著者
松山 睦美 蔵重 智美 七條 和子 岡市 協生 平川 宏 三浦 史郎 中島 正洋
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.257, 2010 (Released:2010-12-01)

小児期の甲状腺濾胞上皮は放射線に高感受性で、放射線は甲状腺発がんの危険因子である。一方、被爆者甲状腺癌の大部分は成人期被曝であるが、成人期での放射線外照射の発がんへの影響は一般的に低いとみなされる。ラットでは、成熟甲状腺濾胞上皮に放射線誘発DNA損傷応答とFISH法による転座型遺伝子異常が観察される。本研究では、甲状腺濾胞上皮の放射線感受性に対する年齢の影響を評価するために、放射線外照射後のラット甲状腺の組織変化とp53経路を中心としたDNA損傷応答分子の発現を経時的に解析した。成熟(7~9週齢)雄性Wistarラットに0.1 Gy, 8 GyのX線を外照射後24時間まで、甲状腺を経時的に摘出し解析に供した。対照として放射線高感受性臓器である胸腺を同時に解析した。照射前甲状腺濾胞上皮に増殖マーカーKi-67陽性細胞は2%であり、TUNEL法によって検出される細胞死は照射後甲状腺濾胞上皮細胞に誘導されなかった。一方、未熟(4週齢)ラットでは、照射前甲状腺濾胞上皮のKi-67陽性細胞は10%であり、照射後経時的に減少(3時間5%, 24時間2%)し、8Gy照射後6時間でTUNEL陽性の細胞死が検出された。胸腺では照射後多数のリンパ球にTUNEL陽性細胞死が観察された。Western blot法では、成熟甲状腺で照射後3時間よりp53, Ser15リン酸化p53の発現増加が見られたが、p21, Puma, Cleaved caspase-3発現は有意な変化を認めなかった。DNA二重鎖切断(DSB)後の修復系である非相同末端結合(NHEJ)に機能するKu70は照射後に発現が増加した。成熟甲状腺は、未熟甲状腺や胸腺と異なり、放射線照射後G1期停止や細胞死が誘導されず、DNA DSBはNHEJ により修復されていて、その後の発がん過程に影響している可能性がある。
著者
岡市 協生 奥村 寛 井原 誠
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

いくつかの突然変異したp53遺伝子を人工的に作成し、Saos-2細胞(p53遺伝子が欠失している骨肉腫細胞)に導入した。また、コントロールとして正常p53遺伝子をLacSwitchの系を用いて細胞に導入した。これらのp53遺伝子導入細胞の放射線感受性を測定したところ、正常p53遺伝子導入細胞では、放射線感受性が高くなった。また、143A、175H、273H変異細胞では、放射線抵抗性であったが、123A変異細胞では、放射線感受性が高くなった。このことより、p53遺伝子の変異部位によって放射線感受性が異なることが分かった。また、放射線に感受性であった正常p53細胞と123A変異細胞では、放射線照射後のアポトーシスの誘導が観察されたが、放射線に抵抗性であった143A、175H、273H変異細胞では見られなかった。さらに、ウエスタンブロット法でp53を調べると、正常p53細胞と123A変異細胞において放射線によるp53の蓄積が見られが、143A、175H、273H変異細胞では、放射線によるp53の蓄積が見られなかった。そこで、正常p53細胞と123A変異細胞で、Waf-1の誘導を調べたところ正常p53細胞ではWaf-1の誘導が観察されたが、123A変異細胞では見られなかった。また、123A変異細胞では、G1停止が見られなかった。しかし、BaxとMDM2の誘導とBcl-2の減少は正常p53細胞と123A変異細胞共に観察された。また123A変異細胞ではアポトーシスが早期に起こったがこの時期に対応してFasの誘導が見られた。このことより、Waf-1はFasの誘導を制御しているのではないかと考えられた。
著者
松田 尚樹 工藤 崇 中山 守雄 井原 誠 岡市 協生 吉田 正博
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

放射性ヨウ素による内部被ばくの影響を検出する新しい評価系の開発をin vitro、in vivoの両面から試み、その結果を住民とのリスクコミュニケーションを通して不安緩和に随時応用した。In vitroではI-131を取り込んだラット甲状腺培養細胞の生存率、DNA損傷、シグナル系が急性照射とは異なる応答を示す結果を得た。In vivoでは、I-131を用いるSPECTの実現可能性は確認されたものの、内部被ばく検出とその健康リスク評価については、さらに複数の核種、プローブを駆使して開発を進める必要が残された。このような実験結果は、リスクコミュニケーションを進める上での重要な素材となった。