著者
尾島 由紘 岩本 嗣 西岡 求 紀ノ岡 正博 金谷 忠 浅田 雅宣 田谷 正仁
出版者
日本植物工場学会
雑誌
植物環境工学 (ISSN:18802028)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.176-183, 2008-09-01
参考文献数
21

植物不定胚の同調化は,その後の植物体への安定な再生を実現する上で重要である.本研究においては,アスパラガス(A. officinalis L.) &lsquo;ウェルカム&rsquo; から誘導された不定胚の同調化手法の確立ならびに長期継代培養中における不定胚の形態および遺伝的安定性の評価を行った.不定胚の誘導については,ECの初期PCVに依存して,得られる不定胚のPCVが変化することがわかった.ECの初期PCVが1.0&times;10<sup>-2</sup>m<I>l</I>/100 m<I>l</I>-mediumのとき,誘導後42日後の不定胚PCVが43 m<I>l</I>/100 m<I>l</I>-mediumと最大に達した.このとき得られた不定胚をメッシュで分級したところ,心臓胚から魚雷胚へ移行する不定胚を多く含む画分が60.6%となり,不定胚誘導に適した条件であることがわかった.さらに,継代培養中の不定胚の投影面積ならびに円形度は,不定胚の生長過程を評価するパラメータとなりうることがわかった.誘導42日後の不定胚を用い,メッシュを組み合わせた分級収集を行ったところ,約90%の不定胚が平均投影面積1.0-4.0 mm<sup>2<sup>,円形度1.2-1.6の領域に含まれ,不定胚が同調化されていることが示された.しかし,さらに長期継代培養を続行したところ,誘導70日後において不健全な形態を示す不定胚の存在が認められた.誘導後42日後と70日後の不定胚から再生された植物体を対象にRAPD-PCR法により遺伝子解析を行ったところ,長期継代を経た一部の不定胚は遺伝子レベルで変質している可能性が示唆された.
著者
飯島 陽子 長尾 望美 小池 理奈 岩本 嗣
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 68回大会(2016)
巻号頁・発行日
pp.82, 2016 (Released:2016-08-04)

【目的】ゴボウは、日本で食される代表的な根菜の一つであり、独特な香りが特徴である。また近年、各種野菜のスプラウトは栄養価が高く人気が高まっているが、ゴボウスプラウトはまだほとんど市場に出回っておらず、その風味特性については不明である。そこで本研究では、ゴボウおよびゴボウスプラウトの香気特性に着目し、香気成分の分析、組成比較を行った。 【方法】ゴボウはスーパーで購入し、ゴボウスプラウトは種子を2週間既定条件で栽培した。それぞれのサンプルを液体窒素で凍結粉砕し、これを分析サンプルとした。そのヘッドスペースガスにおける香気成分をSPME法で捕集し、GC-MS分析を行った。また、GC-MSで検出された各成分についてはGC-においかぎを行い、香気特性を調べた。 【結果及び考察】ゴボウの香気成分のうち、2-methoxy-3-(1-methylpropyl)-pyrazineおよび2-methoxy-3-(2-methylpropyl)-pyrazineが最もゴボウ様香気に寄与していた。主成分分析によってゴボウとスプラウトの香気組成を比較したところ、スプラウトでは、pyrazine類のほかにc-s-3-hexenalなどの青葉の香りに関与する成分も検出され、スプラウトのフレッシュ香に関与するものと考えられた。
著者
石間 妙子 村上 比奈子 高橋 能彦 岩本 嗣 高野瀬 洋一郎 関島 恒夫
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-35, 2016-07-28 (Released:2016-09-05)
参考文献数
37
被引用文献数
1

近年,水田生態系の保全を目的とした環境保全型農業が全国各地で行われており,その有効性が数多く報告されている.しかしこのような農法は,慣行農法に比べて作業コストや技術習得のための時間がかかるため,取り組みの規模が限られている.水田生態系の改善を広く実施するためには,全国の水田の 6 割以上を占める圃場整備済み水田においても導入可能であり,かつ現状の農法と用水供給体制のままで,低コストで導入できる保全手法を確立する必要がある.そこでわれわれは,“江(え)”とよばれる圃場の一部に併設された土水路状の構造物に着目した.江は 1 年を通して湛水状態が保たれ,水生動物の保全に一定の効果があると報告されているが,圃場整備済みの水田における有効性や創出手法はわかっていない.そこで本研究では,暗渠排水が導入された圃場整備済み水田における江の創出手法を確立するため,後述する 2 つの手法が,通年湛水および魚類群集に与える効果を検証した.1 つ目に,江の水抜け防止対策として防水シートを設置した江と未設置の江を創出し,2 つの江の間で水深を比較したところ,明瞭な水位差は見られず,どちらの江も 1 年を通して湛水状態を維持できることがわかった.また,魚類の種数,種多様度,総個体数,および種別個体数に関しても,2 つの江の間で有意差は認めらなかったことから,江における防水シートの設置効果は低いことが明らかとなった.2 つ目に,江の普及に対しては,江の創出による農地の転用面積が少ない方が有利と考えられるため,サイズの異なる江を 3 タイプ創出し,サイズによる効果の違いを検証した.3 タイプの江において水深,魚類の種数,多様度,総個体数,魚種別の個体数を比較したが,いずれの項目もサイズによる有意な差異は認められず,小サイズの江であっても魚類の生息環境として機能することが明らかとなった.これらの結果から,圃場整備済み水田における江の創出は,防水シートの設置状況や江のサイズに関わらず,魚類保全に有効であることが示唆された.