著者
長谷川 真二 松隈 英樹 松尾 哲 高橋 稔 川村 実 土田 弘基
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.731-733, 1991-06-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
9

今回我々は維持透析患者に悪性症候群が合併した稀な1例を経験したので報告する.糖尿病性腎症により維持血液透析中の42歳男性が, 高熱と, 眼振, 手足の振戦, 幻覚幻聴により入院した. 血液検資の結果, GOT459IU/l, LDH 1,669IU/l, CPK 529IU/l, aldolase13.3mU/ml, myoglobin 3,200ng/mlと異常を認め, 著明な低酸素血症 (PO227.1mmHg, PCO242.8mmHg) を合併していた. 患者は, 制吐剤として頻用される塩酸メトクロプラミド (metoclopramide hydrochloride: 30mg/日) を5か月間内服していた. また発熱, 自律神経症状・錐体外路症状・意識障害の症状より悪性症候群 (syndrome malin) と診断した.このため薬物の中止と臨時に血液透析を行い症状は改善し, 良好な経過を示した.
著者
山梨 利顕 中田 裕久 児玉 和也 山田 勤 松尾 武文
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.23, no.9, pp.981-985, 1990-09-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
17

マムシ咬傷により横紋筋融解症から, 急性腎不全を来し, 血液透析にて救命し得た症例を経験したので報告する. 患老は71歳の女性で, 昭和63年8月13日自宅にてマムシに左足蹠を噛まれ, 本院救急外来を受診し局所処置を受け帰宅した. その後左下肢の腫脹, 黒褐色尿を見るようになり, 次第に呼吸困難, 無尿を呈し8月16日内科入院となる. 意識は傾眠状態で, 左鼠径部以下の下肢の著明な腫脹, 左足蹠に血性水疱を伴う咬傷が認められた. 入院時検査では. BUN・Crの上昇と共に, GOT, GPT, LDH, CPK, ミオグロビンなどの筋由来と考えられる酵素群の上昇がみられ, マムシ咬傷による横紋筋融解症による急性腎不全と考えられた. 第1病日より血液透析を開始し, 計13回施行, 第18病日より尿量の増加と共に, 臨床症状の軽快を見た. 同時にミオグロビンや骨格筋由来の酵素値は急速に減少し, マムシ毒による横紋筋融解症は一過性のものと思われた. また経過中一過性の血液凝固異常がみられ, 蛇毒によるものと考えられた. 以上のことより, マムシ咬傷による横紋筋融解症から生じた急性腎不全は, 発症早期からの血液透析にて急性腎不全の状態を乗り切れば予後は良好であり, また一過性の血液凝固異常に対し, 体外循環時の抗凝固剤の使用には注意が必要なことが伺われた.
著者
百瀬 昭志 遠間 由理 大村 誠 斉藤 久夫 澤田 善章 美濃 真成 北川 柾彦 舟生 富寿 鈴木 唯司
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.585-591, 1993-04-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
5
被引用文献数
1

症例は50歳男性で, 肝硬変を合併した慢性腎不全患者である. 肝機能の低下は軽度だが, 門脈一大循環シャントにより高アンモニア血症をきたし昏睡を繰り返していた. 肝性昏睡起因物質と尿毒症物質の除去を目的に血液透析を施行したが, 高アンモニア血症は持続し昏睡も改善しなかった. また透析後の動脈血アンモニア濃度は透析前よりも有意に上昇していた.この増加の原因としては, 透析による蛋白異化と食事のために消化管におけるアンモニア産生が増加するためと考えられた.透析中の動脈血pHが過度のアルカローシスとならないように, pHがやや酸性の透析液を使用し, 透析中に分枝鎖アミノ酸とグルタミン酸の混合液を持続点滴しながら午後に透析をしたところ, 透析後の動脈血アンモニア濃度は透析前よりも有意に低下した. これに伴い透析前動脈血アンモニア濃度も正常値に近づき, 昏睡症状も消失した.pHがやや酸性の透析液を使用することや, 透析中にアミノ酸を持続点滴することは体内の蛋白異化亢進を抑え消化管におけるアンモニア産生を低下させる効果があるものと考えられる. さらに食事により動脈血アンモニア濃度が上昇する午後に透析をすることは効率的にアンモニアが除去できるものと考えられた.
著者
三浦 洋 早野 恵子 井野辺 義人 福井 博義
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.651-655, 1991-05-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

