著者
羽生 春夫 深澤 雷太
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.1831-1838, 2014-08-10 (Released:2015-08-10)
参考文献数
10

糖尿病は血管性認知症(VaD)やAlzheimer病(AD)の発症リスクを高めるが,さらにAD病理や脳血管性病変よりも,糖代謝異常に伴う神経障害がより密接に関連している一群に対して「糖尿病性認知症diabetes-related dementia」と呼ぶべき新たな臨床単位を提唱した.臨床像や経過,脳画像所見からもADやVaDとは異なり,今後,診断や治療の観点から本症の病理・病態の解明が必要である.
著者
羽生 春夫 嶺崎 隆幸 大山 満 桝井 武 原田 雅義
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.312-317, 1998-06-25 (Released:2009-06-05)
参考文献数
20

一側脳幹に限局した脳梗塞17例を対象に,SPECTによる脳血流量の左右差を指標として大脳,小脳半球に及ぼす影響を検討した.大脳半球の血流低下がみられたのは7例で,中脳から橋上部までの病巣では同側に,橋中部から延髄における病巣では対側に認められ,これらの病巣はすべて脳幹被蓋を含む病巣であった.小脳半球の血流低下は6例にみられ,橋中部から下部を境に上方(吻側)の病巣では対側に,下方(尾側)の病巣では同側にみられ,脳幹腹側の病巣で認めやすい傾向にあった.大脳半球の血流低下は発症後1~2カ月以内に認められたが,小脳半球の血流低下は数カ月以降の慢性期にまで認められることも少なくなかった.臨床症状との関連は不明であるが,脳幹に限局した小病変でも遠隔領域に血流低下が出現する場合があり,この機序として脳幹を上行,下行する投射線維を介した抑制機序,すなわちdias-chisisとの関連が推測された.
著者
古見 嘉之 清水 聰一郎 小川 裕介 廣瀬 大輔 高田 祐輔 金高 秀和 櫻井 博文 前 彰 羽生 春夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.204-208, 2019-04-25 (Released:2019-05-16)
参考文献数
9
被引用文献数
2 7

一般的にN-methyl- tetrazolethiol(NMTT)基を持つ抗菌薬による凝固能異常や腸内細菌叢の菌交代に伴うVitamin K(VK)欠乏による凝固能異常がよく知られている.今回我々は,NMTT基を有さない抗菌薬で,絶食下で凝固能異常をきたした症例を経験したので,報告する.症例は91歳,男性.体動困難を主訴とし,気管支炎による慢性心不全急性増悪の診断にて入院.禁食,補液,抗菌薬に加え利尿剤にて加療.第3病日,左前頭葉出血を発症し,保存的加療,末梢静脈栄養を10日間投与後,中心静脈栄養を投与した.抗菌薬の投与は14日間の後,終了となった.経過中28病日,カテーテル関連血流感染を発症した為,中心静脈栄養から末梢静脈栄養に変更し,バンコマイシン(VCM),セファゾリン(CEZ)が投与された.投与初日のプロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)は1.2だったが,徐々に上昇し第35病日目に7.4と延長.対症療法としてメナテトレノン10 mg,新鮮凍結血漿(FFP)を投与した.血液培養にてメチシリン感受性コアグラーゼ非産生ブドウ球菌が検出され,VCMは中止とした.中止後第36病日目でPT-INRが1.1まで改善するも第42病日目では1.9まで上昇したため,CEZによるVK欠乏と考え,再度VK,FFPの投与を行い改善した.CEZが終了後,PT-INRは正常範囲内に改善した.Methyl-thiadiazole thiol(MTDT)基を持つCEZは稀ではあるが凝固因子の活性化を阻害すること,長期間の禁食下での抗菌薬投与は腸内細菌による内因性のVKの産生抑制により凝固能異常を招く可能性があり,この双方が本症例では関与する可能性が考えられた.凝固能の定期的検査によるモニタリングが必要である可能性が示唆された.
著者
栗原 龍之典 諸岡 遼 濵中 咲希 田中 久弥 馬原 孝彦 都河 明人 羽生 春夫
出版者
ヒューマンインタフェース学会
雑誌
ヒューマンインタフェース学会論文誌 (ISSN:13447262)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.21-30, 2019-02-25 (Released:2019-02-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

