- 著者
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山田 周二
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会秋季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.119, 2010 (Released:2010-11-22)
本研究は,飲料自動販売機と地蔵堂とをとりあげ,小・中学校の社会科で行われる身近な地域学習において,児童・生徒が飲料自動販売機や地蔵堂の分布を調べることによって,どのようなことが学習できるのか,そしてそのような学習はどのような地域で効果的であるか,をあきらかにすることを目的とした. 大阪府のほぼ中心部に位置する大阪市天王寺区と,奈良県との府県境である郊外に位置する柏原市,それらの中間に位置する大阪市平野区の3市区を対象として,路上にみられるすべての飲料自動販売機と地蔵堂を地図化した.
飲料自動販売機は,調査対象とした3市区に合計3932台あり,1小学校区あたり平均96台あった.いずれの市区においても,駅の周辺を中心とした商業・業務用地に多くみられる傾向があり,小学校区ごとにみた自動販売機の密度と商業・業務用地の割合との間には有意な相関がみられた(n=41,r=0.85,p<0.001).市区単位でみると,分布の偏りが明瞭にみられるものの,校区内といった狭い範囲では,明瞭な分布の傾向が読み取れる場合とそうでない場合とがあった.商業・業務用地と住宅地が余り混在することなく分かれて分布する地域では,分布の集中を容易に読み取れることが分かった.このような地域では,校区全体で野外調査を行い,自動販売機の分布図を作成することで,分布の特徴を読み取るといった地理的技能を養うだけでなく,商業・業務用地のような人が集まるところには自動販売機が設置されていることや,校区の地理的な特徴を学習することができる.一方,商業・業務用地が校区全体に広がっていたり,点在したりしている場合には,分布の傾向が容易には読み取れないため,自動販売機の分布からは効果的な学習は望めないだろう.
地蔵堂の分布は,過去の市街地と密接に関係しており,1948年以前の市街地とその周辺に多くみられることが分かった.地蔵堂は,3市区合計で185みられたが,そのうちの59%が1908年以前に市街地であった地域にあり,1948年までに市街化した地域のものも含めると79%に達する.したがって,戦前から市街化していた地域を含む小学校区においては,地蔵堂の分布を調べ,その分布とかつての市街地の分布を表す地図とを重ねることによって,分布の一致を読み取るといった地理的技能を養うことができ,また,その地域の土地利用の変化を学習することができる.ただし,かつての市街地の範囲と小学校区とは必ずしも一致しないため,校区の境界にとらわれずに,かつての市街地を包含する範囲に調査地域を設定した方が効果的な学習ができるであろう