マムシ咬傷による横紋筋融解症から急性腎不全を来たし, 救命し得たもののDIC, 消化管出血等の合併症を伴って重篤な経過を辿った2症例を報告する. 両症例共に受傷後, 広汎な局所病変を呈し, 入院時検査においてBUN, creatinineの上昇と共にLDH, CPKなどの筋由来酵素群の上昇がみられ, さらに血中, 尿中のmyoglobinの高値も認めたことから, rhabdomyolysisによる急性腎不全を発症したと考えられた. 症例1は蛇毒中の血液凝固因子の作用によりDICを併発したことから, また症例2は大量の消化管出血を伴ったことから, いずれも重篤な経過を辿った. 局所病変の強いマムシ咬傷例は, 重篤な合併症に注意して診療にあたるべきと思われた.

2 0 0 0 OA 高Na透析

著者
前田 憲志
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
人工透析研究会会誌 (ISSN:02887045)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.103-113, 1982-03-31 (Released:2010-03-16)
参考文献数
13

近年, 高Na透析が用いられるようになってきているが, これを長期間, 多数例に用いるには十分な管理が必要である. 従来の低Na透析も15年以上にわたる実績があり, いくつかの長所がある. しかし, 低Na透析では, 血漿浸透圧の低下が著しく, そのためにplasma refilling rateが低下し, 血漿量の減少を招き, また, 血漿中より細胞内への水の拡散も生じ, 透析後において細胞内液量の減少は少なく, 血漿量の減少が大きいなどの問題点がある. 反面, 高Na透析においては, 細胞内よりの除水が期待できるので, 血漿量の維持は容易である.高Na透析法には, その目的や使用法において, 次のような方法がある.1) 生理的Na濃度透析液を用いる法2) 非生理的Na濃度透析液を用いる法3) 非生理的Na濃度透析液に飲水を併用する法4) Sodium gradient method (SGM)5) Cell-wash dialysis (CWD)1) 及び2) は, その生理的意味は全く異なっており, 1) においてはNa free wateはほとんど除去できないが, 2) ではNa free water clearanceが著しく上昇する. この効果は, 血流量200ml/分の透析では, 透析液Na濃度160mEq/l以上で明らかとなり, 170mEq/l以上で著明となる. また, 160mEq/l以下では, その生理的意義は1) の場合とほぼ同じであるから, 実用上の1) と2) の区別は, 透析液Na濃度160mEq/lを境にするのが適当である.高Na透析液の使用に際しては, Na出納のバランスを考慮しなければならないので, 必要な時期に必要なNa濃度の透析液を用いるSGMが, 実用上きわめて有用な方法である. 実際には, Na濃度と除水量が自由にプログラミングできる装置が便利である. また, CWDでは, 従来の透析でコントロール不良の, いわゆる透析困難症にすぐれた効果を示し, 尿素窒素の上昇率を一定期間低下させる効果や, カリウムめ除去量の増大がみられる.
著者
小野 慶治 柏木 征三郎
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.189-193, 1990-02-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
20

免疫不全状態にある透析患者のB型肝炎ワクチンに対する不良な抗体産生が従来からの筋注法を皮内接種に変える事によって改善されるのか検討した。HBs抗原・抗体陰性の透析患者35名を三群に分け, 第I群 (14名) には組換えワクチン5μgを隔週に皮内接種し, 第II群 (13名) はワクチン2.5μgを隔週に5回, 続いて毎週皮内に接種した. 第III群の残り8例は10μgを4週毎に三角筋に5回注射し, 続いて5μgを隔週に皮内注射した. これらのワクチンは抗体陽転化まで与えた.第III群での筋肉注射後の抗体産生はきわめて悪く, 16週目でわずか37.5%の抗体陽性率しか得られなかった. しかし, 皮内接種へ変更後抗体陽転率は著しく高くなった. 一方ワクチン5μgが皮内接種された第I群の成績は良く, 更に第II群でも2.5μgの投与間隔を半分に短縮することにより良好な抗体産生が得られた. つまり. 少量のワクチンを皮内に接種する事により対象の透析患者全例で26週 (6か月) 以内に抗体陽転が認められた. これは透析患者に対するB型肝炎ワクチン接種後100%の抗体産生を得た世界最初の報告である.しかし, 最高抗体値は全般に低く予防効果を示す10mIU/mlよりは高いものの, ワクチン接種中止後抗体価の低下してくる例もあり, 今後, 経時的に抗体価を測定しワクチンを再接種する配慮も必要である.
著者
平山 順朗 小山内 幸 植松 和家 鈴木 唯司 舟生 富寿 兼子 直
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
人工透析研究会会誌 (ISSN:02887045)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.301-308, 1985-06-30 (Released:2010-03-16)
参考文献数
5

