出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.148-155, 2019 (Released:2020-01-31)

ショウロRhizopogon roseolus は食用の外生菌根菌である.本きのこの人工栽培には,本菌を宿主に感染・増殖させる方法の開発が必要であり,また,優れた特性を具備した菌株系統の選抜が必要とされる.さらに,栽培技術の向上には,実用形質を改変する交雑育種技術が求められるが,その技術開発には,本きのこの生活環に関する基礎的知見が必要とされる.根系無菌育成法で育苗したクロマツ実生にショウロ菌糸体を接種したところ,約2週間で外生菌根を形成し,さらに育苗に伴い著しく外生菌根形成数が増大した菌株系統を選抜した.また,ショウロ菌糸体粉砕液を用いて,自然条件下で宿主クロマツ実生に人工感染させる方法を開発した.プランター育成クロマツ実生にショウロ菌糸体粉砕液を接種したところ,接種後3-4ヶ月後にショウロ子実体が形成した.ショウロ子実体試料を塩酸ギムザで核染色し,顕微鏡観察することでショウロにおける減数分裂や減数分裂後の体細胞分様式を解析し,新規の核行動パターンを明らかにした.本きのこの担子胞子の形成,離脱と離脱後の細胞微細構造を解析したところ,担子胞子離脱様式は非射出型であることを明らかにした.また,担子胞子離脱後に,胞子壁が多層化した.ショウロ担子胞子の発芽率は個体間で変異があり,ベージュ色を呈するショウロ子実体由来の担子胞子の発芽率が最も高かった.また,培地成分を5倍希釈したMMN 寒天培地で良く発芽した.本きのこの担子胞子由来一次菌糸体をクロマツ実生根に接種したところ,外生菌根を形成した.ショウロのクランプコネクション形成検定培地を開発した.本培地に二次菌糸体を接種すると安定してクランブコネクションを形成したが,一次菌糸体では全く形成しなかった.以上の一連の研究でショウロにおける生活環を解明できたことにより,交雑育種技術の基盤を確立することが可能となった.
著者
岡 久美子 西田 麻理奈 長澤 栄史 牛島 秀爾 石原 亨 前川 二太郎
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.147-152, 2015-01-31 (Released:2018-03-15)

モエギタケ科に所属するHypholoma fasciculare(ニガクリタケ)は毒きのこであり,主要な毒成分としてファシキュロールEを生産する.これまでに本種以外のきのこ種子実体にもファシキュロールEが含まれていることが報告されているが,詳細な調査は行われていなかった.そこで本研究では,H. fasciculareおよびモエギタケ科属種子実体におけるファシキュロールEの含有量を調査した.その結果,供試したHypholoma属種の子実体すべてよりファシキュロールEが検出され,本属の近縁属であるPholiota属やStropharia属種のいくつかの子実体中においても極めて少量であるが検出された.検出された子実体には食用きのこ種も含まれていた.さらに,分子系統解析の結果,ファシキュロールE生産性はモエギタケ科内のHypholoma属との系統的類縁性と密接に関係していることが示唆された.
著者
山田 明義 増野 和彦 福田 正樹
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.9-15, 2012

通称「シメジ類」には,少なくともホンシメジ(Lyophyllum shimeji),シャカシメジ(L. fumosum),そしてハタケシメジ(L. decastes)の3種が含まれる.ホンシメジはこれらシメジ類の中でも特に重宝される.日本国内おけるこれら3種シメジ類の学名が定着したのは,1970年代中盤以降である.近年,ホンシメジについて,交配実験をもとにした生物学的種の検討や,分子系統学的解析をもとにした国内産と海外産の標本の比較がなされるようになってきた.本論では,日本産ホンシメジに関するこれまでの分類学的経緯および今後の分類研究の展開について論じるものである.
著者
本間 裕人 中村 和夫 川村 拓未 徳田 宏晴 中西 戴慶
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.23-29, 2013-04-30 (Released:2018-03-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1

