, 根の呼吸速度の温度係数とほぼ同じ値であった. 上記の測定条件を考慮したうえで, 穂ばらみ期以降の根の呼吸速度と出液速度との関係を検討した結果, 両者の間には高い正の相関関係が認められた. これより, 根の生理活性が重要な問題となる登熟期では, 出液速度から根の生理活性を推定することができ, 出液速度の測定は, 根の診断のうえで有効で簡便な手法のひとつとしてあげることができる.
著者
李 忠烈 津野 幸人 中野 淳一 山口 武視
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.223-229, 1994-06-05
被引用文献数
4

土壌水分の減少に基因する萎れと枯死現象, 再給水による光合成速度の回復ならびに出液速度と根の呼吸速度との関係を明らかにしようとした. 韓国品種の黄金と短葉ならびに日本品種のエンレイを1991, 92年に同一のポットに播種し, 1本仕立てとして土壌水分がpF1.9になるよう灌水し, ガラス室内で生育させた. 出芽後56日から断水処埋を行い, 主茎葉の萎れと再給水による萎れの回復を観察した. 土壌水分の欠乏にともなって葉の萎れは下位葉より始まり上位葉に及び, 回復はこれとは逆の順序であった. 水分欠乏による主茎葉の枯死順位は萎れの傾向と同様であり, 土壌水分がpF3.5に達すると, 最下位葉より枯死が始まり, pF4.2で全ての主茎葉が枯死した. 断水処理後再給水し, その後3時間にわたって光合成速度の回復を経時的に測定したところ, 光合成の回復が良好な個体は, 根の呼吸速度が高く葉面積/根重比が小であった. 茎基部からの出液速度の経時的変化を調査した結果, 茎切断後2時間はほぼ一定値であった. 出液速度は細根呼吸速度と高い正の相関関係を認めた. また, 根のN%と細根呼吸速度との間には前報と同様に高い正の相関関係が得られた.