入院中の透析患者100例に対し精神科医による面接を行い, 患者のおかれた背景の相違による精神症状の出現状態の差を検討した. 透析期間では, 3ヵ月から1年が精神的には最も安定しており, その他の期間では半数以上の例で抑うつが認められ, 3ヵ月未満では焦燥, 怒りなどが, 1年以後には明るさやおおらかさの喪失が多く認められた. 年齢との関連では26-40歳の年齢層で抑うつ, 焦燥, 悲観, 怒り, あきらめ, 死の不安, 攻撃などが高頻度で認められた. 家族の問題で最も精神症状が強く出現するのは離婚例で抑うつ, 明るさやおおらかさの喪失, 悲観, 焦燥, 怒りや攻撃などが半数以上の例で認められた. 子供の状況との関連では, 子供が18歳未満の例でやはり精神症状が高頻度でみられた. 職業との関連ではサラリーマンが抑うつ, 焦燥, 怒りが, 無職例であきらめ, 悲観, 明るさやおおらかさの喪失の出現頻度が高かった. また, 合併症を有する場合には自殺念慮を含めてさまざまな精神症状が高頻度で認められた.矢田部-Gilford性格検査による性格類型では, B型で抑うつ, 悲観, 怒り, 攻撃, E型であきらめ, 自殺念慮, C型であきらめ, 死の不安が多く出現し, D型で最も安定した性格であった.面接後の対応は, 主として抗うつ剤, 精神安定剤 (minor tranquilizer) などの薬剤投与で行ったが, 患者に対して病状の再説明を必要としたり, 継続的な面接を行った症例も存した. 継続的な面接により精神症状の出現率はあきらかに減少していた.
著者
徳田 雄一 橋口 尚文 浜田 富志夫 山下 亙 田中 啓三 馬場 泰忠 中島 晢 原田 隆二 渋江 正 有馬 暉勝
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.23, no.9, pp.1021-1025, 1990-09-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
19

慢性腎不全患者の胃粘膜病変の原因解明のため血液透析患者 (137名) に内視鏡検査を行い胃粘膜病変の頻度および発生部位について検討し, さらに胃粘膜防御機構に関して血中HCO3-濃度測定 (66名), レーザードップラー法による胃粘膜血流量の測定 (46名) を行った. また胃疾患との関連性が指摘されているCampylobacter pyloriを胃粘膜より培養法にて検出 (23名) した. 血液透析患者の胃粘膜病変には, びらん性胃炎, 胃潰瘍, 急性胃炎などが多くみられ, その発生部位は胃前庭部に多かったが急性胃炎については胃体部にも66.7%に病変が認められた. 血液透析患者の血中HCO3-濃度は19.5±2.6mEq/lとコントロール群に比較して低値を示した. 血液透析患者ではコントロール群との比較で胃体上部大彎にて胃粘膜血流量の低下がみられた. Campylobacter pyloriの検出率は43.5%でコントロール群と有意差は認めなかった. 以上より慢性腎不全患者における胃粘膜病変の原因として血中HCO3-濃度低下による胃粘膜HCO3-分泌の低下, 胃体部の胃粘膜血流量の低下などの胃粘膜防御機構の障害が関与していると考えられた.
著者
原口 義座 島田 和明 星野 正己 永田 伝 若林 利重 岡田 利夫
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.673-678, 1987-09-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
16

