著者
山田 隆敏
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.36, pp.21-35, 2008-03

Catherine の誇り高くて激しい気性、それに引き換え、Heathcliffの飽くことなき復讐への執念、それら両者の激しき激情・怨念が、この作品の全編に亘って流されている。まさに天高く舞い上がる「嵐」のように、彼らの根源的な愛の権化に起因する残忍さ・エゴイズム、そして不条理的な愚かしさが、全編にあまねく表現されている。善と悪(愛と憎しみ)の相克的な所業が展開され、人間同士のどうしようもない性(さが)の嵐が繰り広げられているのである。このような精神面の矛盾さと、Heathに代表される陰気な自然現象が、一体化されて内容に独特な陰影を与えている。21世紀の今日、この独特な陰影を帯びた作品内容は、我々に力強い衝撃を与え、人間としての生き方そのものについて思考させずにはいられない作品に仕上がっている。また、時間と空間を超越した普遍性に永遠性を与える作品構成に仕上がっているのである。異常な復讐心を有する主人公Heathcliffを登場させることによって、一般的な愛とか執念が、どのように「憎しみ」に転化するかを述べてみたい。さらに、「憎しみ」が愛のジャンルの転嫁であるかを、時代性を問わない森羅万象の普遍的観念論として述べてみたい。
著者
山田 隆敏
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.17, pp.p1-18, 1989-03

20世紀最大の作品と絶賛される詩劇TheDynasts(諸王,1903~8)で代表される如く,読書好きな母の影響を受けてか,はやくから詩の創作活動を続けてきたThomas Hardyは,経済的な諸事情も加わり,とりあえず小説家として文壇にデビューすることになった.最初に書き上げた小説The Poor and the Lady (貧乏人と淑女,1867)は単純なPlotでありすぎると,Macmillan社から出版拒否を受ける.つづいてこの原稿を持ち込んだChapman and Ha11 社編集顧問のJohn Morley(1838~1923),George Meredith(1828~1909)の忠告に従って,次作Desperate Remedies(荒療治,1871)を自費出版した.こんどは複雑すぎるPlotであって,意外なる挿話と多分に燗情的場面が多すぎると,読者から予想外の酷評を受ける.勇気をくじかれたが,創作意欲をながく抑えることは出来ず,翌年Under the Greenwood Tree (緑樹の蔭で,1872)を出版する.Timsley社からの匿名出版であったけれども,従来の小説の観念を払拭し彼独自の世界を展開した結果,この作品は好評を得るに至り,事実上の処女作小説となった.
著者
市川 良哉 遠藤 隆 堤 博美 東山 弘子 高見 茂 大町 公 山田 隆敏 荒川 茂則 武久 文代 高橋 光雄 藤原 剛 田井 康雄 田中 良 田原 武彦
出版者
奈良大学総合研究所
雑誌
総合研究所所報 (ISSN:09192999)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.3-59, 1994-02

国民が生涯にわたって学習する機会を求めている現状にてらして、中央教育審議会は平成2年1月30日「生涯学習の基盤整備について」答申し、同年6月29日に「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」が施行され、新しい「大学設置基準」(平成3.7.1施行)もそれを踏まえている。こうした流れの中に、高等教育機関が地域の人びとの生涯学習推進に寄与することに強い期待を寄せているところに時代の特徴を見る。翻っていえば、これは高等教育機関としての大学は地域社会へ自らをどう開放するのか、どのような貢献が可能であるのかにかかわる問題であり、大学は時代の要求にどう答えるのかを問われているのである。本研究は本学が高度先端科学技術集積都市が形成されつつある「関西学術文化研究都市(以下学研都市)圏に位置するという立地条件の下で、地域レベルでの生涯学習支援システムを構築する際に担う本学の役割と課題を、総合的に検討するための基礎データを得るために調査を多面的に実施することに目的をおいている。