著者
大沼 剛志 金高 秀和 岩本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.241-249, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
27
被引用文献数
5 3

目的:高齢者総合的機能評価(CGA)は高齢者医療・介護に欠かせないものの,評価には多くの時間を必要とする.このため,CGA短縮版「Dr. SUPERMAN」の開発を試みたが,CGAの要素である認知機能の評価には時間的な制約で認知症スクリーニングテストであるMMSE(Mini-mental state examination)をそのまま用いることはできない.そこで,MMSEに先行する認知機能の評価課題を策定する目的で本研究を行った.方法:種々の疾患で外来通院中の高齢者90名(平均年齢82.5歳,男40名)を対象としてMMSE各ドメイン(1「時間の見当識」,2「場所の見当識」,3「即時記憶」,4「計算:注意力」,5「遅延再生」,6「言語機能」,7「視空間認知・構成機能」)およびエピソード記憶課題「昨日の夕食のおかずは何でしたか?」を尋ねた.MMSE総合得点から正常(24点以上),低下(23点以下)に分類し,これをゴールドスタンダードとして各ドメイン,エピソード記憶課題およびその組合せの感度,特異度,陽性反応適中率を求め,最も妥当と思われる課題の組合せを策定した.次いで,策定された組合せを高齢者50名に用いて評価時間,検者間信頼度を検討した.結果:MMSE総合得点は10~30点に分布し,正常は42名,低下は48名あった.各ドメインの感度,特異度,陽性反応適中率は,ドメイン1「時間の見当識」が68.8%,87.5%,78.6%,ドメイン2「場所の見当識」が85.4%,85.7%,87.2%,ドメイン4「計算」が89.6%,54.8%,65.2%,ドメイン5「遅延再生」が89.6%,26.2%,58.1%,エピソード記憶課題が66.7%,76.2%,76.2%であった.各課題の性質を考慮して組合せの簡便短縮化を図ると,エピソード記憶課題とドメイン1,4の課題「今年は何年」,「100から7の引き算を2回」の組合せでいずれかに異常があった場合の感度,特異度,陽性反応適中率は各々93.8%,71.4%,78.9%と高かった.また,「Dr. SUPERMAN」の中で計測された評価時間は32~55秒,評価者間一致係数κは0.861であった.結論:MMSEに先行する認知機能の評価課題には「昨日の夕食のおかずは何でしたか?」,「今年は何年」,「100から7の引き算を2回」の組合せが妥当であり,いずれかに誤・無答があればMMSEで評価すべきである.
著者
岩本 俊彦
出版者
東京情報大学
雑誌
東京情報大学研究論集 (ISSN:13432001)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.71-86, 2012-09-30

ツーリズム・マーケティングは、ツーリズムの活性化のためにマーケティングのコンセプトや政策、戦略を援用するものである。ツーリズムの目的地は、地域の歴史的背景、自然環境等に依拠する個性を保持しており、個性をツーリスティック・リソーシズとして活用している。他方で、わが国ではリスク分散を企図して、差異化とは反対に、総合的な施設の配置や総合的なパッケージを通じたツーリズムの標準化、画一化が進行してきた。パッケージ・ツアー、デスティネーションにブランドを付与して、ニュー・ツーリズムを導入しながら業容拡大を図るツーリズム産業の差異化政策の構造の複合性に着目する。そのうえで、ツーリズム産業の現在の課題と克服を通じた活性化のための差異化の態様を論じていく。
著者
羽生 春夫 佐藤 友彦 赤井 知高 酒井 稔 高崎 朗 岩本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.463-469, 2007 (Released:2007-09-06)
参考文献数
27
被引用文献数
4 7

目的:老年期の認知症患者について記憶障害に対する病識の程度や有無を比較検討した.方法:軽症のアルツハイマー病(AD)63例,レビー小体型認知症(DLB)17例,血管性認知症(VaD)14例および軽度認知障害(MCI)56例を対象とし,記憶障害によって日常生活上起こりうる問題点を標準化された質問票(日本版生活健忘チェックリスト,EMC)を用いて,患者と介護者から同時に評価し,両者の差から病識の程度や有無を判定した.結果:各群で患者EMCスコアに相違を認めなかったが,介護者EMCスコアはMCI群,DLB群,VaD群と比べてAD群で有意に高く,病識低下度(介護者EMCと患者EMCのスコア差)はAD群で有意に高くなった.有意な認知機能障害を認めない老年者コントロールの病識低下度の平均+2標準偏差を超えるものを病識低下ありと定義すると,AD群の65%,MCI群の34%,DLB群の6%,VaD群の36%が該当し,AD群が最も多く,DLB群は最も少なかった.AD群で介護者が配偶者による場合と配偶者以外による場合に分けて比較したが,両群で介護者EMCスコアに相違を認めなかった.結論:軽症のADやMCI患者の一部でさえも記憶障害に対する病識の低下を示す場合が少なくなく,有効かつ安全な治療や介護を行う上で留意する必要があると考えられた.一方,その他の認知症,特にDLBでは明らかな病識低下例を示す割合が少なく,ADとは異なる病態の相違が示唆されたのと同時に,この記憶障害に対する病識の相違が鑑別点の一つとして活用できる可能性が示された.
著者
木村 明裕 岩本 俊彦
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.250-258, 2009
被引用文献数
1