当院で経験した消化器疾患のうち急性呼吸不全に腎不全を合併し, 血液透析を要した例における呼吸循環系機能, 特に血管外肺水分量の推移について検討を加えた. 対象は6例, 11回である. 検討項目は, 血管外肺水分量 (extravascular lung water: 以下EVLWと略す) の他, 肺動脈拡張期圧 (以下PAEDP), PaO2, 心係数 (以下CI), 全身状態などであった.結果: EVLWは, 血液透析 (以下HD) 前値で9.57±435ml/kgBWと増加例が多く, 中でも10ml/kg BW以上の中等度増加以上が64%を占めた. また全身状態不良例に高値を示す傾向がみられた. HDの施行によりEVLWは多くの例で減少したが, HD終了後, 徐々に前値に復する傾向があった. HDによる他の項目の推移に関しては, 1) PaO2, CIはHD中は低下例が多く, HD後, 時間を経ると改善する例もかなりみられた. 2) PAEDPは一定の傾向を示さなかった.呼吸不全例に腎不全合併した際のHD施行にあたり, HD中にみられるPaO2低下は注意を要する点である. この低下の原因としては幾つかの機序が推定されている. 我々の検討では, EVLWの減少例が多いことから考えると肺水腫, 特にpermiability edemaの進行によるものは否定的であり, 他の原因 (循環系抑制, 白血球の肺血管へのmargination, cellophane膜の影響による補体系の異常等) を考慮すべきと考えられた. 一方今回経験したHD中およびHD後早期のEVLWの減少の機序としても, 多くの機序が考えられるが, そのうちの1つにHDによる有毒物質の除去の関与している可能性もあり, さらに検討を加えるべきと思われた.
著者
庄野 義幸 酒見 隆信 馬場 直樹
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.1403-1405, 1990-12-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
7

アセタゾラミドは, 炭酸脱水素酵素を阻害する薬剤で, 現在利尿剤としてよりもむしろ緑内障の治療, あるいは小児のてんかん治療薬として使用されている. 私たちは, 緑内障合併に対してアセタゾラミドの内服をうけ, 数日後に意識障害をきたした慢性腎不全の2例を経験した. 症例1は2年前より維持血液透析をうけている62歳男性で, 緑内障発作に対してアセタゾラミド0.5g/日の内服後3日目に, 意識障害をきたした. 症例2は糖尿病性慢性腎不全 (Cr 6.2mg/dl) の54歳男性で, 緑内障合併のためアセタゾラミド0.75g/日の内服をうけ3日目に意識障害をきたした. いずれの症例も頭部CT検査で異常を認めず, 脳波上代謝性脳症を呈しアセタゾラミド中止により意識が回復したことより, アセタゾラミドが意識障害の原因と考えられた. 意識障害の機序は明らかでないが, 腎不全によるアセタゾラミドの蓄積が起こり, 脳への直接作用による脳内アシドーシスが関与している可能性が推定された.
著者
丹羽 利充 小沢 裕子 前田 憲志 柴田 昌雄
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.21, no.10, pp.951-956, 1988-10-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
18
被引用文献数
1

慢性血液透析患者血液中に蛋白結合して著明に増加しているインドキシル硫酸の高速液体クロマトグラフィー (HPLC) を用いた簡便な定量法の確立を試みた. 血清10μlをinternal-surface reversed-phase (ISRP) カラムを装着したHPLCにより分析した. 溶出ピークを乾固後, 二次イオンマススペクトロメトリー (SIMS) により測定したところ, 分子量が213と分かり, また, UVスペクトル, HPLCの保持時間もインドキシル硫酸と一致した. 蛋白結合型インドキシル硫酸の血清濃度を, 血清の除蛋白を必要とせずにHPLCにより短時間に容易に測定することが可能となった.透析患者80名の透析前および透析後の総インドキシル硫酸および遊離型インドキシル硫酸の血清中濃度をISRP-HPLCにより測定し, 各臨床検査値との相関関係を検討した. 透析前総インドキシル硫酸は平均32.6μg/mlと正常者の平均0.50μg/mlに比較して著明に増加していた. 透析後のインドキシル硫酸は平均25.7μg/mlであった. 透析前のインドキシル硫酸濃度は透析年数, 透析前血清クレアチニン, β2-ミクログロブリン濃度と弱いが有意に正相関した. インドキシル硫酸の蛋白 (アルブミン) 結合率は透析前89%, 透析後84%であった.インドキシル硫酸の薬物-アルブミン結合への阻害作用を平衡透析法により検討した. インドキシル硫酸はサリチル酸のアルブミン結合を用量依存性に阻害した. また, 透析患者の血清中にアルブミンと結合して著明に増加している3-carboxy-4-methyl-5-propyl-2-furanpropionic acidはインドキシル硫酸のアルブミン結合を用量依存性に抑制した.インドキシル硫酸は血中では大部分がアルブミンと結合しており血液透析により除去されにくく, 透析患者の血清中に薬物結合阻害因子として著明に蓄積していた.
著者
伊藤 正典 畠山 収一 久慈 一英 宮内 勉 森 保人 伊藤 利之 北野 博嗣 泊 康男
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.26, no.11, pp.1709-1713, 1993-11-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
13

