著者
福士 勇人 岡田 泰昌
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.31-35, 2020 (Released:2020-04-02)
参考文献数
27

体内酸素レベルの恒常性維持は,生体の生命維持に不可欠であるが,体内酸素レベルの恒常性維持には呼吸調節機構,特に低酸素ストレスに対する呼吸応答が重要な役割を果たしている.低酸素ストレスに対する呼吸応答の機序は,従来,低酸素センサーとしての末梢化学受容体,および下部脳幹内で呼吸リズム・パターン形成を担うニューロンの活動を中心に考えられてきた.一方で近年,グリア細胞,なかでもアストロサイトが,低酸素センサーとして働くなど低酸素呼吸応答においても重要な役割を担っていることが明らかにされてきている.本稿では低酸素ストレスに対する呼吸応答について,アストロサイトの役割に注目しつつ最近の報告を中心に述べる.
著者
越久 仁敬 岡田 泰昌 平田 豊 池谷 裕二
出版者
兵庫医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

吸息活動は、延髄内のpre-Botzingercomplex(preBotC)という場所で起こる。従来の説では、呼吸リズムはpreBotCの神経細胞(ニューロン)が作り出しており、脳のもう一つの主要な構成細胞であるグリア細胞は、ニューロン周囲の細胞外環境を維持する程度の役割しか演じていないと考えられていた。本研究において、我々は、吸息時に活動するニューロンに先行して活動を開始するアストロサイト(グリア細胞の一種)を発見した。ニューロン活動のみを抑えるフグ毒のテトロドトキシンを投与すると、ニューロン活動および呼吸神経出力は消失したが、これらのアストロサイトの周期的な自発活動は残った。さらに、光を照射すると細胞を活性化させるイオンチャネルであるチャネルロドプシン2を、アストロサイトにのみ発現させた遺伝子改変マウスを用い、preBotC領域のアストロサイトを光照射で興奮させると、吸息性ニューロンの活動を惹起させることができた。これらの結果は、アストロサイトがpreBotC領域において呼吸リズム形成に積極的に関与していることを示唆している。
著者
石黒 真木夫 三分一 史和 越久 仁敬 岡田 泰昌
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

イメージングデータの事前処理として,画像強度の不均性やモーションアーチファクトなどの実用的な補正方法の開発を行った。そして,イメージングデータの分散や時間依存相互相関などの統計量マップを用いて脳幹内の呼吸活動生成部位におけるニューロンとアストロサイトを効率的に識別する方法を確立した。生理学的には遅い周期で活動し,ニューロンネットワークと弱く結合するアストロサイトネットワークの存在を示唆する結果や,呼吸バースト毎に活性化するニューロンの組み合わせが異なるという知見を得ることが出来,今後のニューロンネットワークの数理モデリング研究に新たなパラダイムをもたらす可能性のある成果を得ることが出来た。
著者
橋本 健史 岡田 泰昌
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

【目的】:下肢組織をin vitroで保存するための条件を発見し、電気刺激実験系を確立することを本研究の目的とした。【対象と方法】対象は、幼若ラット群(9日齢)5例、若齢ラット群(16日齢)5例、成熟ラット群(生後3ヶ月以上)3例とした。麻酔下に開胸および開腹を行い、大動脈経由で人工的に下肢を灌流・維持できるようにした。自発呼吸活動をモニターした。標本を22℃〜36℃の様々な温度条件下で、至適灌流条件を検索するとともに、灌流液を室内気平衡条件下と高酸素平衡条件下とした場合の標本生存性を比較検討した。成熟ラット群については、腸骨動脈内へカテーテルを挿入し、下肢のみの人工的灌流を行うとともに、至適灌流条件についての検討も行った。吸引電極を用いて足部の各種の遠心性末梢神経の電気刺激を行うことによりin vitroにおいて様々な足運動を再現させることを試みた。【結果】幼若ラット群、若齢ラット群では、適当な条件下では長時間にわたって神経活動を維持・確認しえた。灌流温度としては28-32℃が適していると思われた。また、灌流液組成としては、ブドウ糖30mM,塩化ナトリウム126mM,塩化カリウム5mM、重炭酸ナトリウム26mM、硫酸マグネシウム2mM、塩化カルシウム2mM,燐酸二水素ナトリワム1mMとしそれを、それを酸素95%,二酸化炭素5%で平衡させた条件(pH=7.4)で、満足しうる標本維持結果を得ることができた。【結論】今回の結果から、28-32℃の灌流温度と一定の灌流液組成および至適pH=7.4で摘出下肢組織標本を経動脈的に灌流・維持することにより、神経の電気刺激にも十分、反応するin vitro実験系を確立することができた。これらの成果は、第30回日本足の外科学会と第3回国際足の外科学会で発表予定である。