きのこ類を用いて味噌の製造を行った.味噌の製造に利用可能なきのこ類の選抜を行ったところ,11株のきのこ類において顕著な耐塩性プロテアーゼの生産性が認められた.そこでそれらの菌株を用いて実際に味噌を試醸したところ,すべての菌株において28日間の熟成で柔らかいペースト状となり,きのこ味噌を製造することができた.製造したきのこ味噌の一般食品成分分析を行ったところ,いずれも市販米甘口味噌に近い値を示した.熟成度合いについて調べるため可溶性窒素量を調べたところ,市販米甘口味噌が8.32g/kgであったのに対し,トキイロヒラタケ味噌では8.46g/kgであった.ホルモール窒素について調べたところ,市販米甘口味噌が3.67g/kgであったのに対し,エノキタケ味噌で4.42g/kgであった.アミノ酸組成について調べたところ,11株中5株のきのこ味噌でグルタミン酸含有量が市販米甘口味噌より高かった.
著者
寺下 隆夫 白坂 憲章 楠田 瑞穂 若山 祥夫
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.93-99, 2011-07-31 (Released:2018-03-15)
参考文献数
21

機能性の生体成分として知られるヒアルロン酸(HA)を低分子化し,低分子HAを主成分とするニワトリ鶏冠分解物を用い,シイタケおよびFlammulina populicolaの菌糸体生育と子実体形成に及ぼす低分子HAの影響について検討した.その結果,シイタケの菌糸体生育は本分解物の添加培養(0.125%)で促進され,無添加対照区のそれぞれ1.75倍(森465号),1.44倍(明治株),1.67倍(菌興324株)の菌糸体乾燥重量を得た.またF.populicola NBRC 7777株では0.125%のHA分解物の添加で1.70倍の菌糸体重量が得られ,子実体収量も1.75倍に増加した.さらに,この菌株を用い,低分子HAの菌体への取り込みについて,HA分解物のN-アセチルグルコサミン量を調べたところ,菌糸体で2.85倍,子実体で2.69倍に増加した.また,無添加の対照区では検出されなかったグルコサミノグリカンが,分解物の添加区で69.30-469.0μg/Petri dish検出され,培地に添加したグルコサミノグリカン量の0.35-0.52%が子実体中で確認された.
著者
宮澤 紀子 栗原 昭一 浜屋 忠生 瀬山 智子 吉本 博明 江口 文陽
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.30-35, 2013-04-30 (Released:2018-03-15)
参考文献数
22
被引用文献数
1

キトサンは,きのこの細胞壁や甲殻類の外殻成分に含まれるキチンを脱アセチル化して得られる多糖類である.本研究では,エノキタケ由来のキトサン(キノコキトサン)の脂質異常症の改善効果および肥満抑制効果について肥満モデル動物であるZucker-fatty Ratを用いて検討した.キノコキトサンを与えた群では,体重の顕著な減少,肝臓への脂肪沈着の減少,糞便中の脂質含有率の増加を確認した.さらに血液生化学検査では,中性脂肪,総コレステロール,LDL-コレステロールの明らかな低下が認められた.キノコキトサンは,腸管からの脂肪吸収の抑制,脂肪細胞での脂肪分解を介した血中脂質の改善および肝臓組織への脂肪蓄積を顕著に抑制する作用を示し,肥満ならびにメタボリックシンドロームの改善に寄与することが示唆された.
著者
福井 陸夫
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.99-111, 2018 (Released:2019-12-16)
参考文献数
16

きのこに関する知的財産権としての育成者権(種苗法に基づく品種登録によって発生する権利)は,種菌メーカーや大手きのこ産業,そして生産者の一部を除き,周知されてこなかった経緯がある.そこで,我が国のきのこ産業の一層の発展と充実を目的として,以下の事項を解説した. ・ 種苗法について ・ 種苗法の改正経過 ・ 育成者権侵害物品の水際取締り(海賊版取締り)に対す る技術的課題 ・ 品種登録制度の概要 ・ 農業者の自家増殖について ・ 侵害時の立証・反証方法について ・ UPOV (Union internationale pour la Protection des Obtentions Végétales) とUPOV 条約 ・ 植物品種等海外流出防止緊急対策における中国,韓国 への品種登録の推進 ・ 中国における品種保護出願マニュアル(概要) ・ 韓国における品種保護出願マニュアル(概要) ・ 種苗法と種子法について
著者
鈴木 彰
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.155-166, 2012-01-31 (Released:2018-03-15)
被引用文献数
1