<b>目的</b>:高齢者における急性消化管出血の問題点を明らかにすること.<b>方法</b>:下血,吐血,急性貧血症状で入院した急性消化管出血の高齢者(連続85例)を対象として緊急内視鏡検査および臨床像に基づき,その出血源,出血原因を解析した.<b>結果</b>:対象は年齢66∼95歳,男40例で,78例が慢性期脳梗塞,骨·関節疾患,心房細動,認知症などの基礎疾患を複数有し,潰瘍の既往も10例あった.75例には何らかの薬剤(平均5.3種類の薬剤)が処方されていた.初発症状は下血49例,吐血18例,急性貧血症状18例で,得られた緊急内視鏡所見(n=83)より出血源は胃·十二指腸潰瘍,食道炎·AGML,大腸憩室,癌が各々43.4%,13.2%,16.9%,16.9%あった.全体の64.7%にはNSAIDsもしくは抗血栓薬が処方されていた.特に,低用量aspirin,NSAIDsは潰瘍例の三分の二を占め,血栓症の予防や骨·関節疾患,感冒などの対症療法に用いられていた.一方,抗血栓薬は長期に処方され,出血源は多彩であった.その他,steroid,抗認知症薬,SSRI,bisphosphonateの処方例,PPI併用例は各々5例,9例,3例,3例,8例あったが,いずれもNSAIDsや抗血栓薬との併用例も少なくなかった.消化管出血のために抗血栓薬を中断した38例のうちの3例に脳梗塞が発症した.<b>結論</b>:高齢者では基礎疾患に対して複数の治療·予防薬が長期に処方されるようになり,これにNSAIDsが上乗せされる多剤服用例で消化管出血が多かった.この点で,NSAIDsや抗血栓薬の処方は既往歴,薬物歴,特に,今後の高齢者医療で汎用される抗認知症薬,SSRI,bisphosphonateについては十分に検討してから慎重に行うべきである.<br>
著者
笠原 祥平 岩本 俊彦
出版者
東京情報大学
雑誌
東京情報大学研究論集 (ISSN:13432001)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.49-58, 2015-09-30

社会資本整備審議会で論議されてきたわが国の都市政策が、成熟した都市型社会という社会認識に至り、転換点を迎えている。国民の大半が都市に居住する都市化時代から、都市の拡大への対応ではなく、都市機能の質の向上を図りつつ、国土の均衡ある発展、多様性の確保、連携性の促進、災害対応力の向上を目指す基本戦略へと、政策の転身が図られている。国土交通省を中心に描かれた都市政策のビジョンをもとに、持続可能性を重んじ、コンパクトで効率的な都市構造に転換する方策や課題について考察する。
著者
岩本 俊彦 赤沢 麻美 阿美 宗伯 清水 武志 馬原 孝彦 高崎 優
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.565-571, 1999-08-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2 3

暑熱による脱水症が誘因と考えられた高齢者脳梗塞例を通して暑熱, 脱水症と脳梗塞との関係を検討した. 対象は最高気温が連日概ね30度を越えていた2週間に当病院を受診した65歳以上の急性期脳卒中 (高齢猛暑群n=5) である. 対照にはその前後4週間に脳卒中で受診した高齢者の前群 (n=5), 後群 (n=3) を, また65歳未満の若年猛暑群 (n=1), 若年前群 (n=5), 若年後群 (n=2) を各々高齢対照群, 若年群として用い, 臨床所見, 画像所見を後方視的に検討した. 高齢猛暑群は全て脳梗塞で, その頻度は高く, いずれも活動した日の正午までに発症したのが特徴的であった. 1例 (78歳) は橋梗塞例で, 既往に多発性ラクナ梗塞があり, 嚥下障害がみられていた. 2例 (73,89歳) はラクナ梗塞例で, このうち1例は前立腺肥大症による頻尿を恐れて飲水制限をしていた. 他の2例 (76,83歳) は心原塞栓性梗塞例 (1例は再発例) であった. 高齢猛暑群では皮膚緊張度の低下, 舌の乾燥が全例に, BUN/Cr比≧25も透析患者を除く4例中3例に, フィブリノゲン上昇も3例中2例にみられ, 特にBUN/Cr比は若年群より有意に高かった. ヘマトクリット値の上昇はなかったが, 発症時の状況や臨床所見から脱水症が疑われ, 補液したところ, 皮膚緊張度は改善し, 3例の非塞栓性脳梗塞には抗血栓療法を施行して2例は軽快した. 以上より, 猛暑下での過剰発汗が高齢者の脱水症を助長し, 脳梗塞を惹起したものと考えられた. 高齢者は暑熱で脱水症をきたし易く, また脳梗塞が午前中に多かったことから, その予防には起床時の十分な飲水が重要であることが示唆された.