著者
山崎 柄根
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.95-102, 1981

日本産のヒナカマキリは, その分類学的位置や雄についての知見にいくつかの混乱があった。たとえば, 日本産の種類では雌個体しか現れず, 単為生殖をしているのであろう, という説である(古川, 1950; 日浦, 1977)。本報文では, その分類学的位置を明らかにし, 雄については, 日本列島の自然史科学的総合研究による伊豆の調査で良い標本を得たので, これによって今回はじめて記載し, またこの種が両性生殖種であることを示した。この種は, もともと1908年, 素木得一によって静岡および東京産の雌をもとに Gonypeta Nawai として記載されたものである。ついで素木はこの種の2度目の記載を行ったが, 原記載を無視して, 松村松年が1908年(素木の原記載の5ケ月後)用いた無効名 Gonypeta maculata を用いた。混乱はここにはじまるが, 原記載はなぜか素木自身ならびにその後の研究者によって無視されてしまい, 1915年に KARNY が属を Iridopteryx に変更してのち, 日本のヒナカマキリについてのすべての文献には Iridopteryx maculata が用いられるようになった。しかし, 今回細かに検討してみると, 属についてはこのカマキリは Iridopteryx 属には該当せず, 結局 Amelinae 亜科の Amantis 属に含ましめるのが妥当であるとの結論に達した。原記載における種名 nawai は有効名であるから, 結局日本産のヒナカマキリの学名は Amantis nawai とするのが正しいことになる。台湾産のものと異って, 日本産の雄は雌同様に微翅型であって, 雌よりやや体が小さいものの, 雌に大変よく似ている。これがおそらく今まで雄個体がみられないという説の起った原因であると考えられる。よく探せば, どこでもその分布地では雄は見つかるものと思う。ヒナカマキリの分布は, 本州では北限地と考えられる山形県の吹浦から日本海側に沿って南西へ, また太平洋側では東京都の自然教育園や小金井市などの位置あるいは千葉県木更津市から南西に分布し, 四国, 対馬, 九州, 奄美大島にまで分布している(図12)。この種はシイやタブ林をとくに好んで生息するが, 記録された地点を地図上にプロットし, 常緑広葉樹林(あるいは照葉樹林)の分布地と比較してみると, 顕著にその分布が一致していることが認められた。肉食性のカマキリで, しかもその行動は他種にみられないほど敏捷で, また好地性であるが, 本種はこの常緑広葉樹林の林床をほとんど離れないのである。かくして, ヒナカマキリ Amantis nawai は常緑広葉樹林に伴って分布する昆虫の典型的なもののひとつと言ってよいであろう。
著者
山崎 柄根
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

1.日本列島に広く分布するヒメギス属は、旧北区東部から広く見られるもので、従来Metrioptera属に属するとされていたが,この地域のものはそれまでの亜属のひとつEobianaに相当すると考えられ,しかもこれを属レベルに扱うことが望ましいと考えられたので,これを独立属として認めた。この属にはイブキヒメギスとengelhardtiの2種が含まれていて,後者にはシベリアヒメギスとヒメギスの2亜種が含まれると結論づけ、これらの属、種,亜種の記載をそれぞれ行った。2.本州に分布するキリギリス類のうち,広く分布するヒメツユムシ属Leptoteraturaはalbicorne,すなわちヒメツユムシ,1種があるが,本属の雄は特異な外部生殖器をもつことによって、琉球列島に産する国属のものとは系統を異にするように思われる。そしてこの系統が中国大陸に由来をもつであろうと推定していたが(Yamasaki,1982),フィラデルフィアの自然科学アカデミーにあるXiphidiopsis omeiensisを検したところ,ヒメツユムシalbicornisそのものであることがわかったので,日本のものとその後に得られた中国産の材料を比較し,あわせて東南アジアの本属の種分化について仮説を提出した。これで琉球列島の異起源と思われる本属の種の起源が問題になってきた。3.日本産EobianaとLeptoteratura2属の日本への侵入ルートを考察した。それによれば、ヒメギスEobiana engelhardti subtropicaは明らかに大陸側のE.engelhardti engelhardtiから分れた島嶼型で、北海道経由,本州へと侵入した。一方,イブキヒメギスEobiana japonicaはヒメギスから分化したとも、朝鮮半島から九州を経由して侵入したとも考えられ,今後、朝鮮半島の調査が必要と考えられた。本州産ヒメツユムシLeptoteratura albicorneは同種が中国大陸で確認され,亜種の問題もあるが,明らかに朝鮮半島経由といってよいと思われる。
著者
Storozhenko Sergey 山崎 柄根
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.49, pp.37-46, 1993-07-25
被引用文献数
3 or 0