We have studied the screening tool for dementia patients using a P300-based spelling-BCI to develop a new cognitive function evaluation method. We quantified a low attention with dementia using the average distance from the incorrect characters to the correct characters on the Japanese alphabet screen. We called the character distance to Spelling-Error Distance Value (SEDV). We conducted experiments for 24 elderly subjects, and performed regression analysis between SEDV and neuropsychological testing (MMSE, FAB, TMT and DST). As the results, there was a significant negative correlation between MMSE and SEDV (r = −0.41, p < 0.05), and there was a significant negative correlation between FAB and SEDV (r = −0.65, p < 0.001). Next, 24 subjects divided into five groups according to the MMSE scores. There was a difference of SEDV 2.58 characters between MMSE average of 10.5 point group and MMSE average score of 27.6 point group, 2.89 characters between the 10.5 point group and the 24.9 point group. Therefore, SEDV could be an index of the low attention with dementia in the limited MMSE average group. In addition, because of significant negative correlation between FAB and SEDV in less than 24 point of MMSE (r = −0.95, p < 0.05), SEDV could be an index of frontal lobe function deterioration limitedly.
著者
羽生 春夫 佐藤 友彦 赤井 知高 酒井 稔 高崎 朗 岩本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.463-469, 2007 (Released:2007-09-06)
参考文献数
27
被引用文献数
4 7

目的:老年期の認知症患者について記憶障害に対する病識の程度や有無を比較検討した.方法:軽症のアルツハイマー病(AD)63例,レビー小体型認知症(DLB)17例,血管性認知症(VaD)14例および軽度認知障害(MCI)56例を対象とし,記憶障害によって日常生活上起こりうる問題点を標準化された質問票(日本版生活健忘チェックリスト,EMC)を用いて,患者と介護者から同時に評価し,両者の差から病識の程度や有無を判定した.結果:各群で患者EMCスコアに相違を認めなかったが,介護者EMCスコアはMCI群,DLB群,VaD群と比べてAD群で有意に高く,病識低下度(介護者EMCと患者EMCのスコア差)はAD群で有意に高くなった.有意な認知機能障害を認めない老年者コントロールの病識低下度の平均+2標準偏差を超えるものを病識低下ありと定義すると,AD群の65%,MCI群の34%,DLB群の6%,VaD群の36%が該当し,AD群が最も多く,DLB群は最も少なかった.AD群で介護者が配偶者による場合と配偶者以外による場合に分けて比較したが,両群で介護者EMCスコアに相違を認めなかった.結論:軽症のADやMCI患者の一部でさえも記憶障害に対する病識の低下を示す場合が少なくなく,有効かつ安全な治療や介護を行う上で留意する必要があると考えられた.一方,その他の認知症,特にDLBでは明らかな病識低下例を示す割合が少なく,ADとは異なる病態の相違が示唆されたのと同時に,この記憶障害に対する病識の相違が鑑別点の一つとして活用できる可能性が示された.
著者
馬原 孝彦 秋元 治朗 羽生 春夫 清水 聰一郎 宮澤 啓介 橋本 孝朗 赫 寛雄 織田 順
出版者
東京医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

筋萎縮性側索硬化症脊髄前角細胞での14-3-3白eta isoform発現を確認し、リン酸化TDP43との共局在も確認した。リン酸化TDP-43の細胞質移行と前角神経細胞死関与にeta isoformの関連を指摘。脳梗塞急性期虚血コア周辺神経細胞でのHMGB1の細胞質での局在を確認。新規脳梗塞治療法に寄与できる。対照例29例、アルツハイマー病例84例、パ-キンソン病例8例、DLB例25例の血液中HMGB1濃度をELISA法で測定。順に、5.4, 6.6, 10.7, 8.1ng/mlで有意に増加。オートファジ-関連物質Beclin1の頸動脈病変での発現を確認しオートファジ-の関与を指摘した。
著者
羽生 春夫
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.222-226, 2006 (Released:2011-07-05)
参考文献数
7

【要旨】老年期の代表的な認知症といわれるアルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、血管性認知症(VaD)の早期診断と鑑別における画像検査の役割について概説する。MRIは脳の微細構造を含む形態学的変化の描出に優れ、ADの主病変となる海馬や海馬傍回(内嗅野皮質)を明瞭に識別できる。視覚的にも萎縮の評価は可能であるが、voxel-based morphometryによって客観的な形態学的変化の評価が容易となってきた。最近登場したVSRADという解析ソフトを用いると、早期ADやMCI患者で内嗅野皮質を含む側頭葉内側部の萎縮が検出でき、その他の認知症と比べてより高度な萎縮を確認できることからADの早期診断や鑑別に期待される。SPECT画像を3D-SSPなどから統計学的に解析すると、ADの病初期やMCIのrapid converter群では後部帯状回や楔前部の有意な血流低下が認められ、早期診断に活用できる。また、DLBでは後頭葉内側の血流低下が、VaDでは前頭葉や帯状回前部の血流低下がみられるなど、それぞれ特徴的な脳血流低下パターンを示すことから鑑別診断にも役立つ。形態画像や機能画像の統計学的解析によって、ADを代表とした認知症の早期診断や鑑別がいっそう容易となり、今後の薬物治療にも大きな貢献をもたらすものと期待される。