担子菌きのこの生活史の各発育段階,特に子実体形成は,各きのこの菌株の遺伝的特性に加えて外部環境要因の影響を受ける.一般に,子実体形成が可能な温度域は栄養生長が可能な温度域よりも狭く,子実体形成の最適温度は,低温側に位置するものが多い.温度が低くなると,子実体形成速度が低下するとともに,柄が短くなり,傘が大きくなる傾向がみられる.湿度の低下も柄の短小化を招く.光照射は,多くのきのこで子実体形成過程の特定の時期に顕著な影響を与える.有効波長は,概ね330nm-520nmである.菌種にかかわらず子実体の発育段階初期が高濃度のCO_2暴露の影響を最も受け易く,次いで子実体発育後期,子実体原基形成,栄養生長の順になる.ヒラタケは,3,000-9,000ppmのCO_2暴露によって傘の展開阻害,柄の徒長と肥大,傘や柄の脱分化などを高頻度に生じる.ヒラタケとブナシメジでは,6,000ppmCO_2暴露によって,脂質,K,及びCa含有量が増大し,炭水化物含有量が減少する,ブナシメジではP/S比の増大も生じる.柄に負の重力屈性を生じる発育段階は,菌種によって異なる.積算微小変位圧縮法を用いたテンシプレサーと色差計を用いると子実体の客観的品質評価が可能である.きのこ生産の向上には,収量の増大のみならず,子実体の品質を考慮した育種や環境制御,さらに環境制御の省エネルギー化など,様々な分野で基礎的研究と生産現場での研究の連携が望まれる.
著者
西田 菜津美 鮫島 由香 田畑 麻里子 松井 徳光
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.80-84, 2015-07-31 (Released:2018-03-15)

一般的に,ヨーグルトの物性及び風味は凍結保存を行うことで変化する.しかしながら,ヨーグルトにきのこ麹を加えることで,ヨーグルトの物性や風味,乳酸菌の生菌数は維持された.
著者
楊 柏松 成 漢功 大賀 祥治
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.173-176, 2007
参考文献数
24

本研究では,ハナアブラゼミタケの子実体形成について,培地組成を中心に検討した.基本培地は白米(40g)を主材とし,コーンスティ-プリカー(0.2%),KH_2PO_4(0.2%)およびMgSO_4・7H_2O(0・05%)からなる混合溶液を添加して,300ml容三角フラスコに入れて培養した.基礎培地の白米5gをサナギ粉,フスマ,アワあるいはコーン粉に置き換えると原基形成が促進され子実体の発育も促進されたが,オカラは生育を抑える傾向があった.また,白米10gを卵黄10g(新鮮重)に置換した培地で子実体収量が最大となった.イーストエキスあるいはポリペプトンを基礎培地への添加でも,菌糸体成長と子実体形成の促進がみられた.
著者
浜名 康栄 林 秀謙 新津 勝 江口 文陽
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.17-22, 2010
参考文献数
25
被引用文献数
1

テトラアミン類のスペルミンとグアニジノアミン類のアグマチンの分布に注目し,きのこの子実体105試料より酸抽出したポリアミン画分を高性能液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーにて分析した.きのこ種としては,新規23種を含む90種(子嚢菌門の3種,担子菌門87種)であった.食用きのこ20種(13属)においては,各々同種の野生自生品種と市販栽培品種のポリアミン構成はほぼ一致した.プトレスシンやスペルミジンは90種に共通して存在したが,スペルミンの含有は10種に限定されていた.アグマチンは23種に主ポリアミン成分の一つとして検出された.イグチ科の8属におけるホモスペルミジンとカナバルミンの存在も追加確認した.帽菌亞網での子実体の傘部位と柄部位,腹菌亞網での殻皮とグレバと胞子塊,タマウラベニタケでの正常子実体と奇形菌糸塊についての比較では,スペルミンやアグマチン含量の差が顕著であった.
著者
薮田 行哲 宮脇 ひろみ 柴山 絢子 一柳 剛 會見 忠則 渡辺 文雄
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.89-92, 2012-07-31 (Released:2018-03-15)
参考文献数
11
被引用文献数
1

市販されている9種の食用きのこの抗酸化活性をクロシン退色法,フォーリンチオカルト法,そして1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル消去法の3種類の方法により測定した.9種類の内,ツクリタケが最も高い抗酸化活性(0.22mmol Trolox当量/g新鮮重量)を示した.さらにツクリタケの抗酸化活性は熱に安定であった.抗酸化活性は抽出溶媒および抗酸化活性の測定法の違いにより変化した.このことはきのこには様々な抗酸化物質が含まれていることを示唆するものであった.
著者
山下 慎司 赤田 康太 松本 聡 木下 幹朗
出版者
Japanese Society of Mushroom Science and Biotechnology
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.7-14, 2020 (Released:2021-07-14)
参考文献数
33

