- 著者
-
山本 誠司
- 出版者
- 松江工業高等専門学校
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2014-04-01
1. 研究目的日本刀の製法は「焼入れ」が重要な工程の一部となっている。刀は硬さと靭性の両方を兼ね備えるように工夫されており、強度および匂い口に連なる刃紋は美術工芸品を志向する現代には特に重要である。実際の焼入れでは、地鉄の性質、土置、焼入れ温度等の要素が複雑に影響している。本研究では、鉧から作った鋼および市販の炭素鋼ならびに炭素工具鋼を用い、土置を施して焼入れ冷却速度の影響を調べる。また、小型炉を用いた「たたら」を行い「ものづくり教育」の一環とする。2. 研究方法たたら炉は炉内寸法を390×520mm高さ1100mmとし外側は耐火煉瓦を積み上げ、炉内は600mmまでV字型に釜土を張付けて製作し、浜砂鉄を磁気選鉱により採取して供した。たたらで製作した鉧は鍛錬後厚さ4㎜の鋼に加工した。比較のため市販のS55CおよびSK85(A)を用い焼入れ温度760℃、800℃、830℃と変え、加熱保持時間15minで行い、焼戻しは150℃×1hrの熱処理を行った。また、冷却速度の影響を調べるため厚さを変え土置をした。試料は研磨した後に5%ナイタールで腐食したのち金属顕微鏡で観察し、硬さはマイクロビッカース硬度計を用いた。3. 研究結果および考察2回の操業を行った結果それぞれ30kgの鉧を作ることができた。市販の鋼材およびたたらで製作した鋼を熱処理した結果、焼入温度を高くすると硬度は高くなり、土置した場合は厚さにより硬度が下がった。これは薄く土置した場合には組織はマルテンサイトとなり、厚くすると冷却速度が遅くなりトルースタイトになるためである。日本刀では炭素量が異なる材料の組合せ、冷却速度による組織の違いにより刃紋を作り美術工芸品としての価値を高めることができると思われる。たたら製鉄を行うことで「ものづくり」の歴史、金属学を学ぶことができた。(772字)