胃異所性石灰化を合併した長期血液透析患者の1例を経験したので, 臨床所見と合わせ報告する.症例は49歳, 男性. 18年の血液透析歴をもつ長期透析患者であった. 心窩部痛の訴えがあり, 胃内視鏡を行ったところ, びらん性胃炎と診断された. さらに, 生検標本にて, 胃粘膜内に石灰化が認められ, 異所性石灰化と診断された. 骨シンチグラムでも, 胃に集積がみられた. 胃運動機能を評価する目的で, 胃排出時間を測定したが, 固形食, 液体食ともに遅延は認められなかった.臓器異所性石灰化は, 尿毒症の合併症のひとつと考えられるが, 胃異所性石灰化の臨床的意義について, これまで言及した報告はない. 本例では, 内視鏡検査では出血を伴った胃粘膜のびらんが認められた. また, 胃排出時間を検討した結果では胃運動機能は障害されていなかった. しかし, この点に関しては, さらに経過観察が必要と思われる.
著者
林田 紀和 前田 涼子 滝沢 義光 宮本 治子
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.25, no.11, pp.1247-1250, 1992-11-28 (Released:2010-03-16)

透析患者にとって, 便秘は隠された深刻な悩みの1つであり, 下剤を常用している患者は多い. 痔疾患は便秘が主因でくるために, 透析患者に多い合併症と思われるが, 今まで痔疾患についての報告は皆無であり, 当院での透析患者の痔疾患手術9例について検討した. 9例中男性5例, 女性4例であり, 内痔核8例, 痔瘻1例であった. 当院のこの2年間での健常者の痔疾患手術例は542例で, 63%は内痔核, 23%は痔瘻, 14%は裂肛であった. 従って透析患者では貧血や免疫能が低下しているに拘わらず, 予想に反して, 裂肛と痔瘻が少なくそめ考察を加えた. また手術例は透析導入後短期間であり, 痔疾の病悩期間はいずれも透析導入かなり以前より有し, 導入により増悪し易いが, 意外にも, 透析導入時に痔疾患がなければ, 便秘が頑固であっても, 痔疾患には罹患しづらいと思われる.
著者
石原 哲 小林 覚 前田 真一 斉藤 昭弘 兼松 稔 栗山 学 坂 義人 河田 幸道 小口 健一 小林 克寿 出口 隆 北島 和一
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.1291-1295, 1991-09-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
15

血液透析患者における膿尿, 細菌尿の実態を知る目的で, 尿路感染症の急性症状を示さない時期に尿検査を実施した結果を報告する.尿沈渣白血球数は5コ/hpf以上が59.7%, 10コ/hpf以上が43.5%, 細菌尿は104CFU/ml以上が29.8%, 105CFU/ml以上が21.0%と, いずれも高頻度であった. 膿尿, 細菌尿の頻度に有意な性差はなかった. 腎炎群, 糖尿病腎症群間にも有意差は認められなかったが, 多発性嚢胞腎が原疾患である症例では, 膿尿, 細菌尿の程度が高い傾向が認められた.1日尿量と膿尿および1日尿量と細菌尿の分布および統計学的検討より, 少なくとも1日尿量400ml以下の場合には通常の基準を用いて感染尿の決定をすることは好ましくないと考えられた.
著者
与古光 猛 久保 博 和泉 雅章 和田 晃 藤田 芳正 田中 善 白井 大禄
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.351-354, 1990-04-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
2

従来より使用されている上部より血液が滴下して流入する型の静脈側エアートラップチャンバーでは血液透析の時間経過と共にチャンバー内の液面が上昇する. この液面上昇の原因は液滴下による小さな気泡発生とその気泡のチャンバーよりの流出によるものであり, その流出量は血漿を用いて測定すると2時間当り最大約3.5mlと推定された. 一方, 静脈側エアートラップチャンバーの血液流入部を液面下に配すると, 気泡の発生・流出は全く見られず, また液面の上昇も認められなかった. 以上の成績から, 血液透析に用いる静脈側エアートラップチャンバーは血液流入部を液面下に配し気泡が発生しない型のものを使用する必要がある.
著者
小林 克寿 宇野 裕巳 永井 司 多田 晃司 北島 和一 出口 隆 栗山 学 河田 幸道
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.23, no.11, pp.1313-1316, 1990-11-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
8

