著者
小北 克也 山本 忠司 山川 智之
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.483-491, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
31
被引用文献数
1

酢酸を低濃度 (8~10mEq/L) 含有する重炭酸透析液における症候性低血圧症 (SH) と酢酸不耐症 (AI) を検討した. 外来透析患者391名を対象に, 透析中のSHとAIの頻度, 血漿酢酸濃度, 酢酸負荷速度および酢酸クリアランスを測定し, SHに関連する因子を解析した. SHは何らかの処置を要する低血圧症, AIはSHがあり血漿酢酸濃度≧2mmol/Lの症例とした. SHは391名中71名 (18.2%), AIは1名 (0.3%) であった. SHに関係する因子は糖尿病 (オッズ比, 1.92 ; 95%CI, 1.09-3.38), 体重減少率 (オッズ比, 1.29 ; 95%CI, 1.07-1.55) であり, 血漿酢酸濃度と関連性はなかった. 血漿酢酸濃度は開始2時間から定常状態となり4時間値で1.062±0.348mmol/Lであった. 酢酸負荷速度は1.51±0.48mmol/hr/kgで透析患者の代謝能力以内の負荷率, 酢酸クリアランスは1.30±0.42L/minで健常者の57%程度であった. 現行の低濃度酢酸含有透析液ではAIは解決されていると考えられた. 今後, 酢酸の影響についてはAIの定義を含めて再検討されるべきと考える.
著者
山川 真 山本 忠司 水谷 洋子 西谷 博 八星 元彦 平田 純生 堀内 延昭 清水 元一 山本 啓介 岸本 武利 前川 正信
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
人工透析研究会会誌 (ISSN:02887045)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.115-127, 1982-03-31 (Released:2010-03-16)
参考文献数
55

炭酸塩の析出という重曹透析液の欠点は, 酢酸ソーダを緩衝剤として用いることによって解決されたが, 透析法の発達によって新たに酢酸透析の問題点が指摘されるようになった. まず, dialyzerの効率の上昇に伴って, 透析液から生体に負荷されるacetate量がその代謝能を超える可能性があることと, 患者の中にはacetateの代謝能が低いものがあることがわかった. またacetateの大量負荷が生体のTCA-cycleに影響を及ぼすことが明らかにされた. 第2は, 酢酸透析では, dialyzerを通して血液から失われるHCO3-とCO2が大きいため, 適正な酸塩基平衡の是正が行われないこと, またCO2の低下から生ずるPO2の低下も考えられた. 第3はacetateの心機能抑制作用と, 未梢血管拡張作用が, 透析に不利に働いて, 透析中の不快症状の原因になっていることが示唆された. 第4はacetateの代謝経路から考えて, 長期には脂質代謝に何等かの影響が及ぶことが推測される. 第5は, まだ知見は少ないが, 重曹透析がCa代謝に有利に働くことが期待される.実際, 酢酸透析を重曹透析に移行することによって, 透析中の不快症状の発現が激減し, 種々の検査成績も改善することが示された. 重曹透析はすべての透析患者にとって有利な透析を提供すると考えられるが, 特に酢酸不耐症、 重症合併症、 心循環系合併症, 導入期, 大面積短時間透析等の症例に有効である. 重曹透析液は炭酸塩の沈澱を防止することが最大の課題であるが, そのためには, 液のpHの安定化をはからねばならない. このことはとりもなおさず, 液のPCO2の安定化に他ならない. 現在では, 重曹透析液は2原液法によって作製されるが, 安定した組成の液とその混合供給装置が開発され実用化している. 重曹透析は生理的で有用であるが, その取扱いはやや煩雑で、 高価になるので, 今後これらの点の改良が望まれる.