近年,日本を含む東アジアにおいて過敏性腸炎や潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患の増加は深刻になりつつある.これら慢性的な腸管炎症の継続は,下痢等による生活の質の低下だけでなく,大腸ガン発症リスクを上昇させる可能性が報告されている.タモギタケを含むきのこ類,またその水溶性画分において,抗腫瘍活性などの機能性が報告されおり,その摂取による腸疾患予防が期待されている.本研究では,きのこ子実体の脂溶性画分の腸疾患に対する機能性を明らかにするために,タモギタケ脂溶性画分としてタモギタケ子実体エタノール抽出物(GOMEE)を用い,食餌性GOMEEが慢性大腸炎モデルマウスに及ぼす影響を調査した.1.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)飲水により誘導された慢性大腸炎に対し,食餌性GOMEEは,飼育期間後期の体重減少を抑制するとともに,DSS飲水26日目では脾臓重量の増加並びに大腸の収縮を有意に抑制した.また,GOMEE摂取はDSSにより誘導される大腸絨毛の損傷を摂取量依存的に抑制することが観察された.DSS飲水18日目の炎症初期・中期においては,GOMEE摂取は大腸粘膜の炎症関連サイトカインレベルの上昇を摂取量依存的に抑制した.以上の結果は,タモギタケの脂溶性成分には,抗炎症活性を有する腸管保護成分が存在する可能性を示唆する.
著者
陳 富嘉 陳 富杰 尾崎 佑磨 霜村 典宏 山口 武視 會見 忠則
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.62-67, 2020 (Released:2022-02-11)
参考文献数
21

ササクレヒトヨタケは中国南部や韓国で大量に栽培されているものの,基礎的な研究があまり進められていない.本研究では,本きのこ種の簡便な担子胞子分離法の開発を目的として,担子胞子の発芽を誘導するためのpH条件及び培地組成を検討した.ササクレヒトヨタケの栽培子実体より無色の発芽孔を欠く若い胞子と黒色の発芽孔を有する成熟した胞子を採取し,pH 3.0ないし9.0に調整した各培地に接種したところ,胞子発芽は若い胞子に限ってみられた.また,胞子発芽の至適pHは6.0であった.菌糸生長量においても同様に,至適pHは 6.0であったことから,担子胞子分離に有効な培地のpHは 6.0 であると結論づけられた.一方,ササクレヒトヨタケの若い胞子は牛糞培地において発芽し,菌糸体コロニーを形成したが,PDA培地とMA培地では発芽しなかった.また,牛糞培地に最終濃度50 ppmのn-酪酸を添加することで,ササクレヒトヨタケの若い胞子の発芽や菌糸体コロニーの形成が促進された.本きのこ種の担子胞子分離には若い胞子を用いること,pH 6.0 に調整し,n-酪酸を添加した牛糞培地を用いることが有効であると結論づけられた.
著者
陳 富嘉 陳 富杰 早乙女 梢 霜村 典宏 山口 武視 會見 忠則
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.93-99, 2020 (Released:2022-03-21)
参考文献数
33

複数の系統群を含むことが知られるサクレヒトヨタケには四極性と二極性の交配型が報告されていたため,日本産のササクレヒトヨタケ Coprinus comatus の交配型を再検討することが必要となった.ITS領域による分子系統解析の結果,本きのこ種には3つの系統群が検出され,日本産本きのこ種はこのうちの1系統群に含まれた.子実体から単胞子分離したー核菌糸体は二極性ヘテロタリズムを示した.また,A因子の組み換え株は出現せず,A因子は1極めて近接した2つの遺伝子座により構成されると推察された.一方,本きのこのクランプ形成頻度は,ヘテロカリオンで30%以上,ホモカリオンで8%以下であったが,ホモカリオンのクランプ形成能は交配型遺伝子とは,連鎖していないことが,示唆された.
著者
種坂 英次
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.109-111, 2005-07-25 (Released:2018-03-15)
参考文献数
9