CAPD (continuous ambulatory peritoneal dialysis) は腎不全の治療として血液透析や腎移植と共に重要な治療法の一つである. しかし最大の合併症として腹膜炎があり, これがCAPD継続の鍵を握っている. 最近この腹膜炎の中に無菌性のものがあることが知られている. 特に排液中の好酸球の割合が多く, 自然寛解をみる好酸球性腹膜炎が注目されてきている. 今回我々は3例の好酸球性腹膜炎を経験した. 3症例ともCAPD導入後2-3週間で発症し, 抗生剤を使用せずに1-3週間で自然治癒した. このうち2症例に肝機能障害が出現した. 好酸球性腹膜炎の発症機転はアレルギー反応と推察されているが, 我々の症例においては末梢血の好酸球の増加はなく, カテーテルの滅菌方法をEOGからオートクレーブに変更したところその後の症例においては1例も好酸球性腹膜炎の発症を認めていない. 好酸球性腹膜炎は自然治癒し腹膜機能も低下させないので, 腹膜炎発症時には白血球分画も測定し, 本疾患の診断をつけることが大切であり, 抗生剤治療は無意味である.
著者
小口 悟寛 袖山 健 清澤 研道 古田 精市 野村 洋 小口 寿夫 宮坂 誠 矢崎 国彦 笠原 寛 床尾 万寿雄 小岩井 俊彦 徳永 真一 田中 栄司
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.689-693, 1993

透析業務中の針刺傷事故で, HCV抗体陽性の透析患者血に暴露した後, C型急性肝炎を発症し, その後慢性肝炎へ進展したの2症例を経験した. 2例とも, HCV抗体陽性で肝機能が正常の透析患者に使用した注射針を誤って手掌に穿刺した. 1例は針事故後1か月後より全身倦怠感の出現とともにトランスアミナーゼの上昇を認め, 6か月後にはHCV抗体が陽性となった. 他の1例は特に自覚症状の出現はなく, 針事故後4か月目にトランスアミナーゼの上昇を認め, 6か月後にHCV抗体が陽性となった. 2例とも, 肝機能の悪化と改善を繰り返し, 針事故後, 9か月目と15か月目の肝生検による肝組織学的検査では, chronic persistent hepatitisの所見を示した. 2例ともにβ-インターフェロンの投与によりトランスアミナーゼは正常化した.
著者
小野 慶治 柏木 征三郎
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.189-193, 1990

免疫不全状態にある透析患者のB型肝炎ワクチンに対する不良な抗体産生が従来からの筋注法を皮内接種に変える事によって改善されるのか検討した。<br>HBs抗原・抗体陰性の透析患者35名を三群に分け, 第I群 (14名) には組換えワクチン5μgを隔週に皮内接種し, 第II群 (13名) はワクチン2.5μgを隔週に5回, 続いて毎週皮内に接種した. 第III群の残り8例は10μgを4週毎に三角筋に5回注射し, 続いて5μgを隔週に皮内注射した. これらのワクチンは抗体陽転化まで与えた.<br>第III群での筋肉注射後の抗体産生はきわめて悪く, 16週目でわずか37.5%の抗体陽性率しか得られなかった. しかし, 皮内接種へ変更後抗体陽転率は著しく高くなった. 一方ワクチン5μgが皮内接種された第I群の成績は良く, 更に第II群でも2.5μgの投与間隔を半分に短縮することにより良好な抗体産生が得られた. つまり. 少量のワクチンを皮内に接種する事により対象の透析患者全例で26週 (6か月) 以内に抗体陽転が認められた. これは透析患者に対するB型肝炎ワクチン接種後100%の抗体産生を得た世界最初の報告である.<br>しかし, 最高抗体値は全般に低く予防効果を示す10mIU/m<i>l</i>よりは高いものの, ワクチン接種中止後抗体価の低下してくる例もあり, 今後, 経時的に抗体価を測定しワクチンを再接種する配慮も必要である.