- 著者
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鈴木 彰
- 出版者
- 日本きのこ学会
- 雑誌
- 日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.4, pp.155-166, 2012-01-31 (Released:2018-03-15)
- 被引用文献数
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担子菌きのこの生活史の各発育段階,特に子実体形成は,各きのこの菌株の遺伝的特性に加えて外部環境要因の影響を受ける.一般に,子実体形成が可能な温度域は栄養生長が可能な温度域よりも狭く,子実体形成の最適温度は,低温側に位置するものが多い.温度が低くなると,子実体形成速度が低下するとともに,柄が短くなり,傘が大きくなる傾向がみられる.湿度の低下も柄の短小化を招く.光照射は,多くのきのこで子実体形成過程の特定の時期に顕著な影響を与える.有効波長は,概ね330nm-520nmである.菌種にかかわらず子実体の発育段階初期が高濃度のCO_2暴露の影響を最も受け易く,次いで子実体発育後期,子実体原基形成,栄養生長の順になる.ヒラタケは,3,000-9,000ppmのCO_2暴露によって傘の展開阻害,柄の徒長と肥大,傘や柄の脱分化などを高頻度に生じる.ヒラタケとブナシメジでは,6,000ppmCO_2暴露によって,脂質,K,及びCa含有量が増大し,炭水化物含有量が減少する,ブナシメジではP/S比の増大も生じる.柄に負の重力屈性を生じる発育段階は,菌種によって異なる.積算微小変位圧縮法を用いたテンシプレサーと色差計を用いると子実体の客観的品質評価が可能である.きのこ生産の向上には,収量の増大のみならず,子実体の品質を考慮した育種や環境制御,さらに環境制御の省エネルギー化など,様々な分野で基礎的研究と生産現場での研究の連携が望まれる.