著者
岩井 宏治
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.186-190, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
13

慢性呼吸器疾患患者における身体活動は予後に影響するため,いかにして身体活動を維持・改善させるかは重要な臨床課題である.我々は,身体活動量と運動耐容能,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30テスト)には相互的な関係性が成立すると考え,運動耐容能に見合った身体活動量推定の可能性について検討した.結果,3つの因子にはそれぞれ関連があり,椅子1つあれば簡便に評価可能なCS-30テストから身体活動量が推定できる重回帰式(2.760-1.387×mMRC息切れスケール+288×CS-30テスト)が得られた.次に心機能に着目し,慢性閉塞性肺疾患患者(COPD)患者の運動耐容能と左室拡張障害,右室収縮期圧との関連性を検討した.結果,左室拡張障害の有無で運動耐容能に有意差は認めなかったが,心負荷を示唆する所見とは有意差を認めた.また,右室収縮期圧の上昇は,労作時酸素飽和度の減少,心拍数の上昇を惹起し,運動耐容能に関連する可能性が示唆された.
著者
久郷 真人 谷口 匡史 渋川 武志 岩井 宏治 平岩 康之 前川 昭次 阪上 芳男 今井 晋二
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.4, 2011

【はじめに】<BR> 皮膚筋炎(delmatomyositis:DM)は対称性の四肢近位筋・頸部屈筋の筋力低下、筋痛を主症状とし、Gottron兆候やヘリオトープ疹などの特徴的な皮膚症状を伴う慢性炎症性筋疾患のひとつである。臨床検査では血清筋逸脱酵素(creatine kinase;CK)やLDH、aldorase、尿中クレアチン排泄量が異常高値を示す。治療としては副腎皮質ステロイドが第一選択薬とされるが、長期投与により満月様顔貌、行動変化、糖耐能異常、骨密度低下、ステロイドミオパチー等の多彩な副作用を生じることも多い。また、近年運動療法の適応についても多数報告されており、その効果が期待されている。<BR>今回、皮膚筋炎治療中にステロイドミオパチーを呈した症例を経験したので報告する。<BR>【症例紹介および理学療法評価】<BR> 症例は43歳男性。2010年12月頃より右上腕部に筋肉痛・潰瘍出現、顔・頸部・対側上腕に皮疹が広がり、皮膚筋炎を疑われ精査目的にて当院入院となる。入院後皮膚生検・筋生検にて皮膚筋炎と診断され、ステロイド療法(prednisolone;PSL,60mg/day)が開始される。最大PSL120mg/dayまで漸増するもCK値低下遅延し免疫グロブリン療法(IVIG)施行。またPSL120mg/dayに増量後、副作用と思われる両下腿浮腫、満月様顔貌、および下肢優位のステロイドミオパチーと考えられる筋力低下の進行を認めたためCK値の低下に伴いPSLを漸減。<BR> 入院後15病日目より理学療法開始。開始当初よりCK高値(約6000IU/L)であり、易疲労性、筋痛、脱力感著明。筋力はMMTにて股関節周囲筋2~3レベル。HHD(OG技研GT300)を用いた測定では膝関節伸展筋力右0.96Nm/kg、左0.83Nm/kg、股関節屈曲筋力右0.3Nm/kg、左0.28Nm/kgであった。立ち上がり動作は登攀性起立様、歩行は大殿筋歩行を呈していた。6分間歩行は141mであった。また体組成分析(Paroma-tech社X-scan)を用いた骨格筋量/体重比では34.4%であった。理学療法では下肢・体幹筋の筋力増強を目的に、自動介助運動から開始。CK値の低下とともに修正Borg scaleを利用し自覚的疲労度3~5の範囲の耐えうる範囲で自動運動、抵抗運動と負荷量を設定し、翌日の疲労に応じて調節しながら行った。<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき、症例には今回の発表の趣旨を十分説明した上で同意を得た。<BR>【結果】<BR> 理学療法介入後4ヶ月時点では、CK値は116UI/Lまで低下。PSLは25mg/dayまで漸減し、筋痛は消失するも易疲労性残存。筋力はHHDにて膝関節伸展筋力が右0.92Nm/kg、左0.78Nm/kg、股関節屈曲右0.69Nm/kg、左0.71Nm/kgであった。