奈良県北西部に位置する平群町椿井の常念寺地蔵堂隅棟には,きのこが浮彫りされたユニークな鬼瓦がある.鬼瓦には成熟過程の異なる3本のきのこが描かれている.成熟子実体および若い子実体の傘は開いているが,傘中央はまんじゅう形にふくらみ,縁部はやや内方に巻いている.柄は上下ほぼ同径で,下方に向かって細まることはない.傘と柄の表面には,繊維状鱗片を思わせる細かい線刻が密に施されている.以上の形態的特徴から,この鬼瓦は矢田丘陵西麓に点在する集落において古くから貴重な現金収入となっていたマツタケを描いたものと考えられる.
著者
増野 和彦
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.122-127, 2019

里山地域のきのこ生産に寄与するため,多くの人々が手軽に参加できるきのこの栽培および増殖技術の確立,および栽培品種の開発を図り,以下の研究成果を得た.1.「わりばし」および「つまようじ」に菌を培養した種菌による原木きのこ栽培の簡易接種法を考案して,クリタケについて実用性を実証し「きのこの接種法」として特許を取得した.2.クリタケ自然集団内におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)の高い変異性を明らかにした.3.クリタケは菌糸束や根状菌糸束を形成して土壌中の木質の基質を介してテリトリーを広げていく生態を有しており,また,これらクリタケの基礎的な知見を基に,殺菌原木栽培・培養菌床の埋設によるクリタケの自然増殖誘導技術を開発し実証した.4.ナメコ,ヌメリスギタケ,ヤマブシタケ,クリタケ等のきのこ遺伝資源を収集し,これらを活用することで品種開発を果たした.
著者
松井 徳光
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.169-175, 2016

血栓症やガンなどの疾病は完治させることが難しく,医食同源・予防医学の観点に立ち,毎日の食生活からの発症を防ぐことが望ましいと考えられる.古来から現在に至るまで,清酒,ビール,ワインなどのアルコール飲料は,酵母のアルコール発酵によってつくられている.しかしながら,きのこにアルコール脱水素酵素や乳酸脱水素酵素が存在していることを発見し,アミラーゼ,プロテアーゼ,凝乳酵素の存在も確認した.多くのきのこに線溶活性および抗トロンビン活性が認められ,心筋梗塞や脳血栓などの血栓症予防に効果を示す機能性食品の開発を目指す研究を行った.酵母の代わりにアルコール脱水素酵素を有するきのこを用いてアルコール発酵を行い,機能性を有するワイン,ビール,清酒の生産を試みた.さらに,乳酸脱水素酵素,凝乳酵素,アミラーゼ,プロテアーゼなどが存在するきのこを用いて発酵を行い,新たな機能性を有するチーズ,味噌,発酵大豆,発酵梅,発酵豆乳,発酵肉などを調製した.その結果,これらの発酵食品中には,線溶活性,抗トロンビン活性,抗酸化活性が認められた.
著者
折橋 健 檜山 亮 原田 陽
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.85-88, 2018 (Released:2019-12-03)
参考文献数
16

シイタケ菌床栽培において,オノエヤナギのおが粉の粒度がシイタケ発生に及ぼす影響を検討した.おが粉製造後,4区分に粒度調整したおが粉を試験区,粒度未調整のおが粉を対照区に用いて栽培試験を行った.その結果,主な粒度が0.5 - 1.0 mmのおが粉を用いた試験区で,対照区や他の試験区よりも子実体収量,特に商品価値の高いMサイズ以上の子実体収量が高くなった.この結果は,ヤナギおが粉の粒度調整がシイタケ生産におけるヤナギの有用性を高める可能性を示している.
著者
中村 友幸
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.137-144, 2009-12-31 (Released:2018-03-15)
参考文献数
41

メシマコブは古くから漢方に供せられてきたきのこであり,高い生物活性を有するきのことして注目されている.近年,メシマコブ菌糸体は機能強化食品として幅広く用いられてきている.本報告では,メシマコブを用いた遺伝解析,培養条件の検索,および各種機能性の調査に関する最近の研究成果を報告する.特に,抗酸化作用,抗腫瘍作用,抗アレルギー作用,さらに新規の興味深い機能性研究に関しても紹介する.将来の研究でメシマコブの培養菌糸体とその有効成分が各種疾病に利用されることを期待している.