日本を含めて,旧北区東部に分布するヒメギス類についての再検討を試みた.本研究では従来Metriopteraの亜属のひとつとして扱われていたEobianaを独立属と認めた.この属にはE.japonica(イブキヒメギス)とE.engelhardtiの2種が属し,後者にはシベリアなどに分布するengelhardti(シベリアヒメギス:新称)と日本に分布するsubtropica(ヒメギス)の2亜種があり,これら属,種,亜種の再記載を行った.この結果,日本で用いられたMetrioptera hime FURUKAWA,1950は,Eobiana engelhardti subtropica BEY-BIENKO,1949となる.
著者
山崎 柄根
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.137-144, 1983

東北地方のヒメツユムシ類については, ムツツユムシモドキ Nipponomeconema mutsuense が唯一の種として知られている(YAMASAKI, 1983).1982年に行われた日本列島の自然史科学的総合研究による, 青森県をのぞく東北地方西半の調査によって, もう2種をつけ加えることができた.このうちの1種は本州中部から知られているヒメヤブキリモドキ Tettigoniopsis forcipicercus で, この種は東北地方に広く分布しているらしいことが, この調査で判明した。もう1種は明らかに新属・新種であるが, 雌の標本を欠くために, 新属創設にあたり, 両性の標本のそろっている関東や伊豆地方産の同属の新種をタイプ種として選び, これにもとづき新属 Cosmetura を記載し, ついで奥羽山脈船形山産の新種の記載を行った。 Cosmetura 属は, ヒメツユムシ亜科の短翅群に属し, 雄の肛上板が後方に伸長し, 複雑な形状をし, 褐色をしていることと, 横幅の広い生殖下板の先3分の1が背方に強く反っていることなどにおいて, きわめて特異である。一方, 雌の産卵管は背方にゆるく反った短剣状で, 先端は鋭くとがっている。この属のタイプ種 ficifolia では, 雄の肛上板背部の基方中央に頭方に向かう1本の突起をもつが, 船形山産の fenestrata では, この突起を欠き, しかもこの部分がへこみ, 明るくなって, 腹側が透けて見えることで識別される。 なお, これらの新属・新種の和名として, Cosmetura 属にコバネササキリモドキ属, C. ficifolia にはコバネササキリモドキ, C. fenestrata にはとりあえずトゲヌキコバネササキリモドキをあてておきたい。
著者
山崎 柄根
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.45, pp.45-49, 1991-12-25

1989年,国立科学博物館(東京)によって行われた台湾高山帯の動物相調査の際,従来知られたモリバッタTraulia ornataの亜種とは異なる1型を,中部の能高越えルートにおける2,000m以上の地点および南部の藤枝および鶏南山の1,550m以上の地点から得た.これまで低地から知られていたタイワンモリバッタ(モリバッタ基亜種)T.o.onataとはとくに脛節の色彩によって明瞭に区別され,また体長も安定性があるので,新亜種T.o.chuiとして記載した.本亜種は,その分布の状況から,おそらく低地の基亜種から直接に分化したものではなく,共通の祖先集団が前後2度にわたって中国大陸から台湾へ侵入し,最初に入った集団が高地型chuiとして進化を遂げ,後に入ったものが低地型ornataになったものと考えられる.