立ち上がりは上肢を用いずに可能、歩行はロフストランド杖にてすり足、大殿筋歩行。6分間歩行は180mに増加した。体組成分析を用いた骨格筋量/体重比では29.4%であった。<BR>【考察】<BR> 今回、皮膚筋炎治療中にステロイドミオパチーを合併した症例を経験した。ステロイドミオパチーは蛋白の分解促進と合成抑制が起こり、特にtype_II_b線維の選択的萎縮を招くとされ、近位筋を中心とした筋力低下により難治例も多い。<BR> ステロイドミオパチーに対する治療は主にステロイドの減量である。一方で、近年ステロイドミオパチーに伴う筋力低下、筋萎縮の進行に対して運動療法は予防および治療手段として有効であるとされている。また、皮膚筋炎の場合、急激なステロイドの減量は筋炎症状の再燃を招き易く、これらの相反する治療方法から厳重な投与量管理および負荷量の設定が重要であるとされる。本症例において、CK値の正常化後も有意な上昇もなくステロイド減量が可能となり、筋力、骨格筋量の著明な低下を最小限に抑えられたことから、今回使用した修正Borg Scaleを用いた運動負荷量の設定方法および継続的な運動療法が有用であると考えられた。また、市川はステロイド減量による効果として10~30mg/dayに減量してから1~4ヶ月で筋力回復が認められると報告しており、本症例においては長期間の経過により廃用性の筋力低下も合併していることが考えられるため、今後も長期的な理学療法の介入が必要であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 皮膚筋炎およびステロイドミオパチーに対する理学療法において筋力低下の病態を考慮した上で、早期からの介入により運動機能の維持、向上に努め、長期的な理学療法の介入が必要であると考える。また運動療法効果についての報告は少なく、今後さらなる症例・研究報告が望まれる。<BR>
著者
岩井 宏治 西島 聡 棈松 範光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0840, 2005

【はじめに】障害者ゴルフは関東圏では普及しつつあるが関西圏ではまだまだ認知度が低いスポーツである。また片麻痺クラスにおいては片手打ちが主流となっている。今回四肢麻痺という障害でありながらオリジナルリストバンドの作成により両手打ちが可能となった障害者ゴルファーへの関わりを経験したので報告します。<BR>【患者紹介】氏名:H・N 診断名:左椎骨動脈解離 ワレンベルグ症候群 障害名:四肢麻痺<BR>【理学療法評価】BRS:右上肢、手指、下肢V 左上肢II、手指III、下肢IV 表在感覚:右上下肢中等度鈍磨 左上肢脱失 下肢重度鈍磨 深部感覚:右上肢中等度鈍磨 下肢軽度鈍磨 左上下肢脱失 自律神経障害:左顔瞼下垂、発汗異常、耳鳴り、眩暈 握力:右19kg 左4.5kg 歩行:左Knee Brace装着にて1本杖歩行自立 <BR>【ゴルフ実施における問題点】(1)左手でグリップできるか(2)上肢に過度な負担をかけないよう腰の回転でスイングできるか(3)スイングに際し動揺しないだけの下肢支持性が獲得できるか(4)感覚障害が重度であるため微細な力加減が調節できるか<BR>【問題点に対する関わりと対応】(1)左手でのグリップ、片手スイング不可。一人でも付け外しが可能で固定性が良好という点に着目しオリジナルリストバンド作成。右手の握力も低下しており、付け外し部分の輪は大きく設定し、リスト部分、手背部と固定することで安定性強化を図る(2)スイングにおける筋活動として脊柱起立筋、腹斜筋、腹筋、大殿筋が重要であり、これら筋群の強化を目的とした(3)弛緩性四肢麻痺を呈しており、CKCトレーニングにおいても筋緊張亢進の所見なく、CKCトレーニングを積極的に導入。さらに左下肢の支持性低下に対しては支柱付き軟性装具作成し、ニーパッドにて安定性向上を図る。(4)認知運動療法、反復練習による残存感覚の再教育を実施。<BR>【今後の課題】(1)腰痛の評価。腰痛はプロで約50%、アマチュアで約35%に認められると言われる。(2)肩関節痛の評価。左肩はクラブヘッドがボールにあたる瞬間や、地面と衝突する瞬間に衝撃が大きく、またスイングでは肩を大きく回すため肩関節周囲筋への負担が大きい。そのため痛みが生じやすいとされる。本症例においてはさらに上肢は弛緩性麻痺を呈しており、負荷がより大きいと予測される。(3)自律神経症状の状態の把握。プレーを継続する上で自律神経症状の影響は大きい。耳鳴りが強くなれば集中力の持続は難しく、発汗異常は体調管理において重要である。気温の変化や疲労による影響を捉え、適切な指導を行う必要がある。
著者
藤田 唯 岩井 宏治 有吉 直弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿,低アルブミン血症を呈する腎臓疾患の総称である。近年,慢性腎臓病(CKD)患者に対する持続的な運動はADLやQOLを向上させ生命予後を改善させることが報告されているが,ネフローゼ症候群における運動療法の効果についての報告は少ない。ネフローゼ症候群診療ガイドライン2014においても,運動を制限することは推奨されないとされる程度で十分なエビデンスは示されていないのが現状である。本研究では,中等量の副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)に抵抗性を示した高齢ネフローゼ症候群2症例に対し運動療法介入における有効性と安全性について検討した。【方法】初発のネフローゼ症候群により入院加療となった80歳代男性2症例を対象とした。2症例に対して理学療法(PT)開始時に心肺運動負荷試験(CPX)を実施した。CPXは医師立ち会いのもと,下肢エルゴメーター,呼気ガス分析装置を使用しRamp10で実施した。入院中の理学療法は,初期評価で測定した嫌気性代謝閾値(AT)を参考に週5回,有酸素運動とレジスタンストレーニングを中心に実施した。PT開始後4週間目に再度CPXを行い,運動耐容能の再評価を行った。腎機能は,生化学検査からeGFR,Cr,UN,尿検査より尿蛋白の値をカルテより調査した。症例1は入院後25日目よりPTを開始した。PT開始時腎機能はeGFR49.5,Cr1.08mg/dl,UN23.5mg/dl,尿蛋白9.72g/gCrであり,プレドニン20mg/day,ブレディニン150mg内服中であった。症例2は入院後15日目よりPT開始した。PT開始時腎機能はeGFR58.1,Cr0.95mg/dl,UN12.3mg/dl,尿蛋白10.48g/gCrであり,プレドニン30mg/day内服中であった。2症例ともステロイド開始後,尿蛋白は目標値まで減少せず,主治医により治療抵抗性ありと判断された。【結果】症例1のATは初期評価2.64METsから再評価3.23METsへ向上した。PT介入期間中の腎機能はeGFR44.5~52.1,Cr1.03~1.19mg/dl,UN21.2~24.2mg/dl,尿蛋白は8.29~11.78 g/gCrであり悪化は認めなかった。症例2のATは初期評価2.28METsから再評価2.21METsと変化しなかった。腎機能はeGFR54.4~69.2,Cr0.81~1.01 mg/dl,UN12.3~21.3mg/dl,尿蛋白は4.18~6.58 g/gCrであり悪化は認めなかった。PT介入期間中,2症例ともに腎機能悪化は認めず運動耐容能は維持または向上を認めた。【考察】近年,CKD患者に対する中等度の運動は,尿蛋白や腎機能へ影響を与えないことは多くの先行報告において示されており,ネフローゼ症候群における運動療法も,一般的にはCKD患者の指標に準じて行うことが勧められている。しかし,ネフローゼ症候群の治療抵抗性患者に対する運動療法の効果や腎機能への影響についての検討はなされていない。本研究で示した2症例はともにステロイド治療に対して抵抗性を示し,尿蛋白減少には至らなかった。しかし,腎機能についてはPT期間中,eGFR,Cr,UNともに悪化をすることなく経過した。CKD患者に対する先行報告と同様に,高齢ネフローゼ症候群患者に対しても,ATレベルでの運動療法は腎機能を悪化させないことが示唆された。また,運動耐容能については症例1では向上を認めたが症例2では維持レベルであった。ステロイド治療抵抗性を示す高齢ネフローゼ症候群においても,運動療法介入により運動耐容能が維持・改善する可能性が示唆された。今回,運動耐容能が改善した症例1と維持レベルにとどまった症例2ではリハビリ時間以外の活動量に差があったことが一要因と考えられるが,今後症例数を増やし検討する必要があると考える。ステロイドに抵抗性を示す高齢のネフローゼ症候群に対する適切な運動強度での運動は,腎機能を悪化させることなく運動耐容能を維持・向上させる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】中等量のステロイドに抵抗性を示す高齢ネフローゼ症候群においても,運動療法は腎機能の悪化に影響せず,運動耐容能を維持・向上できる